成人式まで相手がいなかったら付き合おうぜって約束してからあいつの様子が変なんだが
「いぇーい!」
「いぇーい!」
勝利のハイタッチが超気持ち良い。
ボウリングってやったことないかも。
クラスの誰かがそんなことを呟いたことにより、ボウリングイベントが開催された。俺も同じクラスの幼馴染、智耶美と参加したんだが、併設されているゲーセンにエアホッケーがあったので、クラス一のバカップルと勝負させられた。
うん、意味が分からないよな。
普段から見てられないほどに熱烈なバカップルが相性が良いことを日頃からアピールしていて、だったらそれをエアホッケーで証明して見せろとクラスメイトから囃し立てられた。ムカつくから思い知らせてやれって話さ。
その相手として選ばれたのが俺とちゃみだった。
「余裕だったね、慎吾」
「俺とちゃみのコンビに敵う訳ないだろ」
「くやじいいいい!」
「私達が負けるなんてええええ!」
どうしてだろう。
勝利して気持ち良かったはずなのに、抱き合いながら悔しがるバカップルを見ているとなんかイライラしてくる。
「あ~あ、つまんな。さっさとボウリングしよ」
勝とうが負けようがバカップルはバカップル。お互いに慰め合っている様子は見ていて腹立たしいだけ。クラスメイトもこめかみをヒクつかせながら解散し、ボウリングの準備へと移った。
「お前さぁ。俺達側みたいな顔してるけど、俺らからしたらお前らもあいつらと同じだぜ?」
「なんでだよ。俺達バカップルじゃないぞ」
「そもそも付き合ってないもんね」
「その仲の良さで付き合ってないのが変なんだよなぁ」
「幼馴染なんてそういうもんじゃないか?」
「そうそう、今更シンを男としてなんか見れないもん」
「だよなぁ」
ボウリングシューズを履きながら、クラスメイトの謎の嫉妬にそう答える。
俺とちゃみの関係は悪友のような感じであって、決して恋人では無い。そんな甘い空気になったことは一度も無いから、今後も無いのだろうなって思ってる。
そんな話をしながらレーンに向かったら、大量の大学生くらいの男女の集団が目立っていた。
「凄いなあの人数。サークルイベントか何かなのかな?」
「違うよシン。多分あれって成人式の人達だよ」
「そういや今日って成人の日だったか」
成人式なんて参加者が騒いで問題になってるイメージしか無かったから、ボウリングをやるなんて考えたことも無かった。でもそうか、懐かしいメンバーで集まったからボウリングやらカラオケやらで遊ぶものなのか。
「俺、成人式でお前らとは会いたくねぇわ」
「なんでだよ!?」
隣のレーンの男子が酷いこと言ってきた。そこまで言われる覚えは無いんだが。
「だって子供連れて来てイチャついてそうだし」
「俺達は付き合ってないしそのつもりないって言ってるだろ!?」
「しかも学生できちゃった婚してることになってるし、無い無い」
その男子の妄想を俺達は笑って否定するが、全く納得していない様子だった。
「そういう話は俺達じゃなくてあのバカップルにしろよ」
「だね。三人くらい子供連れきそうだし、なんなら高校生の間に作っちゃいそうな雰囲気だし」
「いや、ああいうのに限って早く別れたりするものさ。だがお前らは全くそういう気がしない」
「お前恋愛マスターか何かか?」
でもバカップルが別れる姿が何故か想像出来てしまった。恋愛って怖い。
「どうしてそんなに俺達をくっつけたがるのかな」
「対応めんどいし、早く彼氏作らないとね」
「マジそれな」
そんな簡単に作れたらこんな苦労はしてないんだがな。
ふと、成人式集団の方を見てみる。
付き合ってそうな雰囲気の男女はいないが、粉をかけてそうな様子は垣間見える。そうしていないのは興味が無いか、すでにカレカノがいるか。
「勝ち組になりてぇなぁ」
「何のこと?」
「いやさ。成人式で皆と再会した時に、良さそうな娘を探すのってなんか虚しく見えてさ」
「相手がいれば勝ち組ってことね。それはそれとして、せっかくの大学生なんだから恋愛はしたいよね~」
ではもしもそれまで相手が見つからなかったらどうなるのか。
そんな虚しい想像が脳裏を過る。ふとちゃみの顔を見ると複雑そうな表情になっていたので、俺と同じことを想像していたのかもしれない。
「ならさ。成人式まで相手が見つからなかったら付き合わない?」
「…………そうだな。異性として見れるかは分からんが、相性は良い訳だし無駄に独り身を続けるよりマシか」
「そいうこと」
いやでもそんなことが可能なのか?
俺がちゃみと付き合う?
これまで何度も想像し、ありえないと否定したこと。
だが大学生になれば何か変わるのだろうか。
大学生で付き合うとなると、より大人の関係になる。
更には『結婚』を意識するようにもなるだろう。
『婚約』しようものなら『同棲』とか将来を見据えた家族計画なんかも相談することになるだろう。
「…………」
「…………」
高校までの『お付き合い』はふわっとしたイメージだったが、大学生となると具体的な場面が想像出来てしまった。ちゃみと一緒にそれらをやる。それは間違いなく楽しいことだろうが、そこに男女の情はあるのか。
「うし、やるか」
「だね」
そもそも彼女を作ればこの話はご破算になるんだ。今から考えても意味が無い。だからボウリングに集中することにした。
なお、一ゲーム目はちゃみと同点。二ゲーム目はペアボウリングで勝負したが、圧勝させてもらった。
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「おはよう」
「お、おはよう」
「ん?どうしたんだちゃみ?」
「な、なんでもない」
ボウリングの翌日。
登校したらちゃみの様子が変だった。
いつもは朝からハイタッチしそうなくらいに元気なのに、妙によそよそしい。
「何だよ変な夢でも見たのか?」
「!?」
「え、マジなの?」
適当に言ってみただけなのに当たっちまった。
「懐かしいな。小さい頃は怖い夢見た日に泣きそうになってたもんな」
「…………」
これは重症だぞ。
いつもなら照れて『そんな昔のこと忘れたよ!』とかって怒るのに。
「言いたくないなら言わなくて良いけど、そんな反応されるとどんな夢なのか気になるな」
「べ、別にそんな大した夢じゃないよ」
「全く説得力ねぇ」
「ほんとにそうなの。自分でも、どうしてこんな気持ちなのか分からなくて」
あれ、なんだ。
少しだけドキドキしてる。
薄っすら頬を染めて俺への態度を悩んでいるっぽいちゃみが、色っぽく見える。
ちゃみが照れることなんて今まで何度もあったのに、どうして今日に限って。
「昨日変な約束したでしょ?」
「変な約束?」
「成人式までってやつ」
「ああ、あれか。それがどうしたんだ?」
「多分そのせいで、その場合の夢を見ちゃったの」
「それって俺とちゃみが付き合った夢ってこと?」
「うん。ど、同棲してた……」
なるほどな。
それで俺を男として意識してしまったって訳か。
「災難だったな。まぁ時間が経てば元に戻るだろ」
「だ、だよね」
元から異性として意識出来ない間柄なんだ。
夢の中で強制させられた恋心なんて、冷静になればすぐに消えるに違いない。
そう思っていた。
軽く思っていた。
だが一度入ってしまったスイッチはオフにする方法が存在していなかったんだ。
そしてそのスイッチが切りかわっていたのはちゃみだけではなかった。
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『おはようシン』
『おはようちゃみ』
『昨日は凄かったね』
『ついはりきっちゃったわ』
ベッドでくっついて寝る裸の俺とちゃみ。
視界には入っていないのに、離れた所のベビーベッドに俺達の子供が寝ているのが何故か分かる。
俺もまたちゃみとの新婚生活を夢に見てしまった。
それも異性を強く意識するエロよりな夢を。
その結果どうなったかと言うと。
「お、おはよう」
「お、おはよう」
俺もちゃみを異性として意識して挙動不審になってしまった。
ちゃみもまだ昨日の状態から抜け出せていない。
「ちっ、やっぱりこうなったか」
「このクラスにまたバカップルが増えた。地獄だ……」
「いちゃつくのは外でやれよな」
くそ、好き勝手言いやがって。
だが不思議といつものように全力で否定が出来ない。
むしろちゃみとの関係を意識してしまい、顔が火照るだけ。
どうしてこうなった。
いや、こうなった理由は察しがついている。
これまではちゃみと男女の関係になると想像しても現実感が全く無かった。
一緒にプールに行こうとも、事故でキスしそうな程に顔が近づこうとも、お互いに笑って済ませていた。
だが相手がいなければ成人式から付き合うと約束し、具体的にその先の人生を想像してしまったが故に、現実感が生まれてしまったんだ。二十歳大学生という、最もエロエロなことをやりそうな時期の事を妄想してしまったのも大きかっただろう。
「よしちゃみ、今日は放課後カラオケに行くぞ!」
「え?」
「こういう悶々とした感覚は、全力で声を出して吹き飛ばすに限る!」
「なるほど、さすがシン!」
別にちゃみと付き合うのが嫌というわけではない。
ただ、なんかいきなりすぎて気持ちを受け入れられないだけ。
一旦気持ちをリセットさせて、改めて考えたかった。
そのためのカラオケ。
俺達のどちらかがメンタルにダメージを負った時は、いつもこれで心の洗濯をしていた。
「…………シ、シン」
「…………ちゃ、ちゃみ」
だがそれは大失敗だった。
二人っきり、個室、薄暗い。
お互いを強く意識して戸惑っている男女に何も起きない訳がなく……
数年後。
「あいつらマジで子供連れで来やがった」
「チッ、見せつけやがって」
「羨ましすぎるうううう!」
投稿直前に気付きましたが、成人の日は性人の日だってネタでエロ全振りにした方が良かったですかね。




