問い詰めるあたし
「沙耶」
明菜さんがあたしを呼びながら、優しく微笑む。それだけで心臓がうるさくなるのに、明菜さんは何でもないみたいにあたしにキスをしたり、触ってくる。
正直なところを言おう、たまりません。生殺しにもほどがある。リアルにあたしの下着が何枚犠牲になってるかわかってないでしょ。
でも許しちゃう! だって好きだもん! ああ、なんでまだあたしと恋人になるって言ってくれないんだろう。
シャイなの? それとも口で言うとかしゃらくせぇ! 態度でわかれよ!ってこと!?
ああ、はっきり言ってもらいたいような。でもこのまま流されるのも悪くないような…。どうするべきか。
あたしとしてはじらされるのも嫌いじゃないけど、毎日気が気じゃないし、できればさっさと最後までいっちゃいたいなー、みたいな。でもあんまり催促するのも、淫乱みたいに思われたくないし。
「ということなんだけど、どう思う?」
「駄目駄目でしょ」
「え、いや、そういうんじゃなくてね」
駄目だしじゃなくて、明菜さんとどうしたら結ばれられるかを聞いてるんだけど。ていうか何が駄目? あたしの態度?
「あのさ、よく考えてみて、その明菜さんとやらの行動」
「行動?」
「告白してきた妹の好意をいいことに、返事もせずにセクハラ三昧」
「かっこいい」
「頭湧いてる?」
「ひどいっ。親友になんてことを」
「今のは正直、友達やめたいレベル」
「嘘っ」
「嘘。こんなんでやめてたら、とっくに顔見知りもやめてる」
「……今の、ひどくない?」
「沙耶、目を閉じて」
「え、う、うん」
とりあえず言われるままに目を閉じる。真面目なみっちゃんのことなので何かしら意味があるのだろう。
「あるところに男の子がいました」
「うん? 急になに?」
「いいから想像して」
「はい」
想像する。男の子ね。仮にA君としよう。
「男の子にある女の子が告白しましたが、男の子は返事を保留にします」
「ふむふむ」
まぁよくある話だ。
「男の子は女の子が好きなのかよくわかりませんでしたが、とりあえずスケベ心だけは人一倍だったので、嫌われたくない女の子の心を利用してやっちゃいました。あげくふりました。どう思う?」
「その男の子最低だよ。もしかしてみっちゃんの実体験? どこのどいつ!? 大丈夫、あたしがなんとかするから!」
「あほ」
「あいて」
まさかと思い心配したのに、何故かたたかれた。軽くだけど。
「な、何でたたくの? あたしはみっちゃんを心配して…ま、まさか、そこまでされてもA君のことを?」
「誰さ、A君」
「え、みっちゃんの恋人?」
「いないし」
「あ、片思いか」
「いないから」
「? ……え、今の小話なに?」
「あんたのことだけど?」
「……あ」
本当だ。いや、立場も性別も程度も違うし、明菜さんはやりすてなんてしないし。
「……」
「ちょっとは客観的な自分の立場わかった?」
「……ま、まぁ」
みっちゃんは明菜さんのこと詳しく知らないわけだし、さっきのあたしみたいに心配してもおかしくない。
「ね? とにかく、いったん気持ちをはっきりしてもらいなよ」
「わ、わかった」
うーん、確かめなくても明菜さんもあたしに恋愛感情もってくれてると思うんだけど、でもそれがどれくらいの強さかはわかんないし。…勇気をだせあたし!
○
「可愛いね」
家に帰って夕飯をつくっていると、そんなことを言いながら明菜さんはあたし抱きしめてきた。
ううう。やばいよう。ていうか明菜さんあたしのこと好きだよね!? これだけべたべたしてくれるって完全にあたしに好意持ってるよね!?
「あ、あの、明菜さん」
「なに?」
「…す、好きです! 付き合って下さい!」
「……」
え、な、なんですかその間は。あれ? そういうタイミングじゃなかった? 明菜さんもあたしのこと好きになってくれたけどシャイな明菜さんだから言葉じゃなくて体で言ってた系じゃないの? だと思ったから確認したくて改めて告白することでしたんだけど?
「……」
「あ、あの、何かしら、答えてほしいのですが」
「…さ、沙耶」
明菜さんは戸惑うようにしながら、あたしを離して一歩下がった。
え? な、なに? なんでそんな変な顔してるの? あたしの気持ちならとっくに知ってるよね?
「私…私と、沙耶は、付き合わない」
「えっ…」
「だって、女の子同士だから」
「……え?」
なん、え? な、なんで? なんで、そんな、い、今更? そんなこと最初からわかってるし! それでも明菜さんが好きで、明菜さんだけが好きだから告白したんだよ!
そんな漠然としたような理由じゃ納得できない! 私を好きじゃないならそう言えばいいのに、なんでそんな理由なの!? だいたいそれならなんで、あたしにあんなことしたの!?
キスされるのも、スカートめくられるのも、お尻や胸を触られるのも、全部恋愛感情だと思ってるから許せるのに! ……いや、普通に悦んでたけどさ。
「明菜さん、そんなんじゃ納得できないよっ。……あたしにキスしたのはなんで?」
「…キスしたかったから。悪い?」
「わ、悪くはないけど」
そこで開き直らないで。どきっとするじゃない。
「……じゃあ、あたしにえっちなことしたのも、ただの遊びなの? 恋愛感情は全然ないの?」
「だ、だから、私たち、女の子同士だし」
「そんなの関係ない! あたしのこと好き? 好きじゃない!? どっちかで答えてよ!」
「……ごめん」
遊びだった。単純に、馬鹿みたいに懐いてるあたしで遊んでただけなんだ。
「ほんと、ごめん。まだ、答えられない」
「へ…」
そ、そういう意味の、ごめん? 遊びとかじゃなくて? なら、恋愛よりの好意は確実にあるってこと?
「結論がでるまではもうセクハラしないから、もう少しだけ、待ってくれない?」
「う、うん。大丈夫。待つのは得意だから」
明菜さんを遠くから見て、ひたすらチャンスを待ち続けたあたしには、明菜さんを待つくらいわけはない。
だから待つよ。明菜さんがあたしのこと考えてくれてるなら、いくらでも待つ。だからもう、女の子同士だからでだけでは断らないで。お願いだから。
「明菜さん…あたしは明菜さんが好きだよ。男の子も女の子も全部あわせた全人類の中で、一番好き」
あたしはただ明菜さんが好きなだけなの。だから性別なんてどうしようもないことを理由にはしないで欲しい。
○
最後まで書こうと思ってましたが、色々イレギュラーもあって体調も崩していて全然できませんでした。とりあえずまた一話ずつ更新していきます。




