・・・ある日の夜・・・
シュラッ・・・!!
「ちっ・・・」
時刻は午後9時、場所は路地裏。
残飯をあさる猫か、寝息を立てるホームレスくらいしかいないこの場所に、場違いな陰が2つ・・・
どちらも人の形をしている陰は、風を切りながら疾走している。
どうやら、片方がもう片方を追いかけているようだ。
ヒュババ!!
追いかけている陰の足に当たる部分が勢いよく振られる。
しかし、追いかけられている方も馬鹿ではないのだろう。急激に減速し、相手の脚の付け根まで移動する。そして、蹴りの一番勢いの乗っていない場所を、片手で受け止めた。
しかし、陰はあわてた様子もなく、すっと脚を引き、距離をとる。
スゥゥ・・・
今まで雲に隠れていた月が姿を現し、二人の姿を映し出す。
追いかけていた方の姿は、一言で言うなら、「おっさん」
ただ普通の、3~40代の男なのである。
反対に、追いかけられていた方の姿は、「不良」というのが正しいであろう。
髪の色はきれいな青、いや、蒼といった方が正しいだろうか。
目の色も髪とおそろいで、明らかにカラコンをしているというのがわかる。
「てめぇが巷を賑わせてる、通り魔ってやつか?」
蒼髪の方が、相手に向かい、静かに訊く。
「・・・そう呼ばれているらしいな」
男も、静かに答えた。
「そうかい。。。まあ、俺はどうこうしようって気はねぇ。だがな・・・俺に刃を向けた野郎は、一人残らずぼこぼこにするって、決めてんだよ・・・」
蒼髪のほうはそういうと、構えをとった。
「・・・ふん」
対する男の方は、つまらなさそうに息を吐き、構えをとる。
・・・二人の間に、静寂が走る・・・
だっ!!
「はぁぁ・・・!」
先に動いたのは、おっさんだった。
蒼髪との距離を詰め、脚をふるう。
その先には・・・ナイフ。
靴の裏に仕込んでいたのだろう。
そのナイフ付きの脚を振るい、蒼髪を切り裂こうと迫る。
が。
パシッ・・・
・・・蒼髪は、男の脚を片手で受け止めた。
威力も殺さず、その場から一歩も動かずに、片手だけで止めたのだ。
「!?」
驚いた男は脚を引っ込めようとするが、蒼髪がものすごい力でつかんでいるため、引っ込めることができない。
さらに、蒼髪の力がどんどん増しているため、男の脚は、もう悲鳴を上げていた。
「がぁ・・・あぁぁあ・・・」
苦痛の声を上げる男・・・
そして・・・
ボキッ
「ぎゃぁぁあああああ!!!!!!!」
男の脚の骨が、ついに折られた。
しかし、蒼髪はまだ離さない。
「・・・運が悪かったな。けんかを売る相手を選べば、こんなことにはならなかったのに・・・」
蒼髪はそう言うと、拳を作り、思い切り引く。
「ま・・・まて、待て待て待て!待ってくれ!やめてくれ!死にたくない!いやだぁぁああああ亜阿唖亞・・・・!!!!」
どっごぉ!!
・・・自分の叫び声を聞いた瞬間、男の意識は飛び去った・・・・・・
次の日、こんなニュースが流れた。
「通り魔が逮捕されました。右足の骨が複雑骨折し、腹には拳の痕のような痣がありますが、命に別状は無いとのことです。」