EP 1
俺の名前は、田中ケンジ。二十三歳、フリーター。
就職活動に全敗し、コンビニの夜勤明け、虚無感を抱えながら薄暗い路地裏を歩いていた時のことだ。
虚空から突如として現れた、一台のトラック。
ロゴマークには『次元間超特急便』と書かれていた。
「嘘だろ、異世界転生にしては雑すぎ……」
ブレーキ音すらなく、俺の体は呆気なく弾け飛んだ。
意識が戻ると、そこは真っ白な空間だった。目の前には、ジャージ姿でサンダルを履き、コタツに潜り込んでピアニッシモ・メンソールを吸っている美女が一人。
「あー、ごめんごめん。私が地球から『特選エイヒレ』取り寄せたら、配達員が次元の歪み読み間違えちゃって。お兄さん、轢いちゃった?」
彼女はこの世界、アナスタシアを統べる女神ルチアナだった。
「轢いちゃった、じゃないですよ! 俺の人生どうしてくれるんですか!」
「騒がないの。定時過ぎてるんだから。はい、これ、慰謝料。新しい人生、そっちで適当に謳歌してよ。あ、エイヒレ届いたから、じゃあね」
ルチアナが指を鳴らすと、俺の目の前に、見たこともない桁の数字が書かれた銀行通帳が現れた。
『残高:100,000,000,000,000円』
百兆円。
「……は?」
呆然とする俺に、システム音声のような無機質な声が響く。
『ユニークスキル【等価交換】が発動しました。現世における全ての事象、物質、能力は、所有する現金によって購入可能です』
視界が暗転し、次に俺が立っていたのは、見渡す限りの草原だった。
ここが、剣と魔法と闘気、そして何より『日本円』が全てを支配する大陸、マンルシア。
「百兆円……? つまり、俺は世界を買えるのか?」
試しに、目の前に落ちていた石ころを見てみる。
『石ころ:購入価格 1円』
「安い」
次に、ステータス画面を念じてみる。俺のレベルは1。
『レベルアップ:購入価格 10,000円』
俺は迷わず、一億円分をレベルアップに注ぎ込んだ。
『お買い上げありがとうございます。レベルが10,000になりました』
全身から、聞いたこともないような轟音が響き、大地がひび割れた。闘気が肉体から溢れ出し、空の色すら変えていく。スペシャリスト? 始祖竜? 知るか、そんなもの。金さえあれば、神の領域すら札束でビンタできる。
「これが、金の力……!」
俺はニヤリと笑った。
まずは、住む場所が必要だ。
俺はスキルを発動させ、検索欄に『最強の拠点』と打ち込んだ。
『天上都市アヴァロン(全自動防衛システム、温泉、ドリンクバー完備):購入価格 50兆円』
「よし、購入だ」
空が裂け、俺の頭上に、一つの国ほどの大きさがある巨大な浮遊都市が現れた。
「次は、この世界を案内させる奴が必要だな」
俺は近くにあった村、ポポロ村へと歩き出した。
金さえあれば、何でもできる。このマンルシア大陸は、今日から俺の巨大なショッピングモールだ。
最強の力も、伝説の武具も、国も、神の加護も、全て俺の財布の前には跪く。
100兆円プレイヤーの、異世界無双(Pay to Win)が今、幕を開けた。




