おしおきする私
さて、どうやって私を敬わせるか。ぱっと思いつかないので、とりあえずいったん飲み物をとってくることにする。今夜は長くなりそうなので、コールコーヒーにした。
「お待たせ」
お盆はそっと机に置く。
「明菜さん、のめないから、そろそろほどいてよ」
「んー、仕方ない。飲ませるよ」
わざわざほどくのは面倒なので、そのままのませることにした。
「え、ちょっ、大丈夫? こぼれない?」
「大丈夫大丈夫」
沙耶の頭を片手で固定して、口にグラスをあててそっと傾ける。
「んんっ」
「ん? どしたの?」
何だか苦しそうにしたのでやめてあげる。沙耶は飲み込んでからこほこほと咳き込んだ。
「に、にがーい。明菜さん、ミルクいれてよ」
舌をんべーと出す沙耶は涙目で、ちょっとどきっとした。
「ごめんごめん」
そういえばまだいれてなかった。とりあえずいれてあげるけど、あー、なんだこの感じ。心臓どきどきする。
涙目の沙耶はやけに可愛い。というか、ぞくぞくする。もっと涙目にしたい。……いやいや、なにを考えてるんだ私は。そんないじめっ子みたいなことは一番嫌いだったはずだ。
「? どうしたの?」
「いや、うーん」
えっと、とにかく、とりあえず今は上下関係を教えることに集中しよう。ひざまずいて足を舐めさせたら屈辱的だし、私への反抗心とかはなくなるんじゃないかな。でもやりすぎな気もする。
「沙耶」
「なに?」
「何をされたら嫌?」
「え、うーーん、そんなこと言われても。あ、明菜さんになら、別に、何されても」
ううー、な、なんなんだろう。そういう従順すぎることを恥じらいながら言われると、何だか落ち着かない。明菜さんのためなら死ねるっす!と言われた時は全然気にならなかったのに。恥じらいの有無かな。
「ふーん、じゃあ、こんなことされても?」
自分でも判断つかない気持ちをとにかく隠したくて、私は沙耶を仰向けに押し倒して覆い被り、沙耶の頭を掴んで上げさせる。
「ぐ、う、あ、明菜さん? ちょっと苦しいんだけど」
むむむ。余計なことは考えるなよ私。
とりあえず、身動きがとれなくなるのがやっぱり苦しいし屈辱的だよね。
「沙耶」
「な、なに?」
「私のこと好き?」
「う、うん。好き、です」
私は沙耶のほっぺをひっぱる。
「いー、いひゃ、いひゃひー」
涙目になる。可愛い。思わず手をだしてしまったので手をとめて、誤魔化すために赤くなった頬に唇をよせる。
「ひゃん、あ、明菜さん…」
けして、あんまりに沙耶が可愛いから私がキスしたかったわけではない。ないったら、ない。
「沙耶、私のこと好き?」
「好きです」
「今、意味もなくほっぺたつねったのに?」
「明菜さんに、ほっぺたつねられるの、嫌じゃないです」
「へえ」
なんだろう。本当に、ドキドキがとまらなくなってきた。沙耶のほっぺを今度は手加減なしにつねる。
「ーっ」
涙目から、ついに涙がこぼれた。ベッドについたらイヤだから、舐めとる。美味しそうに見えたからじゃない。
「泣かされてるのに?」
「…好きです」
「沙耶って、マゾなの?」
「う、そんなことは、ない、と、思うけど。でも、明菜さんがしたいなら、いいっていうか」
「ん」
「ん!?」
馬鹿のようなことをいう沙耶に何となくキスをした。顔を離すとアホのように呆けていた。
「よし、そろそろやめようか」
やっぱり沙耶は従順のようだし、さっきはちょっと調子にのってただけだろう。こんなに私のことを好きだと言ってるんだし、もう生意気なことを言うこともないだろう。
「あ、や、やめるの?」
「え?」
上からどくと何故か沙耶は転がったまま見上げてくる。
「……やっぱり沙耶、マゾなの?」
「そ、そんなことはない、よ」
思いっきり目を逸らされた。マゾとか、やばい。殴ったりしても喜ぶし、苦手なんだよね。あ、いや、沙耶は別に殴る必要な……いや、逆に殴らなきゃいけないのか?
「沙耶、とりあえず手を外すけど、いい?」
「あ、はい」
起こして紐を外した。うん、跡はついてない。
……ど、どうしよう。なんかすごい見られてる。というか、え、殴ればいいの? でも傷つけたくない。えーっと、とりあえず希望をきこう。
「沙耶、凄く痛いのか、普通に痛いのか、地味に痛いのか、どれがいい?」
「え、えーと…で、できるだけ、優しくして、ください」
や、優しく? どういうこと? 優しく殴る? ……あ、そうか。殴るとかじゃなくて、軽くいじめられるくらいがいいってことか。よかった。沙耶が望んだとしても、殴るのはちょっとね。
ということは、沙耶はあれか。ソフトM? 押さえつけて、でこぴんとかつねったりで、いいってことかな。
「まぁ、じゃあまた今度ね」
「あ、はい。……あの、明菜さん」
「なに?」
「明菜さんは…あ、あたしのこと、好き?」
答えにつまる。好きか嫌いかならもちろん好きだ。でもそんな意味じゃないくらいいい加減わかってる。
沙耶にキスするの、結構好きだと思う。ドキドキする。でも単純に恋愛感情をもたれていることで意識してるだけかも知れない。
「ないしょ」
「え、んっ」
とりあえず、キスをして誤魔化すことにした。沙耶の唇の柔らかさに、今更なんだか恥ずかしくて、強く押し付けた。
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