EP 7
「……空が、落ちてくるみたいだわ」
キャルルが空を見上げ、震える手でダブルトンファーを握り直した。
先ほどまで俺に土下座していた三国の徴税官たちも、顔を真っ青にして腰を抜かしている。
「は、はぐれ飛竜の大群……!? 数千、いや一万はいるぞ! こんなの、一国の正規軍が壊滅するレベルの災厄だ……!」
空を埋め尽くす黒い影。それは飢えた飛竜たちの群れだった。
一匹一匹が火を吐き、時速三〇〇キロで飛来する生体兵器。それが空を覆い尽くし、太陽の光を遮っている。
「大変です、ケンジさん! ルナ様が『お空のトカゲさんたちが可哀想だから、お庭に招待しましょう』って、世界樹の蔦を空まで伸ばそうとしてますぅ! このままだと村ごと引き摺り下ろされますよ!」
「よせルナ! それは招待じゃなくて、村を串刺しにするだけだ!」
俺はリーザを小脇に抱え、キャルルを制止しながら、中指一本で【空中操作パネル】をフリックした。
「……さて。五〇兆円もかけて買ったんだ。そろそろ実戦テストといこうか」
俺は見上げる。雲の切れ間に、巨大な影が姿を現した。
ポポロ村の真上に潜航していた、俺の私有都市――**『天上都市アヴァロン』**だ。
「ターゲットロック。……ええい、面倒だ。全個体指定」
【防衛システム・起動オプション】
自動追尾・超広域魔光砲(全門開放):購入価格 10億円
一発必中・確定撃破課金:追加価格 50億円
事後処理:素材自動回収&高級ステーキ加工:購入価格 1,000万円
「ポチっとな」
俺が確定ボタンをタップした瞬間。
天上都市アヴァロンの底面がスライドし、数千門の魔導砲台が姿を現した。
「……全弾発射」
ドォォォォォォォォォォン!!
空を割るような轟音と共に、極太の黄金色のレーザーが数千本、同時に放たれた。
それは雨のように降り注ぐのではなく、意思を持った閃光のように空を駆け巡り、一匹残らず飛竜たちの眉間を正確に撃ち抜いていく。
「ぎゃあああああああ!? 空が、空が焼けてるぅぅぅ!!」
徴税官たちが絶叫する。
空を覆っていた黒い影は、一瞬にして黄金の爆炎に包まれた。
断末魔の叫びすら聞こえない。圧倒的な「札束の暴力」が、数万の飛竜をただの光の塵へと変えていく。
そして。
空から降ってきたのは、火でも鱗でもなかった。
ポトッ、ポトポトッ。
「……えっ? これ、お肉……?」
リーザの鼻先に、いい具合に焼き色のついた『飛竜の特上サーロイン(ガーリックソース味)』が、パック詰めされた状態で降ってきた。
【事後処理オプション】による自動調理・パッキング済みのドロップアイテムだ。
「う、嘘でしょう……。国家存亡の危機が、たった数秒で……一〇〇円ランチ並みの手軽さで解決されたっていうの……?」
キャルルが呆然と膝をつく。
空は、不気味なほどに澄み渡った青空に戻っていた。
そこにあるのは、悠然と浮かぶアヴァロンと、村中に降り注ぐ「高級飛竜肉」の山だけだ。
「……よし、今夜はバーベキューだな。お前ら徴税官も、肉の運搬を手伝えよ。バイト代は出すから」
俺は平然とメロンソーダを啜り、腰を抜かしている連中に声をかけた。
だが、この圧倒的な光景を「魔法通信石」越しに見ていた者がいた。
ワイズ皇国の王宮。
そこでは、一人の美女が豪華なソファに寝そべり、ポテトチップスを齧りながら、モニターに映るケンジの姿を凝視していた。
「……あはは! 面白いじゃない。あの男、ルチアナ様が言ってた『百兆円の玩具』ね?」
彼女こそ、魔王ラスティア。
「愉快であればそれで良い」を信条とする、この大陸最強の自由人だ。
「気に入ったわ。ねえ、私の『人狼執事団』を向かわせなさい。あの男を『おもてなし』して、私の元まで連れてくるのよ。……ああ、ついでに日本限定の新作アイドルのアクスタも買ってこさせてね」
魔王の気まぐれが、ポポロ村に次なる波乱を呼び込もうとしていた。




