66話 ひそやかな護り手
——十二年前。
姉ちゃんはいつでも俺に優しかった。思い返せば、隣にいたときの姉ちゃんの表情はほとんどが笑顔だ。たまに叱られることもあったけれど、それは喧嘩ではなく、俺がやらかした悪さへの注意だった。
遊び相手であり、半分は保護者のような存在。そんな姉ちゃんが、一度だけ——本気で怒ったことがある。
実家には、古びたぬいぐるみがある。生前、姉ちゃんが何より大切にしていた、丸くてやたら大きなクチバシが特徴的な鳥のぬいぐるみだ。
——あれを見ると、どうしても思い出してしまう。
俺が姉ちゃんを本気で怒らせて、泣かせてしまった、あの時のことを。
「姉ちゃん、ゲーム一緒にしようよ」
あの日、俺は暇を持て余し、姉ちゃんにかまってほしくて声をかけた。
いつもなら即座に振り向いてくれるのに、その日は違った。
「ごめんね。ちょっと今、手が離せないんだ〜」
「え〜、何してるの〜?」
姉ちゃんは机に向かい、小さな手元に集中していた。糸と針を使い、何かを縫っている。
「この子、羽根が外れそうになっててね。治してあげてるの」
縫われていたのは、あの鳥のぬいぐるみだった。
古びて色褪せ、片方の羽根は今にもちぎれそう。他の部分も、細かく繕った跡がいくつもある。
今なら、その度に姉ちゃんが丁寧に手を入れてきた“思い出の品”だと察せる。
でも幼い俺には、ただの薄汚いぬいぐるみにしか見えなかった。
「こんな汚ねーぬいぐるみ捨てて、新しいの買えばいいじゃん。それよりゲームしようよ、ねぇ?」
とにかく姉ちゃんに振り向いてほしくて、言葉はどんどん乱暴になった。
「ごめんね。本当に今、手が離せないの」
姉ちゃんの視線は針先に向けられたまま。俺のほうなんて見てもいない。
胸の奥が焼けるように熱くなり、幼い俺は余計に苛立った。
「もう、そんなぬいぐるみなんてほっとけよ! 壊れたなら新しいの買えばいいだけじゃん!」
「……ん〜、そういうわけにもいかないの。このぬいぐるみはね、世界で一つだけだから」
姉ちゃんは優しく言いながらも、最後までぬいぐるみから目を離さなかった。
あの日、結局姉ちゃんに遊んでもらえなかった俺は、胸の奥にもやが残ったまま夜を迎えた。
——そして翌日。
「姉ちゃん! 今日こそゲームしようよ!」
意気込んで声をかけた俺の視線の先で、姉ちゃんはまた針と糸を握っていた。
「羽根、中々うまくいかないなぁ……。もっと丈夫な糸のほうがいいのかな」
ぶつぶつ呟きながら、姉ちゃんは俺の存在に気づきもしない。一心不乱に、あの鳥の羽根を縫っている。
結局その日も、俺は一人でコントローラーを握っていた。
*****
数日後。ぬいぐるみの修繕が無事に終わったらしく、姉ちゃんはまたいつものように俺の相手をしてくれるようになった。
その日は夕飯の買い出しに一緒に出かけていた。
「最後に特売の野菜を……あれ、柊夜?」
「姉ちゃん、姉ちゃん! こっち! これ見てよ!」
俺は少し離れた棚の前で姉ちゃんを呼んだ。そこには、地域限定のぬいぐるみが並んでいた。
「前に姉ちゃんが縫ってたぬいぐるみ、あるじゃん!」
「そうだね。家のあの子もここで買ったんだよ。この子たち、風切市のマスコットキャラなんだって。あんまり広まってないけどね……あんなにかわいいのに、不思議だね」
姉ちゃんは、嬉しそうに棚のぬいぐるみたちを眺めていた。
「そういえば今度はくちばしが取れかけてるんだった……また帰ったら縫わなくちゃ。
あの子、ボロボロだからね。縫っても縫っても、どこかしらまた傷んじゃうんだろうけど……この子との思い出だから、どうしても新しいものには替えられないんだ」
「えっ、また部屋にこもっちゃうの?」
「ごめんね。思い出したときにやっちゃいたいから」
その瞬間、胸の奥に、小さくて黒いものが沈殿した。
あの汚いぬいぐるみはこれからも姉ちゃんの時間を奪う。
——これは俺の敵だ。
姉ちゃんの大切なものは、俺だけのはずだった。それを邪魔する、動かないくせにいつまでも姉ちゃんを独り占めしようとする、この汚い鳥のぬいぐるみが、ひどく憎かった。
この時、幼い俺は動きもしないぬいぐるみに敵意と嫉妬心が芽生えた。
棚に並ぶ新品の鳥を見たとき、ふいに妙な考えが浮かんだ。
家にある、色あせてボロボロのぬいぐるみを捨てて、新しいのと入れ替えれば——
姉ちゃんはもう修繕に時間を取られない。
もし新しくなっていると気づかれたら、「俺が直した」と言えば褒めてもらえる。
子どもじみた、浅はかな悪知恵だった。
けれど当時の俺は、それを“妙案”だと信じてしまった。
これで姉ちゃんはもう、あの汚くてボロボロの鳥を縫う作業に時間を取られない。そう、俺は姉ちゃんのためにやっているんだ。
棚に並ぶ、新品の鳥のぬいぐるみ。それは、罪を犯すための、静かで完璧な道具に見えた。
*****
俺はなけなしの小遣いをはたいて、新しいぬいぐるみを買った。姉ちゃんが大切にしてるものより色が鮮やかで、触り心地もいい。
——これで姉ちゃんも喜ぶはず。
そんな浅い確信を胸に、元からあった古いぬいぐるみを近所のゴミ捨て場へ放り投げた。胸の奥にわずかな罪悪感があったが、「これで万事解決だ」と自分に言い聞かせてもいた。
だが当然、そんな都合よくいくはずがなかった。
「えぇぇぇぇっ!?」
ある日の夕方、普段は穏やかな姉ちゃんの声が家中を震わせた。
「真昼、どうしたの?」
母さんは慌てて姉ちゃんの部屋に駆け込んだ。
「姉ちゃん!?」
俺もそのあとを追うように続いた。
姉ちゃんは泣いていた。
目を真っ赤に腫らし、肩を震わせながら必死に涙をこらえている。
「そんなに泣いて……一体どうしたの?」
「わ、私の……大切にしてた鳥のぬいぐるみが、ないの……!」
胸がきゅっと掴まれるような声だった。
「あー、机の上にあるじゃん!」
俺は無理やり明るく振る舞い、新品のぬいぐるみを姉ちゃんの目の前に持ち上げて見せた。
棒読みの、どうしようもなく下手な演技だった。
姉ちゃんは泣き腫らした目でそれを見つめた。
「これ、綺麗になってるでしょ? これ……実は、密かに俺が直したんだよ。どう?びっくりした?」
褒められる。感謝される。
幼かった俺は、そんな都合のいい未来を本気で信じていた。
——だが。
「違う。これじゃない!」
その声は、いつもの姉ちゃんからは想像もできないほど鋭かった。
母さんも目を丸くし、動くことすらできない。
「新しいほうを置いたのは……柊夜、なんだよね?」
「えっ、あっ…………うん」
姉ちゃんは新品のぬいぐるみを見向きもせず、抱きしめることもせず、震える声で言った。
「私がいつも大切にしてたあの子……どこに持っていったの?」
しがみつくような目で、俺を見ていた。
その問いに、俺の頭は真っ白になった。
答えられるわけがなかった。
「酷い……酷いよ……。どうしてそんなことするの? 私、柊夜に何かした? 嫌なこと言った?」
「ち、違っ——」
「あれほど大事にしてたの知ってるのに……どうして勝手に触ったの!? あの子はどこに行っちゃったの……!」
その瞬間、胸がズキンと沈んだ。
「お母さん……私、柊夜の顔、今は見たくない……。部屋から……連れ出して……!」
「……うん」
母さんは俺の肩を掴み、部屋の外へ押し出した。
「え……? ちょっと、どうして……! 姉ちゃん……!」
ドアが閉まるまで、姉ちゃんのぐしゃぐしゃに歪んだ泣き顔が焼き付いて離れなかった。
あのとき初めて、俺は姉ちゃんから拒絶された。
たとえ自業自得でも、あの感覚だけは、一生忘れられない。
*****
幼い俺は、姉ちゃんの涙の意味をまったく理解できなかった。
どうして新しいものがあるのに、古いぬいぐるみにこだわるのか。
どうしてあんなに怒るのか。
分からないことばかりだったが、それでも——“ぬいぐるみを捨ててしまった”のが間違いで、自分が悪いということだけは理解できた。
「姉ちゃん……ごめん……。もう遊んでくれないの……? 一緒にお話しもしてくれないの……? やだ、やだよぉ……」
その夜、俺は後悔と罪悪感、そして“もう姉ちゃんと遊べなくなるかもしれない”という不安で眠れなかった。
翌日。放課後のチャイムが鳴り終わるのを待たず、俺はランドセルも背負ったまま学校を飛び出した。向かったのは——ぬいぐるみを捨てた、あのゴミ捨て場。
「な……ない……。そんなっ……!」
ゴミはすでに回収され、そこには何も残っていなかった。
絶望感が襲うが、それでも帰るという選択肢は俺にはなかった。場所も分からないゴミ処理場を目指し、街の方へ走り出す。
日が暮れ、夕飯の時間もとうに過ぎていた。
それでも足を止めなかった。すべては姉ちゃんに許してもらうため。そして——もう姉ちゃんの涙を見たくなかったから。
「うぅっ……」
ついに足が止まり、胸の奥から不安が込み上げてくる。涙が滲む。
それでも振り返ってはいけないと、袖で涙を拭って前へ進もうとしたその時——
「柊夜!」
背後から姉ちゃんの声が飛んできた。
「えっ、どうして……?」
振り返った先にいた姉ちゃんは、息を切らし、今にも泣きそうな顔で俺を見つめていた。
「もう、こんな時間まで何してるの! 帰るよ!」
「だ、ダメだよっ!」
俺は慌てて背を向け、前に進もうとする。自分の中で筋を通すために。
幼いながらも“これだけはやらなきゃいけない”という覚悟があった。
「柊夜!」
駆け寄る足音。次の瞬間——
「……帰ろ」
姉ちゃんは背後からぎゅっと力強く俺を抱きしめた。
汗の匂いがする。きっと必死に探してくれていたのだ。
そして、頭の上に温かいものが落ちてきた。
「姉ちゃん……?」
「……もういい。もういいよ」
姉ちゃんの手が優しく俺の頭を撫でる。あたたかい。
「柊夜の気持ちは、よく分かったよ。私のぬいぐるみ……探してくれてたんだよね? 今日の朝、お母さんに聞いてたもん。捨てたものはどこに行くのかって、必死に」
姉ちゃんは涙を拭いながら、ふっと微笑んだ。
「ぬいぐるみを捨てられちゃったのはショックだったよ。でも……柊夜が反省してるのは、ちゃんと伝わった。もう怒ってないから、帰ろ?」
姉ちゃんに抱きしめられたまま「もういいよ」と言われた瞬間、張り詰めていた糸がぷつりと切れた。
胸の奥に溜め込んでいた後悔も、不安も、全部あふれ出すように——気づけば俺は姉ちゃんの胸の中で声を上げて泣いていた。嗚咽が止まらず、姉ちゃんの服の柔らかな感触だけが、俺の罪悪感を洗い流してくれるようだった。
*****
翌日。
「これで……よし!」
姉ちゃんは自室で、上機嫌に針と糸を動かしていた。真新しい柔らかな毛並みのぬいぐるみが手元で揺れる。手にしたぬいぐるみの尻尾には、姉ちゃんのこだわりが感じられるように赤いリボンがちょこんと結ばれていく。俺はそんな姉ちゃんのすぐ横で、一挙一動も見逃すまいとその作業をじっと見つめていた。
「前に柊夜が買ってくれた、新しい子ね。この子、私が貰うよ」
「……うん!」
姉ちゃんが抱えているのは、あの日——俺が古いぬいぐるみとすり替えるために、なけなしの小遣いで買った“新しい方”だ。
動機は浅はかで、やったことは最低だったけれど……それでも"弟からの贈り物"であることには変わりないらしい。
姉ちゃんは、それを“新しい宝物”として受け取ってくれた。
「古い子のこともね、ちゃんと覚えておきたいの。捨てられちゃったのは悲しいけど……もし見つかってたら、二つ並べて飾ってあげたかったなぁ」
そう言う姉ちゃんの横顔は、どこか優しい寂しさを湛えていた。
後になって知ったことだが、あの古いぬいぐるみは——俺が物心つく前に亡くなった父さんからの贈り物だったらしい。母さんが何気なく口にしたその事実に、俺は思わず息を飲んだ。姉ちゃんがあれほど大切にしていた理由を、その時やっと理解した。同時に、俺がすり替えてしまった罪の重さが、再び胃の腑に鉛のように落ちてきた。
「これからよろしくね!」
新品のぬいぐるみに、姉ちゃんは笑顔でそう声をかけた。
——最初に述べた“実家にある古びたぬいぐるみ”とは、この日、俺が姉ちゃんに渡した“新しい方”のぬいぐるみのことだ。
そのぬいぐるみに“異変”が起きたのは、姉ちゃんが死んですぐのことだった。
*****
姉ちゃんが殺された直後のことだ。
俺は母さんと二人で、姉ちゃんの部屋の整理をしていた。
そこで、久しぶりに“あのぬいぐるみ”と再会した——そして、息を呑んだ。
大きく特徴的だったクチバシには、いくつもの細かい切り傷。
丸い腹部にはぽっかりと小さな穴が開き、白い綿がわずかに覗いている。
片方の羽根は辛うじて繋がっているだけで、少し触れればちぎれそうだった。
「……真昼が、やったの……?」
母さんは信じられないというように手を震わせていた。
俺も同じだ。
あの優しい姉ちゃんが物とはいえ、こんな姿になるまで壊すだろうか。
家族にさえ打ち明けられないほどのストレスを抱えていた?
それとも——。
俺たちはただ息を潜めて変わり果てたぬいぐるみを見つめるしかなかった。
その時。
——ビリ……ビリ……。
クチバシに、またひとつ、小さな切れ目が“勝手に”刻まれた。
「……っ、いやっ!?」
母さんは悲鳴を上げ、ぬいぐるみを床に放り投げた。
正直、俺も背筋が凍った。
母さんはすぐに近所の寺にお焚き上げの依頼をしようとした。
俺もその方が正しいのだと頭では分かっていた。
——でも。
姉ちゃんが悲しんだ顔。
昔、俺が古いぬいぐるみを捨てた時に見せた、あの泣き顔が脳裏から離れなかった。
気づけば俺は母さんを必死に引き止めていた。
結局、"害を及ぼさない限りは捨てない"という条件で、ぬいぐるみは家に置いておかれることになった。
それから霊障らしい霊障は起きなかった。
俺は実家を出る前に自分で修繕もしてやった。
——だが。
毎年二回、盆と正月に帰省するたび、俺の知らない“見覚えのない新しい傷”が必ず増えていた。
*****
夕食を終え、ふと机の上に置いたぬいぐるみが目に入った。
そういえば——霧子さんが家に来ている今が、一番の相談チャンスかもしれない。
「……というわけでさ。このぬいぐるみ、何か起きてる? 祓った方がいいの?」
俺は霧子さんを自室へ呼び、ぬいぐるみを差し出した。
霧子さんは無言で膝をつき、そっと手を翳して目を閉じる。
まるで何かの流れを辿るように、静かに息を整えていた。
しばらくして、霧子さんはゆっくりと目を開く。
その瞳は、いつもよりずっと鋭かった。
「……なるほど。先程の話と、実際に触れた感触でようやく確信が持てた。
結論から言わせてもらうと——これは祓ってはならない。
たとえ君が今すぐ依頼したとしても、私は受理できないだろう」
「……そうなんだ。元々祓うつもりはないけど、どうして祓っちゃだめなんだ?」
「このぬいぐるみが、今もなお真昼さんの魂を護っているからだ」
「……護ってる?」
「まず前提として、このぬいぐるみは既に“怪異”と化している。
柊夜くん。付喪神という言葉を聞いたことはあるか?」
少し考えて、記憶の端から引っ張り出す。
確か、昔読んだ退魔ものの漫画にそんな存在がいた。
「大事にされた道具には魂が宿る、ってやつ?」
「そうだ。このぬいぐるみも同じだ。——真昼さんの想いから生まれた怪異だよ。
ただし、通常の付喪神にはない力を秘めている。
それは……“苦痛の肩代わり”だ」
「苦痛の……肩代わり?」
「以前、真昼さんの霊と対面した時から不思議だったことがある。
本来一つの土地縛られた霊は、死の直前の苦痛を延々と繰り返し体験して、魂は深く傷ついていくはずだ。十年という歳月ならなおさらだ。
だが——真昼さんの魂は、魂の消耗が驚くほど抑えられていた」
霧子さんの言葉を聞いた瞬間、背中に冷たいものが走った。
——死の直前の苦痛を延々と繰り返す。
ネットで調べて知った“事件現場での状況”が、嫌でも脳裏に浮かぶ。
加害者たちが姉ちゃんにした、口にするのもためらわれるほどの惨い行為。
想像しただけでも吐き気がするのに、あれを十年も……?
そんなものを繰り返され続けたら、魂なんて残りようがない。
思わず喉が鳴り、ぞくりと震えが走った。
霧子さんは、そっとぬいぐるみを見つめながら言った。
「つまりこの傷は、本来なら真昼さんの魂に刻まれていたはずの痛みだ。似た例として身代わり地蔵があるが——これは元々ただのぬいぐるみ。受け止めきれなかった苦痛が、こうして外側に“傷”として現れているんだ。もしこの肩代わりがなければ、真昼さんの魂はとうに砕けるか、あるいは苦痛に蝕まれ悪霊へと変じていたはずだ」
その言葉を聞いた瞬間、胸が詰まった。
——ありがとう。
こんな小さな身体で、十年も。
姉ちゃんを守り続けてくれていたなんて。
霧子さんは続ける。
「柊夜くんが修繕していなければ、このぬいぐるみは途中で壊れていた。真昼さんに“まだ助かる見込み”があるのは……今日までこのぬいぐるみを守り抜いた君のおかげだ」
「……ははっ、そうだったんだ」
気づけば俺は、くたびれたぬいぐるみをそっと抱きしめていた。何度も修繕した縫い目や、本来の形を失ったほど深く抉れたように見える傷跡が、掌にチクリと当たる。
軽い身体なのに、その傷のひとつひとつが、十年分の重みとなって胸の奥へずしりと響く。
「ありがとう……本当に、ありがとう」
静かにそう告げてから、丁寧に机へ置く。
「この子も……姉ちゃんと一緒に供養しよう。
姉ちゃんを守った、最後の仲間なんだから」
その言葉を口にした瞬間、自分の中で何かがひとつ落ち着いた。
決意というより——“覚悟が形になった”感覚。
姉ちゃんを支えてくれた想いを、絶対に無駄にはしない。
必ず救い出す。そのために、自分も歩き続ける。
「……あぁ。私も全力を尽くす。共に頑張ろう」
霧子さんが力強く微笑む。
その笑顔に励まされながら、俺は小さく息を吸い込んだ。
——姉ちゃん。必ず迎えに行くよ。




