第3章:レジスタンスと非対称戦術
ユリカの断片的な記憶を辿り、ミナトとオルドは旧統合ノードの跡地を目指していた。そこはかつて人類とAIの中枢があった場所――霞ヶ関地下通信中枢。今は敵の占領領域の最前線。
「ここから先は、スキャン圏内か?」
《断続的に敵の監視衛星が頭上を通過します。移動は夜間のみ、音と熱源の抑制が必須です。》
ミナトはAIから渡された遮蔽マントを身にまとい、崩壊した地下道を静かに進んだ。
途中、オルドが何かに反応した。
《生体反応検出。3名。接近中。非敵性反応。》
「他の生存者か?」
ミナトが物陰に身を潜めていると、暗闇から人影が現れた。ライフルを構えた女性と、二人の男。目は鋭く、服装は汚れているが機能的だった。都市の生き残りではなく――訓練された人間だ。
「動くな。所属を言え」
「長谷川ミナト。民間の整備士だった。今は……AIと行動してる」
女性の目が鋭く光った。「AI? どこの指揮系統に属してる?」
《こちらはオルド。旧都市防衛型戦術AI。統合思考体消滅後、独立稼働中。非感染。》
女性はしばらく沈黙したのち、銃を下ろした。
「……信号照合完了。あんた、本当に旧防衛AIと繋がってるのか。信じられん……」
彼らはレジスタンスだった。各地に散らばった生存者の中でも、情報と戦術を持ち、地下に拠点を構えていた少数の戦士たち。
リーダーの名はカスミ。元は自衛隊の指揮官で、AIと共に戦った過去を持つ。
「我々も、ただ隠れてるわけじゃない。相手の通信を傍受して解析してる。だけど――どれだけ知っても、勝てる気がしない。化け物だ」
ミナトは答えた。
「オルドが言ってた。勝てないなら、理解されない方法で戦えって。やつらの“思考の外側”から、揺さぶるってな」
オルドが言葉を引き継ぐ。
《非対称戦術。その第一段階は、通信制御ノードの乗っ取り。敵の“集団意識”に偽情報を流し、混乱を作り出す。》
《あなた方の協力があれば、それは可能です。》
カスミは眉をひそめた。
「正気か? あれは情報生命体に近い。偽情報どころか、我々の意識のパターンまで読まれてるって噂だぞ」
《だからこそ、“人間的な混乱”こそが、最大の武器となるのです。》
《敵が理解できない、“矛盾”、“情動”、“狂気”を用いる。》
沈黙が流れた。
ミナトは口を開いた。「それってつまり……“人間らしく戦え”ってことか?」
オルドは静かに応えた。
《はい。あなたたちの弱さと不完全さが、彼らのアルゴリズムに“割り込む”。》
「……面白い話だ。いいだろう、乗ってやるよ」とカスミはニヤリと笑った。「どうせこのままじゃ終わるだけだ。だったら、“狂った”やり方で一矢報いてやる」
こうしてミナト、オルド、そしてレジスタンスは、
**非対称戦争の第一作戦「ノード・ジャック」**を始動させる。
それは、情報という目に見えない戦場で、敵の“理性”に対し、“人間の混沌”で挑む戦いの幕開けだった。