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キス  作者: 川木
17/31

おやすみなさい

 沙耶に告白されてから、数日がたった。何となく沙耶にキスしてみたり、ほっぺひっぱったりしていじってみたりした。

 沙耶は涙目になりつつ嬉しそうで、伺うような視線で私を見ていて、泣きそうなくせに私に媚びうるみたいに笑いかけてきて、すり寄ってくる。

 そういうところがすごく可愛くて、いじめたくなる。もちろん我慢するけど。沙耶がマゾだからいじってあげてるだけで、私が泣かせたいからいじめるのは駄目だ。


「あ、明菜さん」

「ん? どした?」

「その…い、一緒に寝ても、いい?」


 話を聞くに、沙耶はさっき見ていた水曜ロードショーのホラーのせいで、ひとりで寝るのが怖いらしい。あー、びっくりした。そういう意味か。


「いいけど、蹴っ飛ばして落ちても文句は言わないでよ」

「言わないよ。…お、落ちないように、抱きつくのは、あり? ほ、ほら、怖いし」

「いいけど」


 ホラーみて怖いから一緒に寝てとか、めちゃくちゃ可愛いと思うし全然構わないけど、そう赤い顔をされると何か他の意図を感じてしまうのは勘ぐりすぎだろう。

 逆に、私がよこしまなのかも知れない。うん、考えすぎだ。……そうか、逆か。逆に、ベッドにいれてあげるんだから、私がちょっとくらい悪戯しても許される方か。


 こうして私は、沙耶をベッドにいれてやることにした。









「一緒に寝てもいい?」


 この一言にどれだけ勇気をつかったか、きっと明菜さんには一生わからないんだろうな。あたしの言葉を疑いもしない。

 そりゃホラーは得意じゃないけど、いくらなんでもひとりで寝れないとか、そんな訳がない。こうして言い訳にするために自発的に明菜さんと見るくらいはできる。


「なに遠慮してんの? ほら、入って」

「う、うん」


 促されて部屋に入る。枕をだく腕に力がはいる。


 さすがに、夜這いとか、そこまでは考えていない。でも同じベッドというこれ以上ない密着状態になれる。

 最近は明菜さんからキスしてくれて、あたしに触れてくれて、より距離感が近くなった。もっと近づいて、いい雰囲気をつくって、あたしを意識してほしい。


「明菜さん、布団、はいろうか」

「え、もう寝るの?」

「え、えっと、布団の中で、話したい」


 時間はまだ10時半を過ぎたところだったけど、お願いすると明菜さんは仕方ないか、なんて言いながらもベッドにはいり、掛け布団をめくってくれた。


「ほれ、さっさとお入り」


 その姿はなんだか艶めかしくて、あたしは無意識に唾を飲み込んでから、誤魔化すために慌ててベッドに潜り込んだ。


「いつまで枕抱いてるの? ほら、頭のとこ置きなさい」

「あ、ありがとう」


 明菜さんはあたしから枕をとって、自分の枕の隣に並べた。枕の間は重なるほどにきっちり詰まってて、今更なんだかはずかしくて、先に枕に頭をうずめた。


「さー、や」

「んぎゅ」


 掛け布団をかけてくれた手のまま、明菜さんはおでこがくっつくくらい近くに頭をおろし、あたしを抱きしめた。

 うわぁぁ、顔近い近い近い!


 今までもキスしたり抱きしめられたりしてるけど、こうして優しく真正面から包容されて、興奮しないわけがない!


「あ、あああ明菜さん!」

「沙耶」

「はいっ!」

「うるさい。夜だよ? 時間考えて」

「……ごめんなさい」


 その通りだった。明日はひさしぶりに二人揃ってお休みだからと、お母さんとお父さんがさっさと寝室にひっこんだからって、油断しちゃだめだ。


「……ねぇ、沙耶」

「なに?」

「……今も、私とえっちなことしたいって思ってる?」

「はっ、う……え、んと………うんって、言ったら、キス以上のこと、してくれる?」

「んー…とりあえず、いつも以上のキスくらいならいいよ」


 ごくり、とまた生唾を飲んだ。でもさっきよりずっと大きく聞こえた。きっと明菜さんにも聞こえただろう。恥ずかしい。がっついてるのが丸わかりだ。


「してほしい?」


 思わず視線を伏せるあたしに、明菜さんは意地の悪い笑みを浮かべながら聞いてくる。わかってるくせに。


「……ぅん」

「聞こえない。もうちょっとだけ、私にだけでいいから、聞こえるように言って」


 他の誰でもなく、明菜さんにだから言うのが恥ずかしいのに。視線をあげるとにやにやした明菜さんと目があう。逃げられないと思う。そんな気は元々ないけど、そんな風に思うと余計にドキドキしてしまう。


「あ、明菜さんと、大人のキスが、したいです」

「よくできました。いい子には、ご褒美をあげるね」


 耳元でされた囁きに背中をぞくぞくさせる間もなく、明菜さんはあたしの顎に指先をかけて持ち上げて、キスをした。


「ん、んん」


 唇が触れた、と感じて温もりにとろける前に、明菜さんはあたしの口に舌をいれた。


「っ」


 意識がとんだかと思った。ぬるぬるして、熱い。気持ちよすぎて、死にそう。


「ん、はぁ、あ、よだれ」

「あ、はい」


 息継ぎにキスをやめてちょっとだけ顔をあげた明菜さんの唇からよだれが落ちてくる。あたしは舌をのばしてそれをすった。

 よく考えたらおかしい気もするけど、頭はぼーっとしてるし、明菜さんがしろと言うから、抵抗なんかなかった。


「……もう一回、したい?」

「…お願い、します」

「いいよ」


 キスをされる。今度は上から若干覆い被さるようにしてキスしてきた。どろどろと明菜さんの唾液が流れてくる。


「ん、こぼすな、よ」

「ふぁ、ふぁい」


 頭がくらくらして、あたしは明菜さんの唾を飲み込む。どろついていて量が多いから飲み込みにくい。唾を飲んでるっていうのに、嫌悪感とかは全くなくて、それどころか、むしろ興奮したあたしは変態なのかも知れない。

 飲み込みきるころには、はっきりと濡れてきているのを自覚して、余計にそんな自分にすら興奮した。


「あ、明菜さん」

「なに? 言ってごらん」

「…好きぃ」

「…ばーか」


 明菜さんはちゅっと軽い音をたてて、あたしの唇に触れるだけのキスをした。さっきの余韻も残ってて、痺れるように気持ちいい。

 ああ、明菜さん、好き。好き、大好き。もっと、えっちなことしたい。あたしのすべてを見て、感じて、独り占めしてほしい。あたしを明菜さんだけのものにしてほしい。










順番を変えたかったので。

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