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EP 8

「……うぅぅ、生きててよかったですぅ。パンの耳じゃない、本物の、脂の乗ったお肉……。これが『課金』の味なんですねぇ……!」

ポポロ村の広場は、飛竜ワイバーンのステーキを焼く香ばしい匂いに包まれていた。

リーザは涙を流しながら特上サーロインを頬張り、キャルルは「このソース、ドリンクバーのコーラを隠し味に使ってるわね……」と分析しながらも、止まらないフォークに戸惑っている。

だが、平和なBBQバーベキュー会場の空気が、一瞬で凍りついた。

カツ、カツ、カツ……。

整然とした足音と共に、村の入り口から集団が歩いてくる。

全員が漆黒のタキシードに身を包み、背筋をピンと伸ばした、隙のない立ち振る舞い。

頭部にはピンと立った狼の耳、そしてズボンの後ろからはふさふさとした尾が覗いている。

獣人族、最強の闘気保有種――『人狼族ワーウルフ』。

その中でも、魔王ラスティアに直属するエリート執事団「ブラック・ウォルフ」だ。

「……お初にお目にかかります、田中ケンジ様」

先頭に立つ銀髪の男――筆頭執事のヴォルフガングが、完璧な角度で一礼した。

その瞳には、獲物を定めるような鋭い光が宿っている。

「我らがあるじ、魔王ラスティア様より伝言を預かって参りました。『貴方の退屈を、私たちが完膚なきまでに“お世話”して差し上げましょう』……と」

「お世話、ねぇ。俺、掃除も料理もシステムで買えるんだけど」

俺がメロンソーダを片手に答えると、ヴォルフガングの口角が不敵に上がった。

「掃除、料理……。左様さようなものは執事の嗜み。我ら人狼が提供するのは、主人の『命』を賭した極上の刺激。……もし貴方が我らの奉仕に値せぬ“退屈な男”であれば、その場で破滅していただく。それが我らの信条ルールでございます」

言うや否や、執事団の面々が各自の「武器」を手に取った。

いや、それは武器ではなかった。

一人はネクタイを外し、一人は名刺を構え、一人はシルクのハンカチを広げる。

「月影流のキャルル殿、お下がりを。これは“接待”でございます」

ヴォルフガングがネクタイに闘気を流し込んだ。

柔らかい布が、瞬時に一振りの名剣をも凌駕する「鋼の刃」へと変貌する。

「秘技――『デッドリー・タイ・スライサー』!!」

マッハを超える速度で放たれたネクタイの猛撃。

空気が切り裂かれ、真空の刃が俺の首筋を狙う。

同時に、他の執事たちから放たれた名刺が、手裏剣以上の破壊力で俺の四肢を封じようと飛来した。

「ケンジさん、危ないっ!」

キャルルが飛び出そうとするが、俺は指をパチンと鳴らした。

【本日のお買い物リスト:執事の教育編】

人狼執事団・全契約(独占買い取り):購入価格 100億円

最高級執事用・自動修復タキシード(防弾・防魔法):購入価格 5億円

主人のための『絶対忠誠』インストール:購入価格 50億円

「ポチっとな」

確定ボタンをタップ。

その瞬間、俺の目の前で時間が止まったかのように、ネクタイの刃がピタリと静止した。

ヴォルフガングの脳内に、魔導ネットワーク経由で「契約完了」の通知が、そして俺の通帳からは一五五億円が引き落とされる。

「……っ!? な、なんだ、この圧倒的な『契約の重圧プレッシャー』は……!?」

ヴォルフガングの膝が折れ、地面に激突した。

他の執事たちも、放った名刺を空中でキャッチし直し、その場に平伏する。

「お、お買い上げ……。我ら『ブラック・ウォルフ』の全存在が、この男に買い取られたというのか……!?」

「あ、あれぇ? 執事さんたちが急にケンジさんの足元で丸まってますよぉ?」

リーザが飛竜の骨をしゃぶりながら不思議そうに首を傾げる。

俺は膝をつくヴォルフガングの前に歩み寄り、ポケットから千円札を取り出して彼の胸ポケットに差し込んだ。

「とりあえず、これチップだ。……刺激が欲しいなら、俺の『庭』の掃除から始めてくれ。空に浮かんでるアヴァロン、結構広いからさ」

「……っ。敗北、そして完全な隷属。……これほどの贅沢な買い物を、瞬時に……。ククッ、あはははは! 素晴らしい! これほど刺激的な主人は、魔界を探してもおりません!」

ヴォルフガングが顔を上げ、心酔しきった表情で俺を見上げた。

彼ら人狼族にとって、自分たちを「金で、それも圧倒的な金額で屈服させる男」こそ、至高の主人だったのだ。

「かしこまりました、ケンジ様。今日から我ら一八名、貴方の『お財布』を守る盾となり、貴方の歩む道を札束で舗装させていただきます」

「舗装はいいから、普通に歩かせてくれ……」

こうして、ポポロ村には「最強の人狼執事軍団」が常駐することになった。

彼らは到着するなり、ルナミスキングの接客クオリティを五ツ星ホテル並みに引き上げ、ルナの魔法暴走をシルクのハンカチ一枚で完璧に封じ込め始めた。

だが、この事態を「面白くない」と睨む存在が、海から現れようとしていた。

「私の娘リーザをパチンコ狂いにし、あまつさえ金で世界を歪める不届き者はどこのどいつかしら……?」

シーラン王国の女王、リヴァイアサン。

最強の海中軍勢が、ポポロ村を目指して北上を開始していた。

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