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校正者のざれごとシリーズ

校正者のざれごと――白黒ポテチとデイジー教科書

作者: 小山らいか
掲載日:2026/06/06

 私は、フリーランスの校正者をしている。

 先の見えない中東情勢が、私たちの生活のさまざまなところに影響を及ぼしている。そのひとつの例として、このニュースはきっと誰もが衝撃を受けたに違いない。

 ――カルビーの「ポテトチップス」や「かっぱえびせん」のパッケージが白黒に

 菓子メーカー大手のカルビーが2026年5月12日、中東情勢による一部原材料の調達不安定を理由に、商品仕様の変更を発表した。「ポテトチップス」など計14品目のパッケージを「2色刷り」にするという。最近よく耳にする、ナフサ不足によるものだ。

 では、ナフサとは何か。石油連盟のHPを要約すると、「ガソリンに似た透明な液体で、石油製品のひとつ。沸点が低く軽い成分。ナフサからはエチレンやトルエン、キシレンなどが作られ、これらからプラスチックや塗料などが生産される」といった感じになる。

 国は原油の備蓄は充分にあり、すぐに不足することはないとしている。ナフサも原油からつくられるので供給に問題はないのではと思いきや、そんなに簡単ではないらしい。朝日新聞によると、輸入原油から国内で生産されるナフサは全体の39%ほど。残りの多くは中東からの輸入に頼る。そして、ナフサには原油のような国の備蓄制度がない。原油と、ナフサそのものの輸入が減っているいまの状況では、いずれ流通が途絶えてしまう。

 印刷用のインクに影響があるということは、書籍の出版にも影響が出てくるのでは――もし紙の本の印刷が難しくなったら、書籍の電子化が加速していくのだろうか。

 デジタル化は、子ども向けの教材でも確実に進んでいる。いわゆるタブレット教材の普及だ。これらのいいところは、自動採点など親の手がかからないこと。紙の教材の場合、子どもが解いた問題を親が丸つけしなければならない。これは非常に面倒で、忙しいとつい「あとにしてよ」と突き放してしまう。電子教材ならその場で採点して、正解すると「すごい!」「やったね!」とかわいい声で褒めてくれる。詳しい動画の解説などもある。

 余談だが、教材の会社からは「付録」の校正の依頼もある。なかでも実機校正では、子どもが実際に使う機械が送られてきて、意図したとおりに動くかどうかを確認する。以前担当したのは、画面に表示された文字を専用のキーボードで打って消して、モンスターを倒していくというゲーム機の動作確認。タイピング(ブラインドタッチ)を速く正確にできるようにするための補助教材だ。これはけっこう難しくて、なかなか時間内にゲームの最後までたどりつけなかった。成功しないと確認できない画面もあるので、必死にキーボードをたたき、モンスターを倒す。意外とおもしろくて、負けるとやっぱり悔しい。夢中になっていたら、いつの間にか帰ってきていた下の子に「何遊んでんの?」と呆れられた。「いやいや、これ仕事だから」と必死にその場を取り繕う。

 学校で使う教科書も、昔と比べてカラー化、ページ数の増加が進み、その重さも問題になっている。教科書のデジタル化について検索していると、こんな言葉が目に留まった。

「デイジー教科書」/「マルチメディアデイジー教科書」

 DAISYデイジーとは、「Digital Accessible Information System」の略で、日本では「アクセシブルな情報システム」と訳される。弱視等の視覚障害やLD(学習障害)により読み書きが難しい人のための電子書籍の国際規格だ。マルチメディアデイジーの書籍では、通常の電子書籍のように文字の大きさだけでなく、フォント、文字や背景の色、縦書き/横書きなども変えられる。さらに、文章にハイライトを入れながら読み上げもしてくれる。目からだけでなく耳からの情報を補うことで、ディスレクシア(識字障害)がある場合でも文章の理解を助けてくれる。

 マルチメディアデイジー教科書については、2008年の「教科用特定図書普及促進法(教科書バリアフリー法)」の制定と「著作権法第33条の2」の改正により、「拡大教科書」や「音声教材」として製作されるようになった。2024年には、その対象は日本語での学習に困難のある外国人生徒等にも拡大された。いまのところ一部の利用にとどまっている教科書のデジタル化だが、コロナ禍でリモートワークが一気に進んだように、ナフサ不足が教科書のデジタル化を推し進める原動力になる、なんてこともあるかもしれない。

 ナフサと印刷についてさらに調べてみた。日本の食品パッケージの主流は発色の綺麗なグラビア印刷だ。一方、書籍の印刷で多く使われているのはオフセット印刷。グラビア印刷では、使用するインクに大量の有機溶剤が必要で、それらはナフサからつくられる。また、食品パッケージに使われる包装フィルムも原料はナフサだ。このことから、グラビア印刷は特にナフサへの依存度が高いといわれている。

 カルビーの「白黒ポテチ」施策は、今後見込まれる供給不足への予防策だという。一部「大手の売名行為」などという批判もあったが、親しみのあるパッケージを捨てるのはたとえ大手であっても勇気のいる決断だったと思う。いまはまだ物珍しさが勝っているが、色の影響が今後どんなふうに出てくるのか、気になるところだ。

 パッケージは変わっても、中身の供給には問題はないという。ちなみに私のイチ押しは「堅あげポテト ブラックペッパー」。あの硬さがいい(「堅あげ」の「硬さ」と書いて、「かたい」の使い分けも気になったが、それはまた次回に)。こちらは6月22日頃から白黒になる。それでももちろん買いますよ。だって、ビールのつまみに最高ですもの。


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― 新着の感想 ―
パッケージの減色に関してはコロナパンデミックや令和の米騒動など、最近は問題が長期化するケースが多いので『備えあれば憂いなし』という決断をした方がいるんでしょうね。 そして来年の今頃は白黒包装が普通にな…
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