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第一話 真理子

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母の名前は真理子。

父を早くに亡くし、女手ひとつで兄と僕を育ててくれた。

強くて優しくて、少し抜けてるところもあるけれど――僕の自慢の母親だ。


まだ四十代。老け込むには早すぎる年齢のはずだった。

けれど、今の彼女は病院のベッドに横たわっている。


事故で腰椎を損傷し、緊急手術を受けた。

幸い手術は成功し、医師も「リハビリさえすれば、また歩ける」と言っていた。

なのに、母は動けないままだ。

精神的なショックが大きかったのだろう。リハビリはほとんど進んでいない。


若々しく、どこか華のある美人だった母の顔は、今ではやつれて覇気を失っている。

背筋を伸ばし、ふっくらとした体つきだったのに、今では骨が浮き出るほど痩せてしまった。

まるで歳を一気に二十も取ったようで、正直なところ、今の母を「四十代」と言い張るのは厳しい。

いや、最近の初老の女性のほうがよほど元気で若々しいかもしれない。


「身体はもう治ってます。後はご本人の気持ちの問題ですね」

主治医の言葉はそうだった。

わかっている。けれど、どうすればいいのか。

どうすれば、彼女の心をもう一度立ち上がらせることができるのか。僕はずっと悩んでいた。


「……あら。今日も来てくれたのね。ありがとう」

ベッドに寝たまま、母がかすかに微笑む。

「お兄ちゃんはメールだけなのに、あなたはマメね……ふふ」

「兄さんと違って、暇だからさ」

僕はそう言って笑った。でも、本当は違う。


今の僕には、ある力がある。

人の夢に入り込み、その中を旅する力。

そして、今日。僕は決めた。


この力を使って――母を救う。


【夢の中へ】


そこは、深い森の中だった。

濃い緑に囲まれた空間。木々のざわめきの奥へ、僕は足を進めていく。

踏みしめる土の感触。差し込む光の中で、柔らかく揺れる葉の影。

その先で――彼女は、立ち尽くしていた。


真理子。僕の母だ。

けれどそこにいるのは、病室のベッドに横たわるやせ細った姿ではない。

記憶の中にあった“あの頃”の母だった。

凛とした瞳。健康的で引き締まった体つき。品のある顔立ち。

忙しく働きながらも、僕たち兄弟に笑顔を絶やさなかった――

強く、美しく、そして優しい。あの頃の、かっこいい母の姿だ。


彼女は今、太い蔓のようなものに囚われていた。

それは樹から伸びたもののようでもあり、意志を持つ何かのようでもある。

挿絵(By みてみん)

両腕を後ろに引くように絡み取り、腰にも、足にも巻きついている。

ツタに絡まれた身体は、まるで森の一部になってしまったかのように動かない。

葉が生い茂り、足元はもう見えない。

――これが、母の心を縛るものなのか。


ふと、彼女が小さくうめいた。


「ん……誰……?」


目を開いた母は、かすかに焦点の合わない視線でこちらを見つめた。

そこに立つ僕が誰なのか、分かっていないようだった。

だが、驚きも恐れもなく、静かにこちらを見ている。


「【俺】は……あなたを助けに来た者です」

僕はそう告げる。


【蛇たちの森】


この夢の中でなら、僕は無力な少年ではない。

彼女の手を取り、闇から引き戻すための力を持っている。

現実ではどうしようもなかったことが、ここではできる。


僕は、母のヒーローになる。

あの日、彼女が何度も僕を守ってくれたように。


僕はそっと手を伸ばし、真理子の腕に巻きついたツタを掴んだ。

ひんやりとしていて、しっとりとした感触。

力を込めて引っ張ろうとするが、びくともしない。

まるで大地そのものが母を抱え込んでいるようだった。


「くっ……!」


さらに力を込めようとしたその瞬間、ツタが――動いた。


否、それはツタなどではなかった。

ぶわ、と蠢いたそれらは一斉にその姿を変える。

滑らかに、しなやかに、黒く艶やかな鱗をまとい――蛇だ。


無数の蛇が真理子の身体に絡みつき、肌を這い、喉元に巻き付き、ふとももに、足首に、艶めかしくその身を絡ませている。

彼女の柔らかい肌にしっとりと蛇が吸いつくたび、彼女の体はかすかに震え、抑えきれない吐息が漏れる。

あの頃は僕を守ってくれた母が、今は誰かに救いを求める“ヒロイン”になっていた。


「やめて……来ないで……!」


震える声が、僕を制止する。

その視線に、僕を“息子”として見る気配はない。

この世界では、僕は名も知らぬ救いの者、異邦の騎士。


「あなたは逃げて。私のために戦う必要なんて……ないの……」


その言葉を、僕は静かに遮った。


「違う。あなたを救うことが――俺の使命です」


【闇をはらう剣】


その瞬間だった。

僕の足元から、空気が揺れるような衝撃が広がった。

胸の奥から何かが噴き出すような感覚。視界の端が光に染まり、手のひらに熱が集まっていく。


右手を前に突き出す。

意志が形を成す。言葉はいらない。願いは一つ。

“救いたい”。ただそれだけの思いが、鋼の形を取った。


――剣だ。


何の装飾もない、無骨でまっすぐな剣。

だがそれは、今の僕にとって世界で一番頼れる“力”だった。


「大丈夫。あなたは、俺が必ず守る」


蛇たちがこちらを睨みつけ、牙を剥く。

真理子の身体に巻きついたそれらが、一斉にこちらへと向かって這い出してくる。


僕は剣を握りしめ、構えを取る。

音もなく、黒い蛇の群れが襲い来る――

それでも僕は、一歩も退かない。


ここは夢の中。

でもこの戦いだけは、確かな現実だった。


最初の一匹が地を滑るようにこちらへ飛びかかってきた。

僕は剣を構え、咄嗟に横へ薙ぎ払う。


「っ――!」


鈍い感触。

黒い鱗が弾け飛び、蛇の身体が宙を舞って地に落ちた。


【彼女を救えるのは】


すかさずもう二匹、今度は背後から襲ってくる。

振り向きざま、剣を振る。軌道は雑だが、それでも切っ先がかすめた一匹が甲高い悲鳴を上げて消える。


三匹、四匹――

次々と襲いかかる蛇を、僕は必死に迎え撃つ。

呼吸は荒くなり、汗が額を伝う。だが、手応えはある。

剣は、この世界では僕の“意志の形”なのだ。ならば――折れることはない。


「この程度なら……!」


だが、甘かった。


地面が揺れた。

森の地中から、さらに数十匹もの蛇が這い出してくる。

まるで黒い波だ。数えきれない。

無数のうねりが、僕を中心に円を描くように取り囲む。


「くっ……!」


逃げ場はない。前も、後ろも、左右も、蛇だらけだ。

斬っても、すぐに別の一匹が同じ場所にのしかかる。


刃が振り切れない。

足を絡め取られ、膝をつく。手から、剣がこぼれ落ちる。


「はぁ……っ、ああっ!」


牙が、喉元に迫る。

視界の端で、真理子が叫ぶ――


「逃げて!もういいの、あなたが傷つくのは……見たくない!」


僕は、かすかに目を閉じた。彼女の声が、心の奥に触れた。


何のためにここへ来たんだ。

彼女を守り、救うために来たんじゃないのか。


あの優しい彼女を、守れなくていいのか――!


【騎士としての務め】


「俺は……っ、あなたを救うって、決めたんだっ!!」


咆哮とともに、意志が燃え上がる。

右手が熱くなる。

落としたはずの剣が、光となって掌に再び現れる。


意志は折れてなどいない。むしろ、今が本当の始まりだ。

――僕は、彼女の騎士なのだ。


立ち上がる。

目の前に迫る蛇の群れに、躊躇なく踏み込む。


「うおおおあああっ!!」


鋭い軌道。

一閃。二閃。

振るうたび、黒い体が断ち切られ、霧のように消えていく。


周囲の闇が、少しずつ晴れていく。

剣を振るう僕の姿に、蛇たちはひるみ、後退しはじめた。


気がつけば、僕は蛇たちの群れの中心に立っていた。

剣の先端から、白く蒸気のような光が立ちのぼっている。


静寂。

風が吹く。

そして彼方から――地鳴りがする。


次の敵が、来る。


だが、僕はもう怯えない。

剣を握る手に、確かな力が宿っている。


真理子を救うためなら、僕は何度でも立ち上がる。


【深淵から這い出る影】


森がざわめいた。

空気が重くなり、冷たくなる。


大地を割って、それは現れた。


巨大な黒い蛇。

長さは数十メートル、胴は大木のように太く、鱗は煤けた鉄のように硬質に光る。

両眼は赤く燃え、ただならぬ知性と悪意を宿していた。


その口が、かすかに開く。

一瞬、そこに見えたのは――毒に濡れた二本の牙。


真理子が悲鳴を上げた。


「だめ……逃げて……! この子は……今までのとは違う……!」


この子、か。

どう見ても「子」ではないが、自分が生み出したモノという意識があるのだろうか。


……だが僕は、剣を構えて前に出た。

「あなたを助ける。どんな敵でも、俺は――退かない!」


その瞬間、蛇が地を蹴った。

突風のような音とともに、巨体が滑るように迫る。


「っ!」


その顎が、音もなく開く。

僕は身を低くし、寸でのところで回避。だが――


「ぐっ……!」


肩に牙がかすった。

チリ、と焼けるような痛みが走る。

毒だ。呼吸が浅くなる。指先が震える。


だが、構わない。

力を籠め、剣を振るうだけだ!


【大蛇の連撃】


僕の渾身の一撃が、蛇の胴をかすめた。


「……ッ、少し……軽くなった……!」


真理子のか細い声が届いた。

そうだ、奴に傷を負わせれば、彼女の拘束が緩む――!


希望が見えた。その瞬間だった。


「っ、く……!」


大蛇の尾がうねり、音もなく背後から僕を襲った。

逃げる間もなく、重たい衝撃が体を打つ。

肋骨が軋み、視界がぐにゃりと歪む。


吹き飛ばされ、地に叩きつけられる。


そこへ、蛇の全身が覆いかぶさってきた。

鋼のような鱗が僕の身体を押し潰すようにのしかかる。


「が……ッ……!」


意識が、沈んでいく。

遠く、真理子の声が響く。


「いや……いやぁ、お願い、やめて……!!」


それは、誰かのためを想って泣く声だった。

母としてではない、一人の女性としての悲痛な叫び。


……蛇はそのまま、ぐったりした僕の体に巻きつき、締め上げていく。

次第にその胴が締まっていき、全身の骨が悲鳴を上げる。


「ぐ、ああああ……っ!!」


締め付けるその痛みが、薄れていた意識を呼び戻した。

だが、次の瞬間、それ以上の痛みが僕を襲う。


【かすかな希望】


――奴は僕の首に、牙を突き立てていた。


「……ッっ!!」


毒が、血を逆流するように巡っていく。

視界が赤く染まり、心が折れそうになる。

意識が再び、遠のいていく……。


だが――そのときだった。

真理子の顔が見えた。


涙で濡れた瞳。

今にも壊れてしまいそうな、儚い顔。


「あなたは……私の……ヒーローなのに……!」


ああ、僕は……いや、【俺】は――

彼女の騎士だ。

こんなところで、終われない。


「絶対に、あなたを助けるって……誓ったんだ……!」


震える手に、光が宿る。

短剣が生まれる。

指しか動かせない今、作れるのはこの小さな刃だけ。


だが、それで充分だ。


「……喰らえっ!!」


短剣を、蛇の赤い眼に突き立てた。

乾いた音とともに、蛇が悲鳴を上げる。

その身がのたうち、僕の体を離した。


体が自由になる。

立ち上がる力はない。

だが――手は、動く。


【貫く槍】


あの大蛇を貫く力。今はそれだけが必要だ。


僕の手に槍が生まれる。長く、まっすぐな、僕の意志の結晶。

その刃は、月光のように白く輝いている。


「これで――終わらせる!」


僕は地を蹴った。

体が重い。だが、槍を握る腕に、力がある。


跳躍。

空を裂き、槍の先端が蛇の頭蓋を目がけて落ちる。


「おおおおあああああああっ!!」


全体重を乗せた一撃が、蛇の頭に突き刺さった。

鈍い音とともに、肉を割って槍が突き進む。


蛇が絶叫する。

身をくねらせ、森を巻き込み、暴れ狂う。


その衝撃で僕は吹き飛ばされ――

真理子の元に落ちた。


「ぐはっ……」

「あっ……あなたっ……!」


彼女が伸ばした両腕が、僕の体に届く。

……僕はその手を握った。


大蛇は断末魔のうねりを上げながら、やがて――霧とともに消えた。


【ラストシーン】


森に静けさが戻る。

真理子を縛っていたツタも、音もなくほどけ、消えていく。

解放された彼女は、崩れるように膝をつき、倒れ込んだ男を抱きしめた。


「――いや……いや、いやよ……」


震える手で、男の顔を両手で包む。

その頬に、血の気はなく、目を閉じたまま動かない。


「そんな……こんな結末、いやよぉ……!」


首を振る。涙が次々にこぼれる。

美しく整った顔が、悲しみに歪んでいく。


「私のために、ここまでしてくれたのに……あなたが……」


何度も、何度も男の名前を呼ぼうとする。けれど、その名は彼女の唇には浮かばない。

なぜなら、彼は“息子”ではない。

この夢の中では――彼女にとって、ただの“名も知らぬヒーロー”だから。


それでも、想いは溢れて止まらない。


「どうして……こんなに優しくて、強くて……こんなに、私のことを守ってくれたのに……」


彼女の手が、男の髪を優しく撫でる。


「あなたがいなくなったら、私、またひとりになっちゃう……」


その声は、もう完全に泣いていた。


「お願い……目を開けて……助けてくれなくてもよかった。あなたが生きていてくれれば、それだけで……」


月光が差し込み、森の静寂に、ただ真理子のすすり泣く声が響いていた――


【その名だけでも】


死の気配が、静かに忍び寄っていた。

意識の底に沈みながら、僕は思う。


――このままでは終われない。


僕がここまで戦った理由。

それは彼女を助けたかったからだ。

なのに、今の僕が彼女に与えているのは――悲しみだけだ。


彼女を、再び傷つけてしまう。彼女の新たな枷になってしまう。

そんなのは嫌だ。


「……っ……う……」

彼女の頬を、濡らす涙をぬぐいたい。

動かない手を、無理に動かそうとする。指先がかすかに震える。

……だめだ。力が入らない。


ならば、何か、伝えたい。

心配ない、と。無事でよかった、と。

けれど、声にならない。唇がかすかに動くだけ。


それでも、彼女の名前を、ただ一言だけでも。

――真理子。


唇がそう、動いた。


「……っ!」


その姿を見て、真理子は目を見開いた。

そして――そっと、僕の唇に、自分の唇を重ねた。


長い、長いキスだった。


温かくて、柔らかくて。

それは、ただの接触ではなかった。

彼女の中に灯った希望の光が、僕の中に流れ込んでくるようだった。


次第に、感覚が戻ってくる。指が動いた。足も。

呼吸が、楽になってくる――。


【ハッピーエンド】


目を開けると、真理子がそこにいた。

涙を浮かべて、微笑んでいた。


「……あなた……戻ってきてくれたのね……」


その声は震えていたが、どこか晴れやかでもあった。

まるで、長い冬を越えて春の光に包まれたような――そんな顔だった。


「私、ずっと怖かったの……またひとりになるのが……でも、もう大丈夫」


真理子の瞳が、まっすぐ僕を見つめていた。

それは、母親のそれではない。

戦い抜いて自分を救ってくれた“ヒーロー”に向ける、憧れと恋のまじった視線。


「……これからも、私と一緒にいてくれますか?」

挿絵(By みてみん)

真理子が出してきた手を見つめ、僕は、一瞬戸惑う。

目の前にいるのは、母さん――のはず。

けれどこれは夢の中の話だ。

彼女は、自分のことを“母”だと思っていない。

僕は、彼女にとってただのヒーローだ。


だったら……せめてこの夢の中だけは。


僕はそっと手を伸ばし、彼女の手を取った。

細くて、温かい手。


「俺は、あなたの騎士です。それで、よければ」

「うふふ……騎士さん、ありがとう」


真理子は、やわらかく微笑んだ。

その笑顔は、森に差し込む朝日のように美しかった。


真理子は首に手を回し、キスをしてくる。

僕はもう、戸惑わなかった。彼女を抱きしめ、その愛に応えた。


――夢の中の物語は、ここで終わる。


でも、彼女の心にはきっと、希望という灯が残るだろう。

そして僕の中にも、何か確かなものが残っていた。


【現実世界】


柔らかな光が、カーテン越しに病室へ差し込んでいた。

僕は、ベッドのふちに突っ伏して眠っていたらしい。

うっすらとまぶたの裏が明るくなり、微かな温もりに気づく。


――なでられている。


髪に触れる、優しくて懐かしい手のひら。

目を開けると、そこには母さん……真理子がいた。


「……母さん……?」


彼女はベッドに起き上がり、僕の頭をそっと撫でていた。

その目には、あの頃と同じ柔らかな光が宿っている。


「起こしちゃった? ごめんね」

そう言って、微笑んだその顔に、かつての母の気高さと優しさが戻っていた。


「ねえ、不思議な夢を見たの」

彼女は窓の方を見つめながら、ぽつりぽつりと話し出した。


「その中でね、私、どこかに閉じ込められていたの」

知っている。暗い森の中だ。


「怖くて、もう誰にも会えないって思ってた」

自分で閉ざした世界だ。僕以外、誰にも会えなかっただろう。


「でもね、来てくれたの……助けに来てくれたの。誰よりも勇敢で、優しい人」

僕だ。彼女の騎士だ。


「すごく、すごくかっこよかった……年甲斐もなく、ときめいちゃった」


そう言って、母さんは少し照れくさそうに笑った。

その彼女の頬には、ほんのり赤みが差していた。

その姿は、まだ少しやつれてはいるけれど、確かに光を取り戻している。

挿絵(By みてみん)

僕は、今の母さんの姿と、夢の中の真理子の姿とを重ね合わせていた。


【真理子】


「えっと、あのね?」

「ん?」


少し恥ずかしそうに、母さんはつぶやく。


「リハビリ……今日から、頑張ってみようと思うの」

「……そうなんだ」

「ごめんね、今までサボってきちゃって……」


仕方がない。心が囚われていたのだから。


「でも、今なんだか、頑張れそうなの」

「……うん」

「夢の中のヒーローに、頑張れって、言われてる気がして」

「うん。そうかもね」

「リハビリはきつそうだけど、でも、やれそうな気がするの」

「うん……できるよ」

「えへへ、私、頑張るね……応援しててね」


「うん、頑張って。真理子」


「――え?」


少し間があって、母さんがこちらを見つめる。

その瞳が、ぱちりと瞬いた。


「今……なんて言ったの?」

「……母さんって言ったんだよ!」


そう言ってそっぽを向いた僕の様子を見て、真理子はくすくすと笑った。

その笑い声は、まるで病室に春を呼び込むようだった。


外では風が木々を揺らし、季節が確かに進んでいることを告げていた。

彼女は、もう大丈夫だ。

そして僕も、もう迷わない。


――これは終わりじゃない。始まりだ。


BGM:Get Wild


ちゃーらーらー ちゃらんらんららー

ちゃららんらんら ちゃんらんら ちゃーらーららー


おわり

シーン追加した18禁版をノクターンノベルズに投稿しようと思っております。

また、2話目も構想中です。またーりお待ちください。

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