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キス  作者: 川木
11/31

告白するあたし

「明菜さん」

「……今日はなんか、ごめんね」


 恥ずかしそうに明菜さんは笑った。その表情はとても可愛らしくて、抱きしめたくなった。


「あたし、明菜さんのこと今日いっぱい知っちゃったね」

「……照れるね」


 不良だった明菜さんを見て、最初は敬遠してた。でもある日、知らないおじさんに絡まれたところを助けてもらって、我ながら単純だけど明菜さんを好きになった。

 明菜さんのことを遠くから見つめていて、金髪を振り回しながら輝く美しい明菜さんみたいになりたくて、お化粧とか服装を頑張ってみたけど、全然駄目だ。結構可愛くなったかなとか自画自賛しても、明菜さんを見るたびに全然追いつけてないなと思う。

 所詮天然の美人に並ぼうなんて無理とあきらめかけてたけど、最近は明菜さんが可愛いって言ってくれるし、自信でてきた。

 そんな自信くれて、明菜さんのことますます好き。恋愛感情なしでも好き。……やっばり嘘。恋しすぎていて、恋愛感情抜きの場合を考えられない。


「明菜さん、大好き」

「……」


 あ、あれ? 何で無視? いま、けっこーいい雰囲気だと思ったんだけどな。









 不良の明菜さんに惚れたあたしとしては不良をやめたのはむしろちょっと残念だけど、明菜さんが私を気遣ってやめてくれたのといのなら、こんなに嬉しいことはない。


 明菜さんは不良という秘密を解放したからか、今まで曖昧な返事だった過去についても話してくれた。

 何となく、大分改ざんされてるんだろうなぁと思わせるような武勇伝ばかりだったから、そこは話半分に聞くとして。


 なので浮かれて、ご機嫌で明菜さんの好物を晩御飯につくり、寝る時間のギリギリまでお話した。


毎日明菜さんにお話をねだった。明菜さんの破天荒な話は、あたしの今まで経験したことないことばかりで、どれだけ聞いても興味をひかれた。まして明菜さんのことだから、当然といえば当然だけど。


「で? そろそろ告白したの?」


 今日は金曜日。明日からはお休みなのでいーっぱい明菜さんと話せるぞー。と思ってたご機嫌なお昼休み、みっちゃんの一言で思い出した。


 期限、明日だ。


「まだだけど、で、でもね」


 あたしはとりあえず言い訳した。最近けっこーいい感じなこと。だからまだ焦らなくてもよさそうなこと。だけどみっちゃんの反応はばっさりだった。


「いや、単に隠し事がなくなった気安さと沙耶のなつきっぷりに態度が軟化しただけでしょ。不良やめたのは沙耶のためじゃなく、妹のため。全然違うし」

「!!?」


やばい。ほんとだ。むしろ明菜さんはどれだけ妹ほしかったの。完全に妹として望まれてる! うわ、うわ、やばい。明菜さん的には普通に妹として仲良くなってたってこと!


「み、みっちゃん! どうしよう!?」

「明日コクれ」

「う、わ…わかった! あたし、やるよ!」

「よし。あと声でかくてうるさい」

「ごめん!」


 まだ全然心の準備はできてないどころか、告白の期限を完全に忘れてたけど、今をのがすと本当に妹として認識されてしまう!









「沙耶、昨日帰ってから、何だか変。大丈夫? もしかしていじめ? 私が殺、じゃなくてぶっ飛ばそうか?」


 明菜さん優しい……優しいとは思ってるけど、ちょっとその目は恐いからやめてください。


「だ、大丈夫。そんなんじゃないから」

「嘘」

「な、なんでですか」

「だって目玉焼きしょっぱい。塩ふりすぎ」

「え!? ご、ごめんなさい。あたしのと交換…」

「もう食べ終わってるし、食べなよ」

「……はい」


 うう、やってしまった。いくら緊張してるからって直前で唯一の特技で失敗するなんて。


「片付けは私がするから、休んでな」

「や、やるから。大丈夫だから」

「でも…」

「あ、あとで、大事な話したいの。いいかな?」

「…わかった。待ってる」


 ああっ、行ってしまった。うう。ドキドキしすぎて胸がいたい。緊張してお腹いたいよぅ。あー、フラれたらどうすれば。でも伸ばしても勝率減らすだけだしっ。頑張れあたし!


 片付けを終えるまで、明菜さんはソファで待っててくれた。優しい。優しすぎてうぅ、プレッシャーです。


「お、お待たせ」


 いつもよりちょっと時間をかけて終わらせ、あたしは明菜さんの隣に座った。


「……」

「大丈夫。何でも話してみて」


 言い出せないあたしに、明菜さんはよしよしと頭をなでて優しく微笑んでくれた。

 はぁぁ、余計ドキドキしちゃう。


「あ、あの、あのね」

「うん」

「この間、私、明菜さんのこと前から知ってたって言ったよね?」

「うん? うん」

「あの、そ、それは、何で知ってたかと言いますと…」

「え? 単に風の噂とかじゃなく? 私、沙耶と関わりあったっけ?」

「ああ、いえいえ。関わりってほどでは」


 明菜さんにしてみれば、あたしを助けてくれたのも、日常の一幕にすぎない。忘れられていても仕方ないし、むしろ明菜さんのために綺麗になる努力をする前の、やぼったいあたしのことは思い出さないでほしい。


「一回、助けてもらって」

「あー、なるほど。いつごろ? 思い出せるかも」

「いや! 思い出さなくていいから」

「え、そう?」

「絶対思い出さないで」

「え、まぁ、思い出さない可能性のが高いけど」


 戸惑う明菜さんにごめん!その気持ちは嬉しいから!と心の中で謝罪しつつ、本題を口にするため、深呼吸する。


「すー、はー」

「……沙耶、挙動不審だけど本当に大丈夫?」

「大丈夫。ちょっと待って、大事なこというから」

「あ、はい」

「すーー、はーー」


 待ってもらい、深呼吸を繰り返し、何とか気持ちを落ち着ける。


「……」


 明菜さんを見つめる。まっすぐに、心配そうにあたしを見てくれてる。

 大丈夫。言える。ずっといいたかったんだ。練習だけは頭の中で何度もした。

 あたしは、ずっと前から


「あたしは、ずっと前から」


 言えた。続きだ。呼吸がうまくできないし、続けて言うぞ!

 明菜さんが好きです、って。


「明菜さんが、好きです」


 い、言った!!













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