EP 4
「ちょっと待て、ルナ! その『親切心』、今すぐ引っ込めろ!」
キャルルが店を飛び出し、爆風に逆らって叫ぶ。
俺とリーザ(札束を抱えたまま)も後に続いた。
村の北側、そこには輝く銀髪をなびかせ、聖域のようなオーラを放つ絶世の美女がいた。
エルフの次期女王候補、ルナ・シンフォニアだ。
「あらキャルルさん、おはようございます。皆さんが朝食を食べているのを見て、私も何かお手伝いしたくて……。村の特産品がもっと増えれば、皆さんの生活も豊かになるかなって」
ルナが微笑みながら、世界樹の杖を掲げる。
だが、彼女の背後では『ハニーかぼちゃ』が巨大化しすぎて家を一軒押し潰しており、さらにはルナが放った「成長促進魔法」の余波で、畑から『人参マンドラ』が数万匹も這い出し、「ギャー!!」と叫びながら村中を爆走していた。
「手伝いどころか壊滅だろうが! そのカボチャをどうにかしろ!」
「えぇっ!? でもこれ、とっても甘くて美味しいんですよ? そうだわ、もっと食べやすいように、太陽を二つにして一気に加熱調理しちゃいましょうか?」
「やめろ!! 村が蒸発する!!」
キャルルがツッコミを入れながら、巨大カボチャに向かって『月影流・破衝撃』を放つ。だが、世界樹の加護を受けたカボチャは鋼鉄以上の硬度を誇り、トンファーを弾き返した。
「チッ、硬すぎる……! おまけにあのマンドラ共、耳がイカれるほど騒がしい……!」
ウサ耳を伏せて苦悶するキャルル。
俺は一歩前に出て、スマホ……ではなく、空中に浮かぶメニュー画面を高速フリックした。
「……よし、これでいいな」
【本日のお買い物リスト】
一括収穫&調理・加工サービス(特注):購入価格 50,000円
超音波遮断・防音イヤーマフ(村人全員分):購入価格 10,000円
「ポチっとな」
確定ボタンを押した瞬間。
空から数千枚の「魔法の包丁」が降り注ぎ、巨大カボチャを瞬時に一口サイズへ切り分けた。同時に、巨大な炎の魔法陣が展開され、カボチャは瞬時にホクホクの『大学カボチャ』へと調理され、村の広場に用意された巨大な木箱にパイルダーオンした。
さらに、逃げ惑うマンドラたちは、空から降ってきた「捕獲用マジックハンド」に次々と摘み上げられ、瓶詰めにされていく。
「な、何が起きたんですかぁ……!? カボチャが、スイーツになって収まった……!?」
リーザがポカンと口を開ける。
そこへ、一人の奇妙な存在が歩み寄ってきた。
植物の蔦で編まれたようなタキシードを着た、人型の樹人――ネギオだ。
「……フン、相変わらず派手な金の使い方をする。ルナ様の『親切』を台無しにするとは、野暮な男だ」
ネギオが、専用武器『ネギカリバー』をハリセンのようにしならせて、俺を指差す。
だがその手には、ちゃっかり俺が購入した『防音イヤーマフ』が握られていた。
「文句を言いながら使うなよ、ネギオ」
「これは主を守るための合理的判断だ。勘違いするな」
ルナは、綺麗に片付いた(そして大学カボチャの山ができた)広場を見て、パァッと顔を輝かせた。
「すごーい! ケンジさんって、魔法の天才なんですね! これなら私、もっと安心して魔法を練習できそうです!」
「いや、頼むから休んでてくれ……」
キャルルが膝をついてガックリと項垂れる。
そこへ、さらなる「厄災」が空から舞い降りた。
世界樹の枝から、黄金の光に包まれた巨大な荷物が、隕石のような速度でルナの元へ落ちてきたのだ。
「あっ、いけない。今月も世界樹から『年金』が届いちゃった」
ドゴォォォォン!!
ルナの目の前に突き刺さったのは、巨大な宝箱。
中には、まばゆい輝きを放つ「純金100kg」がぎっしりと詰まっていた。
「……ねぇケンジ。これ、どうしましょう? また地下室を補強しないと、村が物理的に沈んじゃうんです。リーザさんに少しあげようとしたら、キャルルさんに『ハイパーインフレでパンの耳が高騰するからやめろ』って怒られちゃって……」
「……」
俺は、札束を握りしめたまま「ゴールド……純金……じゅるり……」と涎を垂らすリーザと、眉間を押さえて限界を突破しそうなキャルルを交互に見た。
「分かった。ルナ、その金、俺が現金で買い取ってやる」
俺は【ショップ】の売却機能を起動する。
純金の山を瞬時にシステムへ放り込み、一瞬で電子の海へ消した。
「はい、これで村の地盤沈下は解決だ。ルナの通帳に、時価相当の円を振り込んでおいたから」
「わぁ、ありがとうございます! これでまた、ルナミスキングでお代わりが頼めますね!」
無邪気に喜ぶルナ。
だが、このやり取りを遠くから監視している者たちがいた。
ルナミス帝国、ワイズ皇国、レオンハート獣人王国。
三国の諜報員たちが、村を襲った「金の雨」と「謎の巨大施設」の報告を、それぞれの本国へ送り届けていたのだ。
「……ターゲット、田中ケンジ。推定保有資産、一国の国家予算を遥かに凌駕。最優先確保、あるいは抹殺を推奨」
平和なポポロ村に、巨大な野心の影が忍び寄っていた――。




