EP 13
「……おい、どういうことだ? さっきまで百円だった『ネタキャベツ』が、なんで今は百万円になってるんだよ」
ポポロ村の広場。俺はルナキンのテラス席で、手元のメニューを二度見した。
キャベツ一個、百万円。ランチ一食、五千万円。ドリンクバーにいたっては、一時間で一億円という、バブル全盛期の銀座も裸足で逃げ出す超インフレが起きていた。
「ケ、ケンジさん……! 私の持ってた百万円が、今やうまい棒一本すら買えない紙屑に……! これが、資本主義の終わりの形なんですかぁぁ!」
リーザが札束の山に突っ伏して号泣している。
そこへ、九つの尾を誇らしげに揺らし、豪奢な着物を着こなした一人の男が歩み寄ってきた。九尾族の商人ギルド長、コウカだ。
「カカカ! お困りのようですな、成金のケンジ殿。貴方が持ち込んだ『日本円』とやらは便利ですが、市場を支配するのは貴方の残高ではなく、我ら九尾の『信用』にございます。我らが市場に大量の偽造紙幣を流し、相場を操作すれば、貴方の百兆円などただの数字の羅列に過ぎない!」
コウカが手に持った扇子で俺を指差す。
彼の背後には、大陸中の両替所や銀行を牛耳る九尾の商人たちが控え、ニヤニヤと俺の「没落」を期待していた。
「……なるほど。相場操作で俺の資産価値をゼロにするわけか。戦略としては悪くない。……だが、やり方がまどろっこしいんだよ」
俺は飲みかけの一億円(元百円)のメロンソーダを置き、空中に【通貨管理システム】を呼び出した。
「ヴォルフガング。九尾族が一番大事にしてるものは何だ?」
「彼らにとっては『通貨発行権』こそが神の権能。自らの発行する金貨が世界の基準であることこそが、彼らの誇りでございます」
「そうか。……なら、その『基準』ごと買い取ってやるよ」
俺は【ショップ】の『グローバル・インフラ』カテゴリーから、最も理不尽な項目を選択した。
【本日のお買い物リスト:大陸経済統一編】
マンルシア大陸全域・法定通貨『日本円』強制統一権:購入価格 20兆円
大陸中央銀行・全株式および全資産の買収:購入価格 10兆円
九尾族専用・『一生計算が合わない呪い』付き算盤:購入価格 500円
「……ポチっとな」
確定ボタンをタップ。
瞬間、大陸中の「音」が変わった。
物理的な衝撃波ではなく、概念が書き換わる音だ。
「な、なんだ!? 懐の金貨が……消えた!? いや、勝手に千円札に書き換わっていく!?」
「我がギルドの地下金庫に眠っていた金塊が、全部『一万円札』の束に……!」
九尾の商人たちが悲鳴を上げる。
コウカが慌てて自分の算盤を弾くが、何度計算しても「一+一=ケンジ様最高」という結果しか出ない。
「バ、バカな……! 大陸中の全国家、全ギルドの承認を無視して、通貨を一つに固定したというのか!? そんなこと、神にしか――」
「神には、あらかじめ許可取ってある。……エイヒレ一年分でな」
俺は、一気に「適正価格(キャベツ一個百円)」に戻った広場を見渡した。
二十兆円という巨額を投じたが、これでこの大陸の経済は俺の手のひらの上だ。インフレもデフレも、俺の指先一つで決まる。
「さて、コウカ。お前ら九尾族は商売のプロなんだろ? ……倒産したギルドの代わりに、俺のリゾートの『経理部』で働けよ。給料は……そうだな、今の働きぶりを見て決めてやる」
「……ぐ、ぬぅ……。通貨発行権を奪われ、相場すら支配された我らに、拒否権など……。かしこまりました、ケンジ様。今日から我ら九尾族、貴方の資産の一円単位まで、きっちり管理させていただきます……」
コウカが震えながら平伏する。
こうして、大陸最強の経済集団は、俺の専用会計士へと成り下がった。
「ふぅ……。これでやっと、落ち着いて飯が食える。……あ、リーザ。そのゴミ箱に捨てた一〇〇万円、今はちゃんと価値戻ってるぞ」
「えっ!? ……あぁぁぁ! 私の百万円、誰か拾わないでぇぇぇ!」
リーザがゴミ箱にダイブする。
平和が戻ったポポロ村。だが、俺の「究極の朝食」への道はまだ終わらない。
「ヴォルフガング。……そろそろ、本物の『卵』が食いたいな」
「左様でございますね。……現在、三国の軍勢が血眼で奪い合っている『始祖竜の卵』。あれこそ、ケンジ様のエッグベネディクトに相応しい逸品かと」
「決まりだ。……火口までリムジンを出せ」
三国の軍隊がぶつかり合う激戦地。
俺は、世界を滅ぼす「卵」を買い付けに行く。




