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後日談.いろいろありました。

本作はフィクションです。現実の症状・生態等と異なる場合があります。

また本作はエロよりも恋愛になるよう執筆に努めました。オメガバースは自由度の高い要素とされ、設定・作中表現には著者の解釈を多分に含みます。

 病室での一件で晴れて恋人となり、後にゼノンは無事退院した。

 しばらくは忙しい日々が続く。2人の様子は表立って違いがないように見える。けれど確かに変わっている部分もあって……。


「近頃若い男性の方とよく会っているそうですね?」


 本部のエントランスロビー。その一角で2人が話す。

 アズールの顔は笑っているが、どこか怒っているようでもある雰囲気だ。


「うん? そりゃお互い仕事してるんだから珍しかねーだろ」

「いえ、そうではなく。もっとこう親密な感じだったと」


 誰から聞いたんだ、と問いかけ細かく確かめる。

 情報元は騎士団の同僚。カフェで一緒にいるところや、どこかの建物へ一緒に入って行く姿を見かけたとのこと。確たる証拠のないあやふやな内容であった。

 ゼノンは1つ心当たりがある。相手の嫉妬心を理解した上ではっきりと言う。


「私服だったからな~。そいつ研究員、βだけどちゃんと互いに注意してる。会ってたのは俺の趣味制作に協力して貰ってんの」

「趣味で作ってるって何を」

「疑わなくてもやましい物じゃないぜ。その、さ……」


 言葉の歯切れが悪くなりつつ照れ気味に話を続けた。


「ほら、Ωってさ番になるとフェロモンが変化するだろ」

「んん? そうですね」

「でさ、その所為で効力が弱まるもんがあって……」


 それは安心感や鎮静効果の事だ。研究により、Ω特有ではあるものの、通常の体臭にも含まれる成分だと判明。ただ番の有無で効力が増減する。

 なぜこの効果だけ完全に消えないのか。考察の進捗によって、子育てが関係あるのではと示唆されていた。番のみだと我が子であっても対象外になってしまう。

 催淫効果と違い、他にも作用する事で有用性が上がるという生物的な理由なのだと思われた。


「これから騎士団と連携する案件来るしさ。頼まれる以上ちゃんと役に立ちたいし、番になってそこの効力落ちたら困るかなーって」

「つまり安心・鎮静効果を補助する物を作っていると」

「うん。同盟(ウチ)で作ってる香水みたいな感じで」


 けれどコレは個人的な開発だから人員は避けない。


「なるほど。ゼノンさんは私と番になった後の事を考えてくれてたんですね」

「ちょ……なんでそう恥ずい方向に」

「違うんですか?」

「ち、違わねえけど」

「でしょう? でもわかりました。貴方を信じます」


 どうにか平穏に話が終わりこの日の交流は終了。変わらぬ日常だった。



      ☂  ☀  ☂  ☀  ☂  ☀  ☂  ☀



 【プチep.出禁になった男】

 あれはいつの日だったか。とある昼下がりの同盟本部。

 1階の受付前で1人だけえらく機嫌の良い男がいた。勤勉とは程遠い雰囲気で、調子の軽い立ち居振る舞い。その身を包むのは華美な騎士装束だ。


「ねえねえ。一緒にお茶しようよ~」

「お、お断りします」

「そんな事言わないで奢るからさ。僕と仲良くしたら得だよ?」

「誰とお付き合いするかは自分で決めます。お引き取り下さい」


 褐色肌と赤毛の受付嬢に言い寄るのはアズールの同僚である。

 周囲にいる同盟の人々は、また来たのかという風に口々に囁いた。何度断ってもめげず、執拗に言葉を重ねる男。さすがに見ていられないと動き出す者達ははっと足を止める。


「おい、迷惑野郎。同盟(ウチ)の者にちょっかい出すとはいい度胸だな」


 奥からやって来たのはもちろんゼノンだ。


「わぁー最初からお怒りモードだよ」

「あんな塩対応久々に見た」


 噂する声がざわめく中で、迷惑な客でもない男に鋭い眼光が刺さった。

 その顔に見覚えがあったのだ。マリンパークで受付嬢のミーアをストーキングしていたのを思い出す。だからこそ余計に対応は厳しくなった。軽蔑を込めた眼を向ける。

 どうやらアズールの注意を受けて尚、男は情熱の暴走を律しきれてないらしい。向けられた視線と言葉に明確な不快感を見せ睨み返す。


「何、今大事なお誘いをしてるんだ。邪魔しないでくれるかい」

「とんだ騎士がいたもんだな。さっさと出てけ」


 強引に間をおさえ引き剝がすように立ち塞がって言う。

 しかし男は全然引き下がらない。あたかも誠実な逢引きをしている体を貫く。

 最初は一定の距離を保ち、触れず、言葉で引き下がらせようとしていた。でも、とうとうゼノンはブチキレる。都合のいい解釈で行動する男に実力行使をした。思念石のはめ込まれた手袋を右手に着け――。


「二度と来んな。この変質者!」

「ぐがっ」


 手袋を着けた手で男の額を掴み、全身で押し出すようにして外に出す。

 触れられた額に光る文様が浮かぶ。だが、すぐに肌へ溶け込むみたいに消えた。


「塩、塩撒け。鳥肌立ったわ、気色悪ッ」

「出たよ。塩撒けとか意味わかんない指示」


 全身の汚れを払い落すように落ち着きなく手を動かして呟く。

 その露骨な反応を見た周囲の者らは苦笑いする。たまに目にするが場所を考えれば珍しい。


「お、おぉ。氷移紋(ひょういもん)食らってる奴も久々だ」

「出禁の印……あれマジだったんですか」

「ああ。リーダーとレイの合わせ業で、お互いの力を宿した思念石と共鳴させて付与する」

「紋様を刻まれた者は本部に入れなくなるんだよ。転移させられたり、氷に阻まれたりしてさ」

「リーダーもレイも滅多に刻まないのに」


 呆れたような、恐れるような、各々の反応で話す同盟の人々。

 けれど誰しもが自業自得だと思っていた。あの男は完全に目をつけられたのだ。こうして同盟本部を出禁になった阿呆が彼らの記憶に刻まれたのである。



      ☂  ☀  ☂  ☀  ☂  ☀  ☂  ☀



 本日、同盟本部。アズールは初めてのお泊りをする。

 許可を得て、他の住人や客の都合と折り合いをつけての今日だ。αを居住区に招き入れる以上、誰かの発情期と被ってはならない。

 ゼノンの部屋は5階で、近くにレイ、離れているがルカの部屋も同階にあった。


「ドキドキしますね!」


 初めて訪れた恋人の自室に大興奮している。

 モダンな雰囲気の内装で、ほどよく観葉植物が置かれ、ナイトテーブルに蓄音機とカバーに収めた音楽盤が置かれていた。色はタイル質のベージュをベースに、暗めのブラウンと赤系のアクセント。


「秘密のアジトみたいでカッコいいです」

「どうも。そーいや、アズールの実家は白と青のクラシック風だったなぁ」


 あの内装も良いと褒める彼に、アズールは自分も気に入っていると喜ぶ。

 なんとなく互いの色の好みを把握した。興味津々な様子の客人に「適当に寛いで」と行動を促す。言われながらも、緊張を崩さぬままソファにお行儀よく座る。

 そんな様子を見て育ちの良さを感じつつ、ゼノンは要望を聞きキッチンでコーヒーを入れ渡した。一緒に腰かけて一服する。


「全身に染み渡りますね。心が温まりました」

「大げさだなぁ。普通に淹れただけだぞ」

「十分凄いです。私料理などはメリッサに頼りきりでしたから」

「あの家政婦さんか」


 確かに家政婦なのだから家事全般はプロフェッショナルだろう。

 音楽を聴きながらゆっくりと時を過ごす。外出は良いが、家で身体を休めるように過ごすのも悪くない。人目がない事でゼノンのガードが緩いからか、アズールは積極的にスキンシップを求めてきた。

 平穏な時間は瞬く間に過ぎて行く。今日は自炊しようと決め、手伝いたい彼と料理を始めるのだが――。


「刃物の扱いは任せて下さい。確か……」

(なんか危なっかしいなぁ)


 気になってその手元を覗き込み。野菜の状態を見て……。


「皮を剝くんだぞ?」

「わかってます」

「いやいや持ち方危な過ぎっ。皮向く時はこうして――」


 仲良く料理をして、楽しく食事を済ませお風呂に入る。

 ふと洗面台近くの棚に並べ置かれた物に目が留まった。容器にはフェロモンガードやケアウォッシュという名が明記されている。


「この洗剤、特区に来てからよく見るようになった物ですね」

「ああ。同盟(ウチ)の商品だよ。洗濯洗剤や洗髪とか石鹸系はフェロモン対策で真っ先に着眼したところでさ。香水より効果は低いが持続性が高いし、普段来てる服がちょっとした鎧になるのがウリだ」

「本当にいろいろ作ってるんですね。凄い」

「嬉しいけど自分の為にやってるだけだぜ。生まれつきのもんで迷惑がられるのは心外だし、対策しようにも物がないんじゃやり辛いだろ」


 風呂上がりで気持ちが寛いでくると2人の間に甘い空気が流れた。香水の効果も当然無くなっている。

 自然と互いの距離が近づき、探るような手が伸びて髪や頬を撫でた。アズールが首にキスして優しく愛撫しようと手が動く。


 しかしその時、ゼノンの脳裏にトラウマがフラッシュバックして身体が強張る。

 些細なものだった。でもアズールは敏感に感じ取り愛撫を止める。彼の様子と自身の無意識が起こした反応に罪悪感を感じて……。


「今のは違う! 本当に嫌とかじゃなくてっ」


 拒みたかったんじゃない、と必死に伝えた。

 それに対して相手は労わるように手を取って浅く唇を落とす。


「いえ、私が急ぎ過ぎたんです。ゆっくりやりましょう」


 震えるゼノンを慰め「少し気を静めてきます」とトイレへ行く。

 扉の奥に姿が消えた後、申し訳ない気持ちで居たたまれなくなる。ちゃんと好きだと自覚している筈であった。普通の触れ合いなら問題ない。なのに、いざ行為に及ぼうとすればコレだ。


(こんな調子じゃ発情期なんて――)


 とてもじゃないが無理だと思う。幾ら痛みを和らげてくれるとしても……。

 なにより、発情期の状態を見られたくない。酷い状態なのは自覚があった。男同士ってだけでもハードル高いのに。


(絶対気に病むよな、あいつなら)


 先程でさえああなのだ。番の成立に行為の有無は関係ない。ただ発情中のΩのうなじにαが噛みつけばいいのだから。とはいえ、発情時にあえば行為なしに済む筈がないだろう。

 いろいろと考えてる間にアズールが戻ってくる。開口一番に気遣ってくれるのが心苦しい。


「あまり思いつめないで。まだ始まったばかりじゃないですか」

「お、おう」


 まだぎこちない態度のゼノンに彼は柔らかく微笑んで。


「じゃあ抱き枕になって下さい」


 相手の考えている事を察したのだろう。敢えて要望を言い気を紛らわせる気だ。

 妥協案に励まされ、胸の奥が熱くなるのを感じながら要望を受け入れる。嬉しそうな顔で抱き寄せられた。安心しきった顔で寝息をたて始めるのを聞きながら、ゼノンはなかなか寝つけない。それでも2人は身を寄せ合って眠りにつく。



      ☂  ☀  ☂  ☀  ☂  ☀  ☂  ☀



 別の日、ゼノンの誘いで遊園地に来ていた。

 これはお泊りの挽回を兼ねている。もちろん秘め事で、だ。今できる範囲で喜ばせたい。そう思って先日、躊躇いがちに誘ったら好感触を得たのである。


「まず何から乗りますか?」

「ここ来るの初めてだしなんでもいいぜ」


 入園早々から気分最高潮なアズールはパンフレットを開く。

 広大な敷地内にたくさんのアトラクション。より取り見取りで選ぶ時間まで楽しい。互いに候補を相談しながら最初に行く場所を決めた。


「次はあそこに。今空いてるみたいですよ」


 近場から乗り始め、次に向かうはアドベンチャーコースター。

 絶叫系の乗り物だ。赤、緑、黄色の雲が列車の如く連結したデザイン。緑色のコースターに2人並んで乗る。職員のチェック後にそれはゆっくり走り出す。


「わあぁーっ」

「うおぉー道がッ」


 一気に速度が上がり、緩急をつけつつ進んでレールが3つに分かれた地点へ。

 すると赤は右に、緑は左、黄色は正面へと進路選択。緑ルートはトンネルに入り龍が巣くう晶窟ゾーンに突入。臨場感のある背景と龍が視界いっぱいに広がる。屋内と屋外をうまく活用した造りだった。


「たくさん叫んでスッキリました」

「迫力凄かったな」


 しっかり楽しめて満足げに次のアトラクションへと向かう。

 フェアリーエッグという浮遊するカップ型の乗り物だ。他にも同様の物がたくさんあり衝突しないよう制御されている。乗客は中央のハンドルを回しエッグを回転させられた。


「こういうのは勢いだ。回せ回せ!」

「はーいっ」

「もっと回せぇ」


 調子に乗って回しまくり目を回す。下りた後、平衡感覚が危うかった。


「ちょっと休憩しましょう」

「ついでに何か食べてえ」

「いいですね。何が食べたいですか?」


 露店を探しながら話している内に喉が渇いて。美味しそうなクレープと冷たいドリンクを買う。

 ゼノンは野菜や肉が入ったものと赤いアイスティー。アズールは生クリームに果物やチョコが入ったものと抹茶ラテだ。落ち着ける場所に座って食べる。


「甘いの好きだな~」

「はい。そちらも美味しそう。一口下さい」

「いいよ、ほら」


 差し出されたクレープをはむっと一口頬張った。次いで自分のを差し出す。


「お返しにこちらもどうぞ」


 恥ずかしがりながらも一口食む。想像通り甘い。だが美味しかった。

 道行く人は意外と気にしないものだ。それでもゼノンは気になってしまう。でも嬉しそうな隣人を見て、自分がした行動への後悔はなかった。

 食後はペースを緩めつつ、引き続き園内を楽しむ。適度に食べ歩きしたりお揃いの物を身に着けたり。照れくさいけど充実していた。


「面白そうなのあるぞ。勝負しようぜ?」

「楽しそうですね」


 意気揚々と向かった先にあるのは得点を競うアトラクション。

 屋内で小道具を用い、身体を動かしながら遊ぶ。互いに高め合って着々と得点を稼ぐ。終いには高記録を叩き出していた。あっという間に時間が過ぎていく。



 太陽が沈んできて灯りが園内を色鮮やかに彩り始める。

 夜間パレードが開幕して人々が集まり湧きたつ。異能を用いた演出が愉快で、幻想的で見る者の目を楽しませた。


「綺麗。異能もこうして見ると……」


 心から零れた独り言だったろう。見つめる瞳が光を宿して輝く。

 覗き見したその横顔があまりにも美しくて胸が高鳴る。ゼノンは何も言わず彼の手を握った。感触に反応しアズールが振り向く。その視線から逃れるように顔を反らした。

 アズールは幸福そうに微笑んだ。そのまま手を引いて人の群れから離れる。


 言葉を交わす事なく、歩みを進めたどり着いた先は観覧車。

 催しのおかげで待ち時間は短かった。順番が来て籠に乗り外の景色を眺める。


「今日は誘ってくれてありがとう。楽しい一日でした」

「礼なんて。こっちも楽しかった」

「あ、見てください。下のパレードがよく見えますよ」

「特等席だな」


 2人きりの静かな時間。上へと昇るにつれ現実が離れていく。

 籠の中は、特別な空間に感じた。邪魔なものが一切ない彼らだけの世界。自然と距離が縮まって、名前を呼び互いに見つめ合う。


「ゼノンさん、貴方を愛してます。この先何があっても」

「俺だって……好き。愛してる」


 身を寄せ合うように触れ合い瞳が熱を帯びていく。


「誰が相手でも絶対に守ると誓います」

「バーカ。俺にも守らせてくれ」


 以前は喉の奥につっかえていた言葉も今ならと言える。

 この気持ちに嘘偽りはない。星と夜景の瞬きを背景に、2人の距離は更に縮まり、やがて瞼を閉じて唇と唇が触れ合うのだった。




                             後日談 ‐完‐ 

うまく書けなくて、いろいろ苦悩しました。

途中で挿入した「出禁になった男」は入れるか悩んだ話です。

また過去話の外見描写の修正で紺碧色を群青色と間違って書いてました。よりにもよってメインキャラの表現を間違えるなんて、もっと早く気づけばよかったとお恥ずかしい限りです。混乱を招き申し訳ございません。

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