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苦手な方はご注意ください。

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ウェル村の住民たち

作者: あかかど

「ふあぁ~…」

ポカポカとした日差しと心地の良い風が吹いている中、原っぱで横になっているとあまりの気持ちよさに眠くなってしまう。俺、ブレイ・モストはこんな些細な平和が大好きだ。

「今日も平和だな~」

「お~いブレイ、魚取って来たよ!」


背後から少しい大きな声で呼ばれる。そちらの方に目を向けると大量な魚が入っている大きなかごを持った女性が立っている。


「ありがとうレイ。大量だね」


レイ・リース。俺と同じ村に住む女性だ。ピンクの長髪に華奢な体。一体あの体のどこにあの大量の魚を持つ力があるのだろうか。


「これでも加減した方なんだよ?本当はもっと取ろうとしたけど取りすぎるなって言われてるし」

「だとしてもこの量は多すぎると思うけど」

「大丈夫よ。逆にこれっぽっちの量であの燃費の悪い男が満足出来るのかって感じ。あ…噂をすれば」 


ドゴォォォン


レイが話し終えると同時に後ろから凄い衝撃が起こる。振り返ると俺やレイの数倍の大きさの生き物が横たわっている。


これはミールゴズだ。とても上品な味で平民貴族問わず人気な食材だが、凶暴さゆえに家畜化はされていないことで有名な牛だ。しかもこの大きさ、恐らくは群れの主クラスだろう。

珍しい大きさに感心しながらミールゴズの上に座っている青年に声をかける。


「こりゃまた大物を取って来たなノヴァ」

「サンキュ~、でもこれくらい余裕だよ。取りすぎるなって口酸っぱく言われてるからわざわざ小さい奴取って来たんだよ」

「これで小さいっておかしいだろ」

ノヴァ・アルト。彼も俺とレイと同じ村に住む青年だ。黄色みが強い金髪にシュッとはしているがしっかりと筋肉がある、簡単に言えば細マッチョだ。


ノヴァはミールゴズから降り、俺の前に立つ。


「ブレイ~、俺これだけじゃ足りないんだけど…」

「レイが大量に魚取ってきてくれてるから」

「おっ、ホントか!どれどれ…うん!これならギリギリ腹二分目くらいまでならたまるだろ」

「あんたのためだけに取ってきたわけじゃないんだからちゃんと食べる量考えなさいよ。全く、あなたの無駄な燃費の悪さのせいで食べる量には毎回呆れさせられるわ」

「お前は俺らと違って()()()()()だろ!しかも何なら食わなくても生きていけるだろ!」

「お腹すいてなくてもお菓子は食べるでしょ。それと同じ」

「この量でギリ腹二文目って、お前の胃袋凄まじいな。じゃあ腹減ってるだろうし昼飯作るか」


作ると言っても俺はただの村人だ。特に何か凄い料理を作るわけでもない。しかもこの量だ、手の込んだ料理なんか作る時間も足りない。


俺は最低限食べられない部分だけは取り除き下味を付け後は火で丸焼きにした。二人はこんな簡単な料理でも喜んで食べてくれる。


「出来たぞ~」

「よっしゃ~!いっただっきま~す!」

「頂きます」


三人で作ったご飯を囲みながらたわいのない会話をいつものようにする。


「それにしてもレイ、ノヴァ。今回の目的は王都に買い物しに行くだけで暇になるのによくついてきたな。俺はウェル村にいた方が絶対良かったと思うんだけど。爺ちゃん婆ちゃんの農業のお手伝いしてたら新鮮な農作物も食べれるし、村の子供と遊べたり、しかも二人なら王都なんていつでも行けるだろ、俺の移動速度に合わせてたら暇だろ」

「いいか~ブレイ、こういうのは人と行くから楽しいんだよ。俺はたまに村から出て高級な魔物や魚取って食う時あるけど、今皆と食ってるこのごはんの方が何倍も美味い」

「そうよ、しかも私たちは他の皆との勝負から勝ち取ってブレイの買い出しについていけてるの。もしも退屈なんて言ったら皆に殺されてしまうわ」

「村の皆って言うな。()()()()()()、だろ。てか勝負って、喧嘩はするなって言ってるだろ」

「勿論喧嘩じゃないわ」


そう言うとレイは俺に拳を見せて一言いう。


「ジャンケンよ」

「…そっか」


良い顔で真剣にジャンケンと言われると何だか返答に困ってしまう。


いつも通り楽しく話しながらご飯を食べ終える。あの大量にあった食材ほとんどノヴァの胃袋に収まった。


「二人は後片付けしててくれ。俺は森の中で木の実でも探してくるから」

「森は危険だから私達が行くわよ」

「二人はもうご飯を取ってきてくれたんだ。俺が行くよ」

「分かったわ。でも念のため30分経っても帰ってこなかったらすぐに迎えに行くわ」


そして俺は森の中に入る。森の中は様々な植物や虫、更に魔物がいる。まだ森の深部には入っていないためそこまで危険な魔物がいるわけではないが、絶対ではない。用心して進もう。


流石は森だ。確かに危険もあるがそこら中に食材がある。まさに食の宝庫だ。。


10分ほどしたところである程度の量が集まる。


「まぁこれくらいの量があれば十分かな。遅れたら大変だしそろそろ戻るか」


そう思い、来た道を戻る。


…何だ、あれ?


行くときは気付かなかったが木の麓に何かある。それを見てみる。


「これは…金貨?いや、金貨だけじゃない、宝石もある」


何でこんな所に…。こんな目立たない場所にお宝。そして土や植物をかぶせて隠しているわけでもない。とするとこれは…


結論に至ろうとしたところで頭に強い衝撃が走る。その衝撃と共に俺は自分の中の結論と答えが合致したことを悟った。


「へっへっへ、また一人罠にかかったぜ。さっさとこいつを連れてアジトに帰るとするか」

「そうだな…おい!こいつ平民ななりして結構金になるもん持ってるぞ!こりゃこいつを人質にして脅せばもっと稼げるかもな」


やはり盗賊だったか、急いで二人のもとに戻らなければ。しかし当たり所が悪かったのか体が全然動かない。まずい…ドンドン…意…識…が…。




「…ろ。…きろ。…起きろ。おい!起きろ!」


は!


大声で目を覚まし辺りを見渡す。どこかの洞窟の中なのだろう。松明で暗闇を照らし、周りには大量の山賊がいる。


「おはよう」

「おい!俺を連れ去ってからだいたいどれくらい時間がたった!」

「こんな状況なのによくそんな口が叩けるなお前。お前の度胸だけは評価してやろう。特別に教えてやろう。大体15分くらいだ」

「なんだって!?まずいことになる前に早くここから出て二人のもとに帰らなくちゃ!」

「おっとそれは無理だ。お前は俺達の大切な人質なんだからな」


山賊は薄気味悪い笑顔をこちらに向ける。周りの下っ端たちはこの状況を見ながら大笑いし酒をあおりながら肉にかぶり付いている。よく見たら少し奥のゴミ捨て場であろう場所に俺たちが今日食べたミールゴズよりもさらに大きなサイズのミールゴズの骨が捨ててある。


「金目の物なら全部お前らに渡す!」

「残念だがお前が持っていた金目の物はすでに回収した。だが俺たちはこれじゃあ満足しない」

「分かった。解放してくれたらもっとやるだから頼む、解放―――」


バンッ!!!


俺が解放してもらうよう懇願していると俺の顔のすぐ横を銃で撃つ。恐らく弾丸がかすめたのだろう。少しの痛みと共に液体が頬を伝っているのが感じる。


「さっきからうるさいんだよ。お前はお願いできる立場じゃねぇんだよ。黙って俺たちの事を聞いていればいいんだよ」


目を充血させものすごくいら立っている。ただでさえ悪い状況だったのにより一層悪い状況になってしまった。どうやってこの危機的状況を抜け出そう。


「解放してくれたらもっと金目の物をくれるって言ってたよな。残念だったな、普通の山賊ならそれで良かったかもしれないが、俺たちは普通の山賊じゃない」


この山賊団の長であろう男は大声を出して高らかに叫ぶ。


「この紙を見ろ。王都で定められている危険度(カタスト)ランク、俺たちはそのランクDに等級されているチャギム山賊団だ!分かるか?俺様チャギムが率いるこの盗賊団は王都宮殿所属やギルド所属のの熟練の戦士や魔法使いが数人いてようやく立場が同じになるんだよ!そんじょそこらの力自慢じゃ俺たちの前じゃ蟻も同然だ!」


そう叫び終わると共に周りの山賊も大声を出したり笑い出す。


「あんたらがすごいのは十分分かった、だけどお願いだ俺を開放してくれもう時間がいないんだ!」


俺の懇願を聞くとチャギムが俺に顔を向ける。


「なるほど、お前が普通の人間の何倍も肝が座っているという事も分かった。だから俺も気が変わった。考えを改めよう」

「じゃ…じゃあ!―――ぐふっ!?」


解放される、そう一縷の希望を持つと同時にものすごい勢いで蹴りを入れられる。全身を縄で縛られていたため受け身が取れず全身を打つ。


「お前が普通の人間の何倍も肝が据わっていることは分かった。だがお前が普通の人間の何十倍も俺様をイラつかせる才能を持っているという事も分かった。だから今すぐ殺すことにする」


そう叫ぶと周りの山賊から殺せコールが沸き上がる。洞窟という密閉空間という事もありものすごい騒音だ。


チャギムは俺の額に銃口を当て一言いう。


「最後に何か言い残すことはあるか?」

「最後にもう一度だけお願いする。()()()()()()()()()、俺を開放してくれ」

「最後まで癪に障る男だな」


殺せコールが最高潮になる。そしてチャギムが引き金を引く。




瞬間に周りの山賊がバタバタと倒れ始める。それも一人や二人ではなく何十人も。


「終わった…」

「おいお前ら!どうした!?貴様ぁ…何をした!」

「ただ眠ってるだけよ。眠ってると言っても死にものすごく近い眠りだけど」


そう静かに言いながらピンクの長髪に華奢な体をした女性、レイ・リースが静かに足音をたてながら洞窟の奥から歩いてきた。


「女?外の見回りの連中はどうした!」

「外の人間も今そこで横たわってる人間と同じ状態よ」

「へっそうかよ。この状況を見る感じお前魔法使いかなんかだろ。少しは腕が立つようだが残念だったな。お前が乗り込んできたのは魔法使い一人でどうこうなる相手じゃねぇんだよ!お前ら掛かれ!」


その一言を合図にに周りの山賊たちが一斉に襲い掛かる。


「愚かね」


そう一言言うと背中から自分の身長よりも大きな黒い羽根を生やす。そしてその羽を一回仰ぐとものすごい突風が吹く。そして吹き飛ばした山賊一人一人丁寧に手で触れる。触れるとともに山賊は一気に眠りにつく。


「まっずぃ夢ね。魚の方がもっとおいしい夢みてるわよ」


そのレイの動き、そして姿を見て先ほどまで凄い威勢が良かったチャギムが体を震わせる。


「おっお前その黒くて大きな羽、そして人間の物とは異なるその牙…悪魔か!?しかも人を簡単に眠らせ夢を食う。他にも羽の大きさや風圧。ただの悪魔じゃねぇ…まさか侯爵級か!?」

「呆れた。あなた悪魔の事全然知らないのね、良いことを教えてあげる。この程度の事侯爵級どころか子爵級でも出来るわ。といってもここまで効果は大きくないけど、まぁ私クラスになると意識しなくても勝手に周りが眠るどころか死んじゃうけど。これでも手加減してるんだから感謝しなさいよ?」

「てことはまさか危険度ランクA、討伐するのに何個もの王都が結託し全勢力を合わせてようやく互角になる最高級位の公爵級か!?」


チャギムがそう震えながら声を出す。


「残念、もう一個上。私は色欲の女王、悪魔なら国王の方が分かりやすいかしら。まぁ男か女かの違いなんてあんまり関係ないわね」

「女っ女王!?」

「そう、残念だったわね。ランクS、天災、終末、敵対したらこの世の終わり。あなたは今それを相手にしているの」


チャギムは震えながら武器を捨て地面に伏す。


「ど…どうか見逃してくれ。頼む、金目の物なら全部やる、いや差し上げます」

「あなたはブレイに手をかけたは。それはどんな理由であっても許されないし許さない。でも私は優しいから一つだけチャンスをあげる」

「ほ…本当ですか!」

「えぇ本当よ、なんたって私は女王。心が広いのよ」


嘘だ…あの顔は俺にこれからどうやっていたずらしてやろうかと考えている時の顔と同じだ。そして彼女が何をさせるのかそれは何となくというより確実に分かる。


「今からくる魔物に一撃でも与えることが出来たら見逃してあげる」

「ほっ本当に一撃与えるだけで開放してもらえるんですか!?」

「勿論。私は優しいから更にサービスしてあげる。あなただけじゃなくてあなたの仲間全員含めて一人でも攻撃することが出来れば良いわ。しかも相手の的が無駄にデカいというおまけ付きよ」

「分かりまし、それで魔物はどちらに…」

「そう焦らなくてもすぐに来るわ。どうせ私がこんなことしてもしなくてもね」


嘘だろ!すぐ来る!?まずい死ぬ!


そう考えていると凄い勢いでレイが俺を抱え離れる。そして同時にものすごい振動、音と同時に先ほどまで真っ暗だった洞窟が明るくなる。いや、明るくなったというよりは一瞬で外になったという方が正しいだろう。


凄い量の砂埃、しかしその量でも隠せないほどの大きな巨体が現れる。その生き物は大きな翼、尻尾、そしてそこら辺のナイフなどの何倍も鋭い鱗を付けている。


チャギムの仲間の何人ががれきの下敷きになっただろうか。しかし彼には今そんな事を考えている余裕はない。


「ド…ドラゴン…だって…?」

「悪しき人間よ。貴様は我の友、そして家族を無下に扱った。その行い万死に値する」

「黄色…いや金のドラゴン…そうか分かった。これは夢だ。ドラゴンなんて今生きている人間の何人が見たことがあるんだって話だ。ランクもS。しかも確認されているドラゴンは赤龍と緑龍だけ。金色のドラゴンなんて確認されていない。ドラゴンの鱗一個売るだけで億万長者なのにそんな金の鱗なんて売ったら人生いくつあっても足りない。そうだ!何でもっと早く気付かなかったんだ、悪魔の女王、未確認の金のドラゴンが俺なんかの前に現れるわけがない。これは夢なんだ!」


チャギムはこの有り得ない状況を夢と決めつけてしまったようだ。まぁそれも仕方ないだろう。誰だってこんな現実離れした状況に立ち会うと現実だとは思えないだろう。

「残念ながらこれは夢ではない。それを貴様は身を持って痛感するだろう」

「うるせぇ!夢の中だからな、寝覚め良くするためにカッコよく倒させてもらうぜ!」


チャギムは勢いよく近くに落ちていた剣を持ち金龍に立ち向かう。


「グオオオオォォォォォォ!」


金龍はチャギムに向かって雄たけびを上げる。その雄たけびの振動だけで周りの岩石などが崩れ落ちる。更に地割れが起きる。チャギムは白目をむき泡を吹きながら気絶する。


俺はレイの側を離れ足元が悪いため気を付けながら金龍の元まで歩く。そして俺は金龍に声をかける。


「いつも言ってるけど叫ぶときもうちょっと静かにできないのかよ()()()


そう声をかけると先ほどまでとは全然違う口調で俺に話し返す。


「これでも手加減したんだぞ!俺にとってさっきのは欠伸したのと変わんないぐらいだし」

「こうなるから俺は一生懸命山賊団に開放してくれった頼んでたのになぁレイ、この山賊団全員生きてるかな?」

「安心してそこは大丈夫。しっかりと全員生きてるわ。あと数ミリ前に進めば死ぬくらい瀕死だけど」

「前から言ってるけどもう少し何とかなんないのか?ここまで可哀そうな目に合わせる事なかっただろ」

「ブレイ、貴方は優しすぎよ。いくら私たちがいたとはいえ命を狙われていたのだから。数秒違っていたら死んでてもおかしくはなかったのよ。後前から言ってるでしょ。私達はウェル村の人達、そして一定の親しい人以外の人間という種族なんてどうでも良いって。皆が人殺しはよくないって言いうから仕方なく生かしてるだけ」

「そうだそうだ、俺だってそんな約束してなかったら食って腹の足しにしてるところだ」

「じゃああなた食べる?一人ぐらいなら言い訳したら何とかなるかもよ」

「腹壊しそうだからやめとく」


そう言うとノヴァはドラゴンの姿から見慣れた人間の姿に戻る。


「にしてもこの瓦礫の中から買い物の資金探すの大変そうだな。今日はここらへんで野宿かな」

「それなら大丈夫」


そう言うといつの間にかレイの手には資金の入った袋が乗ってあった。


「ブレイを抱えて離れるついでに回収しておいたの。しかもそれだけじゃないわ」


レイは気絶しているチャギムをぷかぷかと浮かせこちらに寄せる。


「このチャギム山賊団?だったかしら。こいつらをギルドにでもぶち込めばさらにお金がもらえてもっとお買い物が出来るわ!私村の女の子たちに可愛らしいお洋服買ってあげたい!」

「それなら俺は小僧たちに新しい玩具をお見上げにしたいな!」

「分かった分かった。今からなら日が暮れる前に王都に着くだろうし向かうか」

「そうねでもその前に」


そう言うとレイは俺の頬の傷口を舐める。そうするとたちまち傷口はふさがり止血され、初めから傷なんてなかったかのように修復が完了する。


「前から言ってるけど直すのに舐めるのなんか必要ないだろ。人の肌舐めるのなんてばっちぃからやめとけって」

「そんな事ないわ。昔から言うでしょ、唾つけときゃ直るって」

「それとこれとは別だと思うんだが」

「なぁ、腹減ったからとっとと王都行こうぜ」

「お前つい数十分前にご飯くったろ」


そんなこんなでまたいつも通り談笑しながら王都まで向かった。大量の山賊団を引き連れながら。




予定通り日が暮れる前に王都に着いた。俺たち三人は門の前で固まって話す。


「良いか、俺はこれから村に必要な材料を買いに行く。レイは今日の宿を探してきてくれ、ノヴァはギルドに行ってこの山賊団を引き渡してきてくれ。いいか、今まで何回も言ってきたが」

「騒ぎは起こすなでしょ。分かってるわよ」

「おう!任せとけ!」

「お前が一番の懸念要素なんだよノヴァ、まぁいい。じゃあ一時間後王都中心の噴水広場で集合な」


そうして俺たちは分かれる。


食材、調味料、服、建築資材から道具。村の子供たちのために新しい書物なんかも買う。いつも同じ店で買うため店員さんとは皆顔見知りだ。そのためお得意様価格で売ってくれたり、わざわざ珍しい物も取り寄せてくれる。ありがたい。店員さんと世間話をしながら買い物をしているとあっという間に1時間が立ってしまった。俺は会話を切り上げ噴水広場に向かう。


「まだ誰も来てない。二人、村の子供たちのお土産買うのに悩んでるのかな。買った本でも読んで待ってるか」


おれは近くのベンチに腰を掛け本を読む。しばらく本を読んでいると辺りがザワザワとし始める。何かと思い顔を上げると王様直属の騎士団、エリート騎士団達の更にエリート達が列を組み歩いていた。


普段この人達は仕事中にこんな場所に来る事なんてめったにないだろう。しかし俺にはここにいる理由が理解できる。急いで道具を持ちその場を離れる。しかし時はすでに遅かった。


「お迎えに上がりましたブレイ・モスト様」


振り返った先には跪いた騎士団の団長がいた。


「ハァ…餌に釣られたのはどっちですか」

「恐れながらお二人様両方でございます」

「そうですか、出来るだけ目立たないようにお願いします」

「かしこまりました。では失礼します」


そして俺は凄い勢いでお城まで連れていかれた。





「で?お前らは何に釣られたんだ?」

「…村の子たち用の服とドレス」

「…肉」


山賊団を相手にしている時とは見る影もないくらい縮こまっている二人と話す。


「腐ってもドラゴンのノヴァと色欲の女王であるこの私を口説き落とす。やはりこの王都、やり手ね」

「あぁ全くだ。山賊と同じ人間相手なのに手も足も出ないなんて」

「アホかお前ら」

「まぁまぁブレイ君。急にお呼びしてしまったこちらに責任がある。そこらへんにしてくれないだろうか」


声の方に顔を向けるとこの王都を収めるものである王様、女王様そして王子様が立っていた。


俺は精一杯の所作で対応した。レイが丁寧な立ち振る舞いになる。ノヴァはきれいな立ち振る舞いのつもりなのか身長を測るときみたいにピンとしている。


「いえいえ、お招き感謝します」

「ハッハッハそう堅くならないで。私たちの仲じゃないか。それにそちらには()()()()()様もおられる。こちらも緊張してしまう」

「いえいえ、そんな謙遜しないでください。確かに私は色欲の女王で王の何倍も生きてはいますが精神的な年齢が違い、尊敬しています」

「そうだね、ブレイ。僕たちの仲だろ?」


「しかし王子…。王様、王様のご友人であられる村長は今この場にはおられませんのでやはりどうしても緊張してしまいます」

「なら今度ウェル村に訪れた時に堅くなっていない君を楽しみにするとしよう」

「そうしましょう父上」

「失礼ながら王様、今日呼ばれたのはどのような件で?」

「チャギム山賊団の件さ。彼らには我々も手を焼いていてね。その感謝をさせてもらおうと思ったまでだよ」

「そっそうですか。わざわざ申し訳ございません」

「食事の用意を済ませてある。それに山賊団の様子から察するにブレイ君も大変な目に遭っただろう。今日は城に泊まっていくと良い」

「王様!肉あるよな!」

「ああ勿論。君の大好物だからね、好きなだけ食べると言い」

「こらノヴァ!口調!ハァ…もういいか」


そして王様、女王様、王子様、悪魔の女王、ドラゴン、村人という場違いの仲ご飯を食べた。とても緊張したが頑張って料理を堪能しその後は精神的な疲れからか倒れるように眠りについた。


「それでは王様、私たちはこれで失礼します。つぎウェル村でお会いする時を楽しみにしています」

「本当はもう少しゆっくりしていって貰いたいがそちらの都合もあるだろう。今回は見送らせてもらう」

「はい、では失礼します」


そして俺たちはこの国の頂点に見送られながら王都を後にした。


「ふぁ~あ眠い」

「なんだブレイまだ眠いのか?あんなにフカフカなベッドで気持ちよさそうに寝たってのに」

「そうなんだよな、しっかり寝たはずなのに」


そう思いながら俺はボーっとしているある事に気が付く。


レイのやつ、何であんな髪がサラサラなんだ?いや、いつもサラサラだけどあそこまでじゃないシャンプーが良かったのか?更に何で裸ツヤツヤなんだ?城に置いてあった化粧水が高級品だったからか?


「…おいレイ。お前何でそんな今日血色良いんだ?」

「え?そうかな?」

「お前、俺寝てる時に俺の夢食いやがったな」

「…一口だけ?おつまみ程度?かな。だってしょうがないじゃん!ブレイの夢がおいしすぎるのが悪いんだもん!ただでさえ昨日はまずいもの食べたんだし、まずいもの食べたらおいしいもの食べたくなるのは当たり前でしょ!?」

「悪魔は人間の魂や欲望や心、夢を食って、完全に食われた人間は廃人になるとかいうよな。それで俺はものすごく疲れてる。もう一回聞く。お前俺が寝てる間に俺の夢食いやがったな、しかもシャレにならない量を」

「…」


黙ったと思ったら一回の瞬きと同時に音もなく姿を消す。

「あいつ逃げやがったな!」

「夢って旨いのかな」


俺達はただでさえ大量な荷物を一人消えたことによりさらに大変な思いをしながら俺たちはウェル村に帰った。




「団長、質問よろしいですか?」

「どうしたんだい」

「昨日迎えに上がったウェル村の殿方とご婦人。彼らは何者でありましょうか」

「そうか、君はこの騎士団に入隊したのはつい先日だったね」

「彼らの住んでいる村長と王様が小さい頃からのご友人でね、簡単に言えば幼馴染でね。だからブレイ君も赤ちゃんの頃から知り合いなんだ。何なら王子とブレイ君も幼馴染で子供の頃はよく二人でいたずらしてて僕もよく手を焼いたものさ」

「なるほど、あれだけの待遇も納得です」

「いや…それだけじゃないんだ」


この王都の棋士最強であり騎士団の長である団長は神妙な面持ちで話し出す。


「たとえ話をしよう。我々はもちろん王を含めこの世界の多くの人間は神を信仰し崇めている。そして今、君は神と友好な関係を築けている。もし君は神を愚弄すれば絶対に逃れようのない天罰が当たると理解しているにも関わらず君は神への信仰を捨て神へ愚弄する行為をするかな?」

「いえそのようなことは決して…まさか彼らウェル村の人々はみな神とでもおっしゃるのですか!?」

「いやそういうわけではないよ。もしそうなら村なんて規模には収まらないだろうし、もっと有名になっているだろうね。実際君の様子から察するにウェル村の存在は知らなかっただろう。無理もない、辺境にある少しだけ大きめのあまり名の知られていない村だからね」

「でっ…ではなぜその様な例え話を…」

「王直属のこの騎士団に入隊したんだ、君は必ずそのうち理解していくさ。なに安心したまえ。普通にさえしていれば大丈夫だ。ウェル村の人々は皆心が広く優しいからね」





王様の執務室には一枚丁寧に、そして綺麗に飾られている額縁がある。その中には一枚の写真と一枚の紙が入れられている。それは王様とウェル村の村長の若かりし頃、ウェル村を興した時に行われた楽しそうな宴を行っている時の写真。そしてもう一つ。それは王都が発行する危険度(カタスト)ランクが書かれた紙。


[危険度(カタスト)ランク X ウェル村]

ここまで読んでいただきありがとうございました。この作品を思いつきファンタジー作品と言う物を始めて書いてみました。少しでも面白いと思っていただけたら光栄です。

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