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EP 5

「ケンジさん、大変ですぅ! リーザさんが、リーザさんがぁ!」

翌朝。ルナミスキングのドリンクバーで優雅にモーニングコーヒー(一杯三〇〇円)を楽しんでいた俺の元に、ネギオが血相を変えて飛び込んできた。

植物の蔦でできたタキシードが、心なしか萎れている。

「どうした、ネギオ。リーザがまたパンの耳を喉に詰まらせたか?」

「それならまだ平和だった! あの人魚、昨日ケンジから貰った一〇〇万円を持って、隣町のルナミス直轄領にあるパチンコ屋『銀玉宮殿シルバーパレス』に乗り込み……今、全財産をスって、自分の『うろこ』を担保に入れようとしてる!」

「……は?」

コーヒーを吹き出しそうになった。

あのバカ、一〇〇万円を一日で溶かしたのか。

「キャルル様が止めに行きましたが、あそこは帝国の有力貴族が裏で糸を引く闇営業店……。下手に手を出すと国際問題になると、用心棒に足止めを食らっています!」

「……やれやれ。お買い物のついでだ、回収しに行くか」

俺は【ショップ】を開き、適当に移動手段を検索した。

『最高級魔法リムジン(運転手:ゴーレム付き):購入価格 5,000万円』

「ポチっとな」

店の前に突如として現れた黒光りする巨大な魔導車両にネギオを放り込み、俺たちは隣町へと急行した。

『銀玉宮殿』の店内は、魔導機械の騒音と、ギャンブラーたちの絶望の匂いで満ちていた。

その最奥の「超高レート・ドラゴン台」の前で、リーザが魂の抜けた顔でレバーを叩いていた。

「……五円。五円あれば、もう一度回せるのに……。私の真珠のような鱗が一枚、また一枚と……あはは……」

「リーザ、もうやめろ! これ以上は本当に人魚の尊厳がなくなるぞ!」

キャルルが店員(ガタイのいいオーク共)数人に囲まれながら叫んでいる。

彼女の足元には、闘気でヒビが入った床。一触即発の状態だ。

「おいおい、賑やかだな」

俺がリムジンから降りて店に入ると、紫色の派手なスーツを着た、いかにも「悪徳マネージャー」風の男が前に出てきた。

「おやおや、リーザちゃんのパトロン様かな? 困りますよぉ、ギャンブルは自己責任。彼女、もう一〇〇万の借金を作っちゃって。次は彼女の『歌唱権』を一生分、ウチの事務所で買い取らせてもらう予定でしてねぇ」

男は下卑た笑みを浮かべ、契約書をチラつかせる。

「一〇〇万? たったそれっぽっちでガタガタ言うなよ」

俺は【ショップ】の検索欄に『このパチンコ屋の全景』と打ち込んだ。

『パチンコ屋「銀玉宮殿」土地・建物・備品・全債権:購入価格 15億円』

「安いな。ついでに経営権も買うか」

『「銀玉宮殿」全株式&全利権セット:購入価格 100億円』

「ポチっとな」

俺が確定ボタンを押した瞬間。

悪徳マネージャーの懐にある魔導通信石が、けたたましく鳴り響いた。

「な、なんだ!? 本部から……? ……えっ? えええっ!? オーナーが変わった!? たった今、全株式が正体不明の個人に買収されただとぉ!?」

男が顔を青くして通信石を落とす。

俺は一歩前に出て、リーザが座っている台の「設定」を操作パネル(仮想画面)からいじった。

『設定:1 → 1,000,000(確定大勝利モード)』

「ほら、リーザ。一回叩いてみろ」

「ふぇ……? はい……」

リーザが力なくレバーを叩くと、台から聞いたこともないようなファンファーレが鳴り響いた。

虹色の光が店内を埋め尽くし、排出口から銀玉ではなく、『純金製のメダル』が滝のように溢れ出した。

「ぎ、銀玉がゴールドに変わったぁぁぁ!? 絶対無敵スパチャアイドル、復活ですぅぅぅ!!」

「ちょ、ちょっと待てケンジ! 店ごと買い取るなんて、いくらなんでもやりすぎだろ!」

キャルルが呆れ果てて叫ぶが、俺は肩をすくめた。

「いいんだよ。これでここも俺の持ち物だ。……あ、そうだ。マネージャーさん」

俺は震えている悪徳男の肩を叩いた。

「明日からここ、全台『設定100』にして無料開放するから。あと、リーザの借金はチャラだ。文句あるか?」

「あ、ありません……! オーナー様、一生ついていきます……!」

その夜。

ポポロ村のルナキンで、再び女子会が開かれていた。

リーザは取り返した鱗をピカピカに磨きながら、最高級の「ハニーパンケーキ(五段重ね)」を頬張っている。

「いやぁ、一時はどうなるかと思いましたけど、やっぱりマネーは裏切りませんね!」

「あんたが裏切ったのよ、自分の理性を!」

キャルルのツッコミが冴え渡る。

ルナは「パチンコ……? お花畑が出る魔法かしら?」と首を傾げていた。

「でも、ケンジさん。あんな派手な真似をしたら、いよいよ周辺諸国が黙っていませんよ。……特に、あの『人狼族』の執事軍団が動いているという噂もあります」

「人狼の執事……。あいつら、刺激的な主人が大好物なんだろ?」

俺はメロンソーダを啜りながら、夜空に浮かぶ『アヴァロン』を見上げた。

百兆円の残高は、まだ九九兆円を優に超えている。

「いいさ。退屈してたんだ。最強の執事でも、三国の軍隊でも、まとめて『お買い上げ』してやるよ」

俺の不敵な笑みと共に、第一章の中盤――金で解決できないものなど何一つないことを証明する、狂乱の接待無双が加速していく。

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