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ep5‐2.連携と再戦

「マルクってさ、思念石は使わないの?」

「使えはするよ。同じ無系ならば辛うじて」


 この一言でなんとなく察した。気まずくなる。


「なんか悪い」

「別に。これは相性の問題で君にもあるだろう? それに無系の石は数も種類も少ない」


 少ないのは事実だが集まりにくいという意味も含まれていた。

 生来の力を底上げする他に、異なる力を借りる場合は特に限度がある。ゼノンの場合は炎と雷の思念石は幾ら鍛錬しても使えない。根本的に合わないのだ。

 また無系の思念石は扱いが難しく使える者も多くなかった。空間視の石も最近の入荷できた物である。


「大体無系って使い時が難しいよ。変なの多いし。近未来予知の石を望まれる事あるけど全然、仮に作れても手に余ると思う」

「ふーん。なんかお前の口からそういう話聞くと親近感わく」


 ちょっぴり愚痴を零してしまいつつ本題に戻った。

 とにかく暗殺者だ。顔は見えなかったが背格好は覚えている。服装は変わっているだろうけど男で、異能も幻覚や身を隠す系じゃない。


(ここが学校だったのがよかったな)


 物理的な方法で変装してもバリエーションが絞られる。

 裕福層向けの学校とはいえ、生徒も教員も派手な服装はしていなかった。


「えぇ、それ最低野郎じゃないの!」

「声が大きいですわよ」

「ごめんなさい」


 扇で口元を隠しつつベアトリスは険色を示す。

 声に驚き視線を向けると2人の少女はバツが悪そうな表情になる。

 ゼノンは一瞬内容を問いかけようと考えるが止めた。なんとなくプライベートな空気というか、女性にありがちな恋話系の雰囲気を感じ取ったからだ。聞かなかった事にしよう。


「話戻すけど、そっちから顔は見えたか?」

「ん? あぁ、不鮮明だが……」

「覚えてる範囲でいい。教えてくれ」

「待ってろ。今書く」


 口で説明するより確実だと言いマルクは紙とペンを手に取る。

 絵の出来栄えは旨いほうだと感じた。本業より一歩劣るかもしれないが、日頃からデッサンしているのが伺える画力だ。己の能力で得た情報を他者に伝える表現方法として身に着けたのだろう。


「どれどれ……」


 完成した予想込みの似顔絵を見る。性別は男で一致。歳は若い印象。

 証言で髪は金髪の可能性が高い。瞳は判別できず、双方から見た限りで生徒は考え辛かった。


「上手いもんだな」

「このくらい当然だよ」

「うわー上から目線。凄ぇけどむかつくわ~」

「君もわざわざ口に出してるクセに」


 あまり悪意の入らない声音で軽口を叩き合いすぐ意識を戻す。


「外側は先輩方が張っているので簡単には出られないだろう」

「となると奴はまだ学内に潜伏してる可能性があるな」

「ああ。うまく紛れ機会を狙っている筈だ」


 どうやって捉えるか、意見を交わしつつ考える。

 共犯がいなければそう簡単に顔は変わらないだろう。だが全校生徒や関係者の中から探し出し、その後のほうが問題だ。透過が本人の能力としても何を仕込んでいるかわからない。


(思念石を持ってたら厄介だぞ)

「無効化でもできればなぁ」

「残念。該当者は隣町だから手を出せないよ」

「マジでいんのかよ!?」

「そりゃいるさ。ほら、以前助けたウォルツ侯爵家の御子息にね」

(あーレイの兄貴、3人いるんだっけか。まだ会ってねぇのは3男坊の筈)


 ゼノンはあまり難しく考えず消去法でそう結論づけた。

 親しい友人の、また無効化というものに興味は惹かれたが今は対応策だ。些細な脱線を軌道修正して作戦会議を続ける。言葉を交わしていくにつれ、今こそ修練の成果を見せる時だと思った。



 十数分後、想定よりも早く似顔絵と酷似した人物を発見。

 すぐに接触はせず泳がせて様子を見る。学内にいる他の騎士らと尾行と監視を行う。しばし観察し、近隣に共犯者がいる可能性が低くなった時点で次の行動へ乗り出す。


「すみません。幾つかお聞きしたい事があるのでご協力ください」


 口頭で事情を伝えつつ騎士証を見せた途端男は逃げ出した。

 早合点でもしたのか。あっさりとボロを出す男を清掃員や庭師に扮した騎士らが追う。自らの能力を生かして障害物を無視し、逆に利用して逃走。


「来た」


 視線は上、校舎のマルクからゼノンは合図を受け取り呟く。


(落ち着け。できる筈だ)


 現在地はプールサイド。季節は過ぎているが水の残された屋外プール。落ち葉はなく、水もまだ綺麗なものだ。じきに抜く予定のそれを使わせて貰う。

 軽く深呼吸をして水へと意識を向ける。刻々と近づいて来る犯人に向け異能を放つ。薄く広げた水壁で視界を制限し注意を引き、先輩達の動きも見つつ誘導。氷で動きを妨害・減速した隙を狙い捕えた。


「確保!」

「よくやった」

「はいっ」


 騎士の1人がゼノンに言い、嬉しさのこみ上げた声で返答する。

 警戒のためその後も警護は続く。細々とした処理が終わるまでの間ずっとだ。事情聴取や尋問が進むにつれ背後関係が明らかになった。護衛任務から解かれた後――。


「婚約破棄された貴族の逆恨みって……」

「まあ、意外と理由はそんなものだよ」


 アレックスと資料整理をしながら話す。


「けど破棄の原因は浮気。婚約者がいる状態でそれ不味いんですよね?」

「うん。実際問題があったから破棄されたんでしょ」

「はぁ~最低野郎だな」


 必要と判断され明かされた内情にため息が出てしまう。

 事件の発端となった色恋沙汰。背後にいたαの貴族は、言い逃れにΩのフェロモンが悪いなどと発言していたそうだ。双方に失礼な態度を取った男の心象は最悪であった。



      ☂  ☀  ☂  ☀  ☂  ☀  ☂  ☀



 気候故か、天気が崩れやすい時分。風が涼しくなってきた頃。

 雨が降れば冷え込む日々が続き、ゼノンはどことなく体調に違和感を覚えながら過ごす。気にはなるが生活に支障が出るほどじゃない。そんな中で異形出現の報せを受け出動していた。


「東区××地点から応援要請だ。行くぞ」

「了解です」


 並木道を駆け抜け、途中アレックスの風魔法で高低差を無視して最短を進む。


「今回は規模が大きいですね」

「ああ、数か所に亀裂が出たし数も多いから大変だよ」

「急げ。かなり散開している可能性がある」


 騎士と準騎士の混成班で各所対応している。

 被害を想像して焦る気持ちを抑えながら駆けていく。現場に急行した時、多数の死傷者が出ている状況に息を飲む。一番辛いのは避難が間に合わなかった一般人の姿がある事だ。


「このやろっ」

(相変わらず気持ち悪い連中だ。けど、やれる)


 頭に血が上っているおかげか。以前ほどの怯えはない。


「気持ちはわかるが冷静に。ゼノン君はボクと一緒ね」

「はい」

「手分けするぞ」


 各自の判断で交戦中の部隊に加勢に向かう。

 ゼノンはアレックスと組み、1人で多数と対峙している騎士の元へ――。


「助太刀か。準騎士の、確か水使いだったな」

「はい」

「なら水球を作ってくれ。ボール大を複数」


 手身近にイメージを伝えられ指示通りの援護をする。

 騎士は生み出された水球の中にマリモのような種を放り込む。こちらも異能の力で生み出した物だ。種は水を得て急速に膨張し、あっという間に手足の生えた毛玉植物へと変じた。

 更にその手にはランタン型の植物が泡を放出。シャボン玉の如き泡は風を受け異形を追い立てる。触れれば拘束、触れずとも視界や動きを制限していく。


(泡の動きが都合良すぎる。風か)

「動きが鈍い相手なら――」


 氷の棘を幾つか作り射出。数か所に被弾した異形の身体が凍りつく。完全に氷結した個体を剣で薙ぎ払ってとどめを刺す。

 別方面では先程の毛玉植物が奮戦していた。ゴーレムに近い印象だ。

 しかし体内の水分が尽きると急速に枯れ消滅してしまう。乾燥に弱いのか。そんな事を思いつつ、次の敵へと応戦する。前衛と後衛を切り替えながら連携し適切に対処していく。


『ΙΦ±БЩЗЁ、БΙЖγ±Γ!』

「逃がすな。追え!!」


 背を向けるような敵の動きに応じ怒号が飛ぶ。


「逃がすかよ。今度こそ」

(怖気けず人々を守る)


 被害なぞ出せるかと全身全霊で使う。妙に冴えわたっていた。

 水路、消火栓、噴水、至る所から水が集まる。こんな状況でもゼノンの頭には最低限の分別が備わっていた。あくまで拝借できるギリギリに留めている。

 猛々しくうねる水が逃走を図る異形達に次々と牙を剥いた。瞬く間に呑み込んでいく。


「チャンスだ。雷を放て」


 誰かの指示で該当の力を持つ騎士が手を掲げた。電光が水塊の中に舞う。


「はぁ、はぁ……」

「これまた派手にやったなぁ。大丈夫?」

「は、はい」


 異形を掃討し水塊が崩れた後、息を切らすゼノンにアレックスが駆け寄る。

 今の限界を超えた力の行使に酷い倦怠感を覚えた。とても次に行ける状態じゃない。でも十分な功績を上げたのは明らかで、労いの言葉を掛けられ基地へと帰還する事となる。

 そう時を待たずして異形の討伐完了を聞く。基地に着く頃には幾らか回復し通常業務に戻るのだった。

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