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ep3.この世界のバース講座

本作はフィクションです。現実の症状・生態等とは異なる場合がございます。

オメガバースは自由度の高い要素とされ、設定・作中表現には著者の解釈を多分に含みます。読むか否かは自己責任で、どうか最後まで読んで頂けると嬉しいです。

 日中、市民会館。講堂に人々が集う。

 子供は9、10歳以上からおり大人まで、バース性を問わず参加している。

 講堂内にはホワイトボードと椅子、資材用の机が配置されていた。今ここで民間講習が行われているのだ。時間割で分野と担当が変わり参加者は好きに入退出できる。


 幾つかある中の1つにバース性に関係した講習があった。

 担当は内科医のハルト・シュタインリッヒ。歳は29歳で後天性β。身長はルカと同じくらいで170未満。キャラメルブロンドの髪を後ろで束ね、翡翠色の瞳をした優し気な雰囲気の男。同盟に所属し、3年前ゼノンを助けた車の運転手だ。

 彼は挨拶をした後、用意してきた資料を見せながら講習を始める。


「今回取り上げるのはバース性についてです。皆さん一般教養の保健体育で学ばれていると思いますが、ここでもおさらいしていきましょう」


 性別・バース性に関しては家庭や学校でも学ぶ。子供の頃から知っていくのは大事だ。しかし本人の意欲や教育方針などにより個人差が出てしまっていた。


「まず始めに、バース性には先天性と後天性があるのは知っていますか」

「知ってる~。でも何が違うの?」


 講師の問いかけに子供が応える。子供の問いにわかり安く答えた。

 先天性は生まれた時から持っていて、後天性は後から手に入れたもの。最初からか、後からか、まずはこの違いがあるのを覚えておいて欲しいと。

 検査は最低でも赤ん坊の時に1回、様々な可能性を鑑みて12歳頃に1回行う。


「αは潜在能力の伸びしろが大きく天才肌の人が多いですね。人口はβより少なくΩより多い。他にも……」


 他者のフェロモン、特にΩを識別する能力があり、自身も感情によって効力が変化するフェロモンを持っている。女性は陰茎に変化する陰核を持つ。

 Ωの発情フェロモンに誘発され発情する事があり抑制剤(よくせいざい)によって防ぐ。また苦痛に対し若干だが耐性が低い傾向にある事が近年判明した。

 続いてβは人口の殆どを占め能力的には平均。発情フェロモンであれば、影響を受ける場合があるけど平常時は感じない。


「次にΩです。彼らは最も数が少ないバース性で男女共に妊娠・出産ができます」


 子供を作れるんですよ、と児童向けに言い換えたりして説明する。

 彼らの大きな特徴は定期的に3日の発情期と、その後4~7日間の生理が来ること。これは男女両方に起こり、発情はΩである以上、生理は人として子宮がある以上避けられない。

 フェロモンを放っており発情時は強い催淫効果がある。平常時は催淫効果が低く、代わりに安心感や鎮静効果のほうが強いのだ。


「先生、質問いいですか?」


 別の児童が挙手して声を上げた。


「はい。なんでしょう」

「Ωの人は異能とか、能力が弱いって聞いたんだけど本当?」

「良い質問ですね。能力差はαでもΩでも1人1人違います。ただこの場合の弱いは、ある理由から正確な評価でない事があります」


 疑問に首を傾げる子に頷き、丁寧かつ客観的に伝える。

 誤評価の最もな理由は発情と生理にあった。他の女性にも当てはまる症例で、該当時期の当事者らは精神的または身体的に不調を感じやすく不安定なためだ。故に異能を扱い辛い。

 簡単に言えば高熱などで絶対安静中に、集中しなくてはならない作業をするようなもの。


(特に生理は一般的な病気と扱いが違いますから……)


 発情期みたいなわかり安い症状が出る訳でもない。当人が申告しなければ。


「皆さん、それぞれの特徴を弱点っぽいからと悪い事に使っちゃダメですよ。

さて、話の続きに戻りましょう。Ω男性の場合は更に先天・後天性とで大きな違いが出ます」


 始めに後天性はα・β・Ωのどれでも非常に希少だ。なる条件も不明。

 先天性のΩは陰茎と肛孔の中間に隠口=女性器があり、後天性のΩは直腸の辺りに子宮ができるのが大きな違いだろう。更に後天性Ωの場合は注意点があった。


「後天性は身体が変化する期間があり、この間は身体へ負担に注意しましょう。

特に変化が大きい後天性Ωの男性は、初発情と初潮を迎えるまで身体ができていません。期間に個人差はありますがその間の性的接触は危険です」


 後天性が少ない所為か、ここらの教育は詳しく教えない・知らない場合が多い。子供に過度な恐怖や不安を与えたくないという理由もあるだろう。しかし、それ故に悲劇が起きる。


「危険とは具体的にどんな感じですか?」


 今度は若者から質問が飛んできた。難しい質問だ。


「必ずしも起こる事ではないが、不妊や後遺症に繋がる可能性があります」

「見分ける事ってできるの?」

「難しいのできちんと確認することが大事です。変異中でも身体は反応しフェロモンは出て、強弱が非常に不安定で発情と勘違いしないよう注意しないといけません」


 ただし発情時特有の性欲衝動が現れず妊娠もまだできない。催淫効果も高くないけど量が出ていれば絶対ではないだろう。なんにせよ確認と観察が重要であった。

 あと忘れてはいけないのが、妊娠と出産に関する点でも後天性Ωの男性は他と違うところ。それは分出自に胎児が微生物などから保護する為に膜に包まれている点だ。


 勘違いしないで欲しいが、エンコールバース=被膜出産とは別物である。

 なぜなら出産時に赤子を包んでいる膜は内側の2枚目。妊娠時に必要な栄養素を摂る事で徐々に形成されていくものだ。なので産声が上がるタイミングもコレが剥がれた後。破水(はすい)は外側の羊膜が破れた時で、羊水(ようすい)の機能を損なわぬよう緩んでいた第2の膜が胎児を包む。


「なんか大変~」

「そうですね。元々なかった機能が増える事で気をつける事も増えます」

「でも、なんで生まれ方がちょっと違うんだろ?」

「難しかったかな。じゃあ見比べながら考えてみましょう」


 ハルトはボードの人間の図の傍に動物の図を張って指し示しながら話す。

 哺乳類の殆どは子宮と肛門が繋がっていないこと。出産と産卵の違い。総排出腔(そうはいしゅつこう)のことや、鳥卵の殻の役割と犬猫等は膜に包まれて出る点などを教えていく。


「αとΩの間に起こる番についても触れておきましょう」

「番? それって夫婦のこと?」

「関係としてはそうですが、より強い繋がりで互いの身体に影響が出ます」


 番は発情時にαがΩのうなじを噛めば成立する。その後は番となった互いにしか性的欲求を刺激されない。Ωは無差別にαを誘惑しなくて済む。

 そして番の解消はαにのみ可能だ。また運命の番という唯一無二な存在がいた。出会い=発情ではないため、気になって交流している内にという場合が……。


 話を聞く子供達の中にはちゃんと理解できていない者もいた。

 だけど、今すぐ理解する必要はないのだ。こんな話を聞いたと覚えていてくれれば。後々調べるきっかけになればいいとハルトは思っている。


「え~酷い。つまり浮気した癖に一方的な離婚宣言して捨てるって事でしょ」

「そこは乗り切って欲しいよねー」

(あらら……子供も侮れないですね)


 中にはこんな、とんでも発言をする女児までいた。

 意外と理解できちゃっている子はいるらしい。恐るべし子供の吸収力。


「バース性についてはここまで。すぐに理解する必要はありません」


 考えて、覚えておいて欲しい。それが大事だと伝える。

 一呼吸をおいて、今度は関連する薬品について注意喚起した。

 彼にとってはこちらが専門だ。最初に伝えるべき内容は、抑制剤と避妊薬は別であること。抑制剤は発情衝動とフェロモンを抑える物。もちろん完全に消える訳ではない。


 ちょっと脱線になるが、Ω用品についても適度に宣伝しておいた。

 避妊薬は常飲用の生理薬=低用量ピルと、性行為後に服用する緊急避妊薬=アフターピルがあった。どちらも妊娠率を下げるだけで絶対ではない。初潮後であれば子供でも服用できる点を伝えておく。


「避妊や生理時の体調不良は深刻です。お困りの際は是非医師に相談して下さい」


 最後にそう締めくくり講義を終えた。ふぅ、と息をつく人々の気配がある。

 なかなかに難しい内容と情報量だが下手に隠したり、伝えない道は選べない。少しでも多くのΩや女性が救われるようハルトは願うばかりだ。



      ☂  ☀  ☂  ☀  ☂  ☀  ☂  ☀



 市民会館前、外へ出た先でハルトは声を掛けられる。


「ハルトさんお疲れ様です」

「こんにちは。ゼノン君こそお疲れ様です」

「すみません。こっち方面は任せきりで」

「いいえ、構いませんよ。専門なんですから」

「あ~生理や発情を誰でも体験できる物が作れたらなぁ」

「症状が皆違うから難しいですね。でも確かに自分の身で感じた事は覚えやすい」

「だろ? そしたら少しは意識変わると思うんだよ」


 微笑んで聞く彼に、ゼノンは別件に出ていた仲間の帰還を伝えた。

 保護した対象の状態についても話す。周囲を気にし声は抑えて。今回はかなり酷いといえるだろう。依頼人が人づてに同盟の事を知り、依頼をして来なければ危なかったかもしれない。


「承知しました。これから戻るので様子を見ておきましょう」

「お願いします。俺はこれで」


 これから彼は同盟の支援者に会いに行くのだ。要件は食事。

 主催者は本部として利用中の物件を提供してくれた、いわゆる貴族。レイの実家である。でも家族の殆どがαという事で現在は本部内で寝泊まりしていた。


(Ωの中だと家族仲悪くなさそうなんだよな。時々帰ってるみたいだし)


 おかげで訳ありの多い同盟メンバーの中では大人しい。αやβに対しても偏見や反発は少ないのだ。これもきちんと愛情を与えられて育った影響だろう。

 普段の服装は貴族っぽくないが原因は薄々感じていた。間違いなくゼノンやルカの影響を受けていると。でも弟のように面倒を見ている身としては、彼のまっすぐな好青年ぶりは好ましかった。


(おっ、噂をすれば)


 口に出してないから表現として変だが考えていたのは事実だ。

 近くに止めた車の所まで行く途中で偶然視界に入った青年が振り向く。


「リーダー!」

「よう、学校帰りか。俺はこれからお前ん家行くトコだ」

「ならご一緒します」


 一緒に車へ乗る。レイはとても楽しそうで表情が明るい。


「まあでも夜会とか舞踏会じゃなくてよかった。苦手なんだよな、アレ」


 異世界(こちら)に来て多少経験したが未だに慣れない。特にダンスは……。


(レイに教わりはしたけど正直余裕ねーし)

「オレで良ければいつでも教えますよ。必要ならベティも呼んで」

「止めてくれ。練習の為に呼ぶのは迷惑だろ」

「そんな事ないと思いますが……」


 何を勘ぐっているのか。彼は妙な間と空気を纏っている。

 目的地までの道は半ばをとうに過ぎ到着が近い。時間に余裕を持って来たし、先方の家族構成を考えて念入りに香水をつけて来た。発情期はまだ先だ。

 信用はしているが万一の用心に対策と準備は欠かせない。それを不快に思う人達でもないと知っている。


 ほどなくして立派な邸宅に到着した。広く美しい庭のある上品な空間だ。

 さすがに緊張しつつゼノンはこの家の子息と共に門を潜る。その後の展開は語るまでもない。平静通りとはいかなかったが、トラブルが起きる事なく終わった。



      ☂  ☀  ☂  ☀  ☂  ☀  ☂  ☀

ここまで見捨てずに読んで頂き、ありがとうございます。

設定面で不満に思われた方はいると思いますが、身体の云々辺りは譲れない拘りで削れませんでした。あわよくば、このタイプが広まればいいなと思っています。


執筆にあたり「ピクシブ百貨辞典」やその他幾つかの情報サイト等を参考にしました。しかし決まった正解はないようです。その分、疑問は尽きませんでした。

元からある、また他の設定を否定する気はありません。それはそれで好きです。


例えば妊娠できる設定が重要ながらΩ男性のふたなりが一般的ではないのか。

出産の事を考えると、アレが通る場所を、産卵ではない人の赤ちゃんが保護膜なしに肛門からは……。人間なのに生理がないのも、と思ったり。帝王切開は考えたけど、Ωというなら基本自力で必要に応じてがいいなと。

ちなみに発情期と生理を別にしたのは、発情期=排卵日で生理は子宮の更新日っていう解釈。私なりに考えた結果こんな感じに。

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