EP 12
「……ルナ、貴女は変わり果ててしまいました。あんな不浄な成金の、メロンソーダなる毒水に魂を売るなんて」
世界樹の森から響くのは、幾千もの葉が擦れ合うような、湿り気を帯びた「声」だった。
ポポロ村の境界線。突如として地面から巨大な根が突き出し、村を包囲するようにそびえ立つ。空を覆う枝葉は日光を遮り、村は一瞬にして「緑の監獄」へと変貌した。
「違うの、世界樹さま! これは毒水じゃなくて、アイスを乗せるともっと美味しい……じゃなくて! 私はここで、新しい叡智(パフェの食べ方)を学んでいる最中なんです!」
ルナが必死に世界樹の杖を振るが、ヤンデレ化した世界樹に言葉は届かない。
それどころか、森の守護端末である『ポーン』の軍勢が、地中からニョキニョキと這い出してきた。その数、数万。
「報告します。世界樹の感情指数が『愛の暴走』域に到達。ポーンたちは全個体『殲滅モード』へ移行しました。……やれやれ、これだから植物は執念深い」
ネギオがネギカリバーを構え、自身の「親」である世界樹の軍勢を冷ややかに見据える。
ポーンたちは左手を砲に変え、緑色のエネルギー波をチャージし始めた。一斉掃射されれば、ポポロ村は一瞬で肥料(消し炭)になる。
「ケンジさん、どうしましょうぅ! 世界樹さまが本気を出したら、海まで森に飲み込まれちゃいますぅ!」
リーザが札束を抱えて震え、キャルルが「……流石に植物に『買収』は通じないわよね」と絶望的な表情を浮かべたその時。
俺は、アヴァロンから転送された「最高級のジョウロ(金メッキ)」を手に、一歩前に出た。
「キャルル、植物を舐めるなよ。……あいつらが求めてるのは、愛じゃない。圧倒的な『栄養』だ」
俺は【システム画面】の『農業・園芸・神話生物育成』カテゴリーを最下段までスクロールした。
【本日のお買い物リスト:世界樹の飼育編】
超・神話級魔力肥料『オリュンポス・グロウ』100年分サブスク契約:購入価格 1,000億円
全自動・多角形ドローン散布システム(24時間365日稼働):購入価格 500億円
世界樹専用・メンタルケア&光合成最適化ライト:購入価格 200億円
「……ポチっとな」
俺が確定ボタンをタップした瞬間。
ポポロ村の上空に、数千機の黄金に輝くドローンが出現した。ドローンからは、一滴で枯れ木が龍に変わると言われる伝説の魔力肥料が、霧雨のように世界樹の全身に降り注ぐ。
「……ッ!? な、なに、この……溢れ出すような全能感……!? 根の先まで、とろけるような……快感……」
世界樹の「声」が、怒りから悦楽へと一変した。
猛り狂っていた枝はしなやかに垂れ下がり、ポーンたちのエネルギー波は瞬時に消滅。それどころか、彼らは手に持っていた槍を「マッサージ棒」に変え、世界樹の根を丁寧に揉み解し始めた。
「あ、あら……? 世界樹さまが、なんだかピンク色に発光して……」
ルナが呆然とする中、世界樹は自身の巨大な葉を丸め、ケンジのリゾート全体を優しく包み込む「巨大な日除けパラソル」へと形状を変化させた。
「……ケンジ、さま。……もっと、あの『サブスク』という名の蜜を……。ルナのことは、もう好きにしてください。私はこのまま、栄養の海に溺れていたい……」
「よし、懐いたな」
俺はメロンソーダを啜り、完璧な木陰となったテラス席で二度寝の準備を始めた。
ヤンデレ世界樹は、たった一千億円の肥料サブスクで、世界最強の「全自動エアコン兼パラソル」へと堕ちたのだ。
「……植物まで金で解決するなんて。もう、驚くのも疲れたわ」
キャルルが力なく笑う。
だが、ポポロ村に平和が訪れたのも束の間。
今度は、村の入り口にある「九尾族」の出張所から、不穏な鐘の音が鳴り響いた。
「大変ですケンジ様! 九尾族の商人ギルドが、この村の『日本円』を偽造し、市場をハイパーインフレで破壊しようと仕掛けてきました!」
「ほう、経済戦争か。……いいぜ、通貨の重みを教えてやる」
札束が武器。相場が戦場。
ケンジの「100兆円」という暴力が、九尾族の狡猾なプライドを粉砕する。




