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キス  作者: 川木
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回想するあたし

「いただきます」

「……」


 手を合わせてから食べ出した様子を、ばれないようにちらちらとみながら伺う。


「……」


 黙々と食べてる。いつも通りだ。あたしはこんなに、動揺してるのに。

 ドキドキする心臓を抑えられない。だって考えても見てほしい。好きな人からキスされて、動揺しないわけがない。

 明菜さんが好きだ。ずっと前、明菜さんを初めて見た時から、好き。

 でも接点なんかまるでなくて、声をかける勇気もなくて、ただ見つめるだけだった。

 それがつい1ヶ月前、変わった。母の再婚により、明菜さんと住むことになった。心踊らないわけがない。明菜さんの視界に入るどころか、これからは毎日一緒だ。

 もしかしたら、頑張ったら、明菜さんにもあたしを好きになってもらえるかも知れない。そんな思いは、明菜さんからして初対面の日に崩れ去った。









「沙耶」

「は、はい」


 名前を呼ばれて、微笑みかけられ、心臓がいたいくらい高鳴った。もう死んでもいいくらいだった。


「私のことは、お姉ちゃんでもお姉さんでも、何なら姉貴でもいいから。好きに呼んでね。敬語も使わなくていいよ。これから家族になるんだから」


 絶句した。そう、当たり前で今更だけど、あたしと明菜さんは単なる同居人になったわけじゃない。姉妹として、一緒に住むのだ。家族として。

 これから頑張って好かれたとしよう。家族として。家族として、以外に好かれるはずがない。恋人から家族になるんじゃない。最初から最終段階。それじゃもう、どれだけ頑張っても恋人になれるわけがない。


「い、嫌です」

「え?」


 思わず口が動いていた。まさか断られると思わなかったのか、驚く明菜さん。そりゃそうだ。あたしだってもし明菜さんに恋をしてなきゃ、美人なお姉さんができてウレシーと喜んでお姉ちゃんと呼んだはずだ。

 でもあたしは、知ってる。明菜さんが見た目通り美人で大人しい人じゃないこと。そんな明菜さんが好きだと、恋愛感情を持ってしまってる。


「な、何でもいいなら、あ、明菜って、呼びます。あ、敬語はやめます、やめる、ね」

「あ、うん。敬語はいいけど、呼び名、呼び捨て?」


 怪訝な顔をされる。どれだけ反抗期でもいきなり呼び捨ては有り得ないとか考えてるのだろうか。

 ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! ああ、だってだって、妹として好かれちゃったら終わりなんだもん! 妹キャラになるわけにはいかない!


「べ、別にいいでしょ」

「よくない。お姉ちゃん、でしょ。はい、リピートアフタミー」

「嫌」

「……」


 睨まれた。ううぅぅ、めちゃくちゃ怖いよぅ。しかも普通でも怖いのに、嫌われたかもとか思うも怖くてちびりそうぅ。


「じゃあお姉さんでも姉貴でも、何なら姉上でもお姉さまでも、この際姉御でもいいから。リピートアフタミー」

「う、ぜ、絶対嫌」


 姉御ならまあ姉妹じゃなくて友達でもおふざけなら使わなくないし、と妥協しそうになったけど拒否する。妹キャラがダメなんだから、姉呼びしたり下手にでるわけにはいかない。

 本当はお姉さまとかめちゃくちゃ呼びたいけど! 許してお姉さま!


「沙耶、よく聞いて」

「な、なんですか?」

「私たちは姉妹になる。血は繋がってないけど決定なの。でも血が繋がらないからこそ、家族になるには努力が必要なの。私のことが気にくわなくても、形だけでも姉と呼ばなきゃ、小百合さ、じゃなくて、お母さんも悲しむよ」

「う」


 それは、わかってる。お母さんとお父さんが結婚するのはおめでたいし、お母さんが幸せそうで嬉しい。あたしが明菜さんを姉と呼ばなきゃ、姉と認めない、ひいてはこの結婚に反対と思われても仕方ない。

 でも、でも…っ。


「嫌なもんは、嫌っ。あんたのことをお姉ちゃんなんて、絶対嫌っ」

「……わかった」

「え?」


 わ、わかったって? え? もしかしてあたしの気持ちに気づい


「お前が私を嫌いなのはよくわかった。いい覚悟だてめぇ。ああ?」

「ひぃぃ」


 そんなわけなかった。


「あ、あたしのこと殴ったりいじめたら、お母さんたちに言うから!」

「なっ……ちっ」


 襟首つかまれてびびって、なりふり構わずちくり宣言をすると離してくれた。よ、よかった。お母さんのことも気遣ってくれる本当は優しい人だから、思いとどまってくれると信じてたよ!


「……わかった。これから沙耶じゃなくて、妹って呼ぶ」

「え? …え? 呼び名が妹?」

「妹、顔合わせしたし、そろそろ下行くよ。お父さんたちの前であんまりつんけんしないでよ」

「え、ちょっ」









 そして、今にいたる。嫌われたくなくて気をひきたくて、そばにいたくて、あたしは明菜さんの隣に座って話しかけてた。

 でも明菜さんがあんまりにそっけないから、段々あたしもエスカレートして、いっそ怒らせればあたしを見てくれて、段々偉そうになってた。

 ていうかそもそも、まだ全然明菜さんの近くにいれることが嬉しすぎて慣れないし、正直てんぱりすぎて、やりすぎてる自覚はあった。

 でも最悪殴られても、まさかキスされて、しかもまたキスするぞと脅されるとか予想外すぎる。


「…何?」

「な、なんでもないです」

「……別に、用がある分には怒らないから」

「あ、う、うん」


 はぁぁ。これから、どんな顔で明菜さんのこと見ればいいんだろ。











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