表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

雨上がりの街④

「観測対象《NO.47》、

 午後17時43分に空間転移反応を確認。

 連続行使回数、推定21回。

 規定安全値を大幅に超過。」



男の声は淡々としている

報告書の文字を打つ指先すら、機械のように正確だった



「過剰回数によるギフト構造の崩壊を確認。

 対象は身体内部からエネルギーの暴走を起こし、周辺空間を巻き込みながら爆発的放出に至った。」



端末に映るのは、光で焼けた街の航空映像

中心には、何も残っていない白い円


「爆心地のエネルギー残留反応:測定不能。

 同時に、情報粒子と思しき微細な記録反応を観測。

 “記憶情報の流出”を確認。」


彼は短く息を吐き、次のページをめくる。


「同伴者《少年A》。軽度の外傷。

 脳波に異常反応あり。直後に短期記憶領域の損傷を確認。

 意識回復後、対象《NO.47》に関する記憶は完全に欠落。

 固有名詞・映像記録ともに消失。」




端末を閉じる音

一瞬の沈黙




「……“消える”ではなく、“溶ける”か」



誰に向けるでもなく、彼は呟いた



「報告終了。対象《NO.47》、観測を終える。」



冷たくも正確な声が、記録の最後に残された


ただ、その録音には入っていない

彼がその後、ほんの一瞬だけ


目を伏せたということは










まぶたの裏に、光がちらついている

耳の奥で、ざあざあと雨の音が鳴っている


ケンタはゆっくりと目を開けた


そこは、見慣れた街の路地だった

夜の匂いと、アスファルトの湿気

何も変わらないはずなのに、なぜか胸の奥が冷たい




「……ここ、どこだ?」



頭が重い


思考が霞んでいる


立ち上がろうとした瞬間、足元に白い布切れが瓦礫に挟まっていた


拾い上げる

でも、何のものか思い出せない


見たことがある気がする

けれど、どんなのものだったのかも、

なぜそれを拾い上げてしまったのかも、分からなかった



「……なんだろ、これ……」



布切れを優しく撫でると、一瞬だけ眩しく光ったような気がした

その瞬間、なぜだか涙がこぼれた


理由は分からない

ただ、胸の奥が締めつけられるように痛かった


「……なんで……泣いてんスか、俺……」


呟きながら笑おうとしたけど、声は震えていた

どこかで誰かが呼んだ気がした

でも、風の音にかき消されていく


遠くの空から、光の粒がひとつだけ落ちてきた

ケンタの肩に触れて、すぐに溶けて消えた


何も思い出せない

でも、確かに“何か”があった気がした


「……ま、いいか」


彼はその布切れをポケットに入れ、歩き出した


夜の街を照らす光が、静かにまたたいている

雨上がりの匂いが、どこか懐かしく胸に残った


その理由を知らないまま、ケンタは振り返ることなく歩き続けた




彼の世界から、“しいな”という名前は、

もう二度と、思い出されることはなかった









「…あれ?黒沢さん?」


少女(しいな)はいつもの研究所で目を覚ます


「……はぁ、椎名君、目覚めたか、気分はどうかね?」


黒沢と呼ばれた眼鏡をかけたその男性は、やれやれと言ったように話しかける


その手にはコーヒーが入ったマグカップが握られており、半分程飲み干した後であった



「ん~?なんだか疲れがあるんですけど、気分はスッキリしてますね♪」


「はぁ……君は忘れてしまったようだが、君はここを抜け出して能力を暴走させてしまったのだよ……」


「あれ~?そうなんですかぁ~?なんだかごめんなさい♪」


謝罪はするがその彼女の笑顔や態度からは反省は見られない様子だった



「君を縛り付けるのはとてもリスクがあるようだな」


黒沢は慣れた様子で近くのポットから液体をピンクのカップに注ぎ、それを彼女に渡す


「椎名君、君はこれからは"好きに生きろ"」


「……?どういう意味です?」


黒沢からカップを受け取り、それをズズズと啜りながら少女は問う


「閉鎖的な空間からの過度なストレス、それが今回の事故の原因だ、君には負担をかけてしまい申し訳なかった」



残りのコーヒを飲み干し、さらに話を続ける



「これからは自由に外に出ても良い、私が許可する、だが、不用意な能力の使用は禁止する」



「えー!わたしこれからお出かけしても良いんですか!?やった~♪」



少女はニコっと笑い、その場でクルクルと回りだす



「わたし、てっきり黒澤さんに捨てられるかと思いましたよ♪」



無邪気な少女の一言、彼は一瞬表情が固まったかのようにも思えたが

眼鏡の奥に見える目の光は誰にも見えることはなかった



「……これから忙しくなる、猫の手も借りたい程だ、君にも色々仕事してもう予定だ」


「ぶぅ~!いやいや~!遊びたいよ~!!」


「……それは、ほどほどでお願いしよう」



少女(しいな)は頬を膨らませて如何にも嫌だとアピールをして抵抗していた




ふと、なにかのパンの香りを


誰かの手の温もりを


肩に掛かる衣服の優しさを


思い出した





ような気がした





「……椎名君?」



唖然とした表情の少女を見て、不思議そうに声をかける黒沢



「……ううん♪なんでもないよ黒沢さん!それよりお休みは沢山もらっちゃいますからね♪」




彼女が過ごした短い時間



少年と過ごした僅な時間



その儚い時間の記録(きおく)は、世界の記憶(きろく)の見えない所で



そっと目を閉じた


ここまで読んで下さりありがとうございました。

よろしければ是非本編もご覧下さい。

ブックマーク、評価もよろしければお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ