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プロローグ:静寂の後に
2035年6月12日――その日、空は静かだった。
いや、静かすぎた。風も雲も音も、なぜか止まっていたように思えた。
東京上空に現れた“それ”は、理屈を超えていた。雲よりも大きく、建物の影のように都市を覆う金属の影。その形状も、材質も、すべてが地球の常識を逸脱していた。
異星体は交渉の余地もなく、都市の神経系――電力、通信、交通網を破壊した。次いで軍事施設。最後に、住民。
数十年をかけて発展した人類とAIの協働ネットワーク――通称「統合思考体」は、全自動戦略防衛AI群と共に即応した。AIたちは戦闘機を操り、ドローン群を展開し、気象兵器を起動した。
だが、敵は予測不能だった。
高次元構造の空間跳躍。物理法則を無視した収束ビーム。情報感染型の兵器。
7日間の戦争。人類は地球の半分を失い、AIの中枢も沈黙した。
それは敗北ではない。圧倒的な、完膚なきまでの「破壊」だった。