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キス  作者: 川木
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好きと伝えるあたし

「明菜さん…あたしは明菜さんが好きだよ。男の子も女の子も全部あわせた全人類の中で、一番好き」


 それが素直な気持ち。明菜さんはあたしをどう思ってるのかわからない。わからないから、あたしの気持ちだけはわかって欲しかった。


「沙耶、ほんとに私のこと好きなの?」


 明菜さんは何故かそんなことを言う。今まで散々好きだと伝えたつもりだった。伝わってなかったの?

 それはすごく悔しくて、怒鳴り散らしたくなるのを我慢して、あたしはそっと答える。


「好きだよ。なんで、それは疑ってほしくない。あたしのこと好きでないとしても、あたしの気持ちを疑ったりはしないで」


 こんなにも好きなのに、全然伝わってないの? どうすれば伝わる? あたしの体を開けて見てほしい。中には明菜さんへの気持ちしかないから。


「……沙耶は私のなにが好きでそんなこと言うの? 私のこと、まだよく知らないでしょ?」

「…そりゃ、まだ明菜さんのこと何もかも知ってるわけじゃないけど」


 それだけが、どれだけ知ってるかが気持ちに直結するとは思えない。でも明菜さんが知らなきゃ恋だと認められないというなら、全部教えてほしい。


「でも、一緒に生活して、ちょっとずつ知る度に、どんどん明菜さんのこと好きになってる。それじゃ駄目? 足りないっていうなら、もっと明菜さんのこと教えてよ」


 明菜さんはあたしのことをじっと見てる。揺れる瞳からは感情をうかがいきれない。今、何を考えてるの?


「…沙耶」

「なに」

「焦げるよ」

「あっ」


 逃げられた。









「明菜さん」

「んぐっ、ど、どうしたの?」


 ドアを開けると机に向かってた明菜さんは慌てて何かを飲み込んだ。机にはポテチがのっていた。お腹が減っていたわけではないらしく、明菜さんは袋を閉じつつあたしに座るようすすめた。


 前と同じくベッドに座ったけど、明菜さんはあたしに向いてはくれてるけど、勉強机の席に座ったままだ。


「もしかして勉強の邪魔しちゃった?」

「あ、いや、大丈夫だけど」


 言いながら明菜さんは手にしていた本を隅に寄せた。あ、漫画か。じゃあいいか。


「明菜さん、あのさ」

「う、うん、なにかな?」

「あの…明菜さんのこと、教えてほしい」


 さっきは話が途中で逃げられたけど、今度はちゃんと話をしなきゃ。まずまだあたしの気持ちが信じられないと言うなら、話をしよう。

 明菜さんの全てを知るにはお話だけじゃ足りないけど、でも明菜さんが恋愛感情になるに十分と認めてくれるまでは知れると思う。


「そ、それ自体は、別に、いいんだけど……私のこと、好きになるため、なんだよね?」


 戸惑ったように歯切れ悪く尋ねてくる明菜さんの姿は、いつになく気弱気でなんだか可愛らしい。あたしは珍しい可愛らしさににやけそうになるのを我慢しつつ、どう返事をするか考える。

 好きになるため、と言う言い方はおかしい。だってもう好きだし。でも間違いでもないような。うーん。


「うん。というか、明菜さんが納得してくれるまで、かな。あたしとしては、十分明菜さんのこと好きだけど、まだ足りないって思うんでしょ?」

「た、足りないってわけじゃないんだけど……あのさ、沙耶は、恐くないの?」

「え?」


 恐い? え、と……質問の意図がわからないけど、明菜さんも不安そうだし、とにかく答えよう。


「それは、恐いよ」


 そりゃ、恐いか恐くないかと聞かれたら恐いに決まってる。すでに気持ちを伝えてはいるけど、明菜さんの気持ちがわからない。

 明菜さんがどう思うのか、どう反応されるのか、明菜さんにアプローチする時だっていつもドキドキして、不安で、嫌われないか恐くてたまらない。


 そんなの当たり前の乙女心なのに、何故か明菜さんは凄くきょとんというか不思議そうに不可解そうに首を傾げる。

 あたしはどんな脳天気な人だと思われてるんだ。あたしの本気が伝わってないのかな。凹む。


「なんでそんな意外そうなの? 好きな人に嫌われたらって思うと、恐いに決まってるよ」

「…もし私と付き合ったとして、お父さんとかに言えないし、他人にも変って思われるかも知れないよ?」


 続けてされた明菜さんの質問に、今度はあたしがきょとんとしてしまう。何だ、恐いかと言うのは、そっちか。


「そんなのは、全然恐くないよ」

「え…」


 明菜さんの反応に、もしかしたら明菜さんはそれが恐くて返事をしてくれないのだろうかと推測した。


 確かにあたしと明菜さんは女同士で、しかも姉妹になってしまった。でもそんなの全然問題じゃないと思う。

 そりゃあ、同性愛はあんまり人には言えないし、人によってはひかれるだろうけど、別に知らない人にどう思われたっていい。少なくともみっちゃんは普通に応援してくれてる。

 親だって別に反対されても、そんなの男女だってよくある。ロミオとジュリエットみたいに。隠せばいいし、ばれて引き離されるっていうなら、駆け落ちでもなんでもすればいい。さすがに学生の間は難しいけど。


「例え誰になんと言われても、あたしは明菜さんが好きだよ。人にどう言われても、あたしの気持ちに関係ない」

「う……じゃ、じゃあお母さんたちにやめろって言われたら?」


 その『やめろ』っていう言い方、付き合うこと前提みたいな言い方じゃない!? やばい! 完全にこれはいける!


「明菜さん!」

「な、なに」


 好機を逃さないため、あたしはベッドから立ち上がって明菜さんにつめより、手をとって両手で握りしめる。


「例え後ろ指さされても、親に反対されても、あたしが守るから。あたしは永遠に明菜さんを愛してる」

「さ、沙耶…」


 明菜さんは頬をそめていて、オトメチックな顔になっていてちょう可愛い! 普段は大人びてて綺麗なのに、めちゃかーわーいーいーー!


「明菜さん…、可愛い」

「ばっ、馬鹿。年上を可愛いとか、言うな」

「だって可愛いんだもん。明菜さん、大好きだよ」


 あたしは真っ赤な明菜さんが愛おしくて、そっと顔をよせた。










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