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9.真実 ◇




 リファレラと合わす顔が無いグラッドは、二日間騎士団長の部屋を借りて寝泊まりをした。

 三日目の朝、トリスタンに呼ばれて第一皇子の部屋に入る。



「……うわっ!? かなりヤバイ顔をしてるぞお前。前髪と髭に隠れてても分かるぞ」

「そうですか……。御用件は……?」

「その様子……。お前、例の『初恋の人』と別れたのか?」



 核心を突いてきたトリスタンの質問に、隠す必要はないと思ったグラッドは小さく頷いた。



「そうか。やっと別人だと気付いたのか。自分で気付けたのが大きな進歩だな」

「っ!? トリスタン様は知っていらしたのですか!?」

「まぁな。お前、真っ直ぐ過ぎるが故に思い込みが激しい節があるから、そこを心配してたんだよ」



 ……似たようなことを誰かに言われたような……。


 ――あぁそうだ、リファレラの御両親だ……。



「そんなに元気が無いのは、ニセ『初恋の人』と別れたからじゃないな。リファレラ嬢に顔向け出来ないからか?」



 ――トリスタン様は、本当に何でもお見通しだな……。



「僕の勘違いの所為で、沢山傷つけてしまったリファレラに、何て言えばいいのか――」

「まぁそうだよな。忠告しておくが、『『初恋の人』は僕の勘違いでした。また『初恋の人』を見つけるまでは結婚を続けて下さい』なんて言った日にゃ、もう駄目だこりゃコイツ、ってなるぞ。見放されること確実だな」

「……いえ、『初恋の人』はもういいんです」

「ん? どういうことだ?」



 弱々しく首を振るグラッドに、トリスタンは疑問符を浮かべ質問する。



「『初恋の人』は、僕の“憧れの人”でもありました。彼女はきっと僕の手の届かない存在なんです。それよりも、僕はリファレラを傷付けてしまったのが悔やまれて悔やまれてなりません。僕が傷付けたのに、僕の話を真剣に聞いてくれて、言いたいことをズバズバ言ってくれて。リファレラと話をしている時が一番楽しくて、ずっと一緒にいたくて……。――いつの間にか、僕は彼女のことを好きになっていたんです……」



 グラッドのライトグリーンの瞳から、ポロポロと涙が零れ出る。

 トリスタンはそれに驚きの表情を見せた。この男とは付き合いが長いが、泣く姿を初めて見たのだ。



「でも、僕は最初から間違ってしまった。今、リファレラに『好きだ』と言っても、全く信じてもらえないでしょう。彼女は僕の所為で家に戻りたくて、離縁する気満々なんです。でも、僕はリファレラと別れたくない。離れたくない。僕は一体どうしたらいいんでしょう……」



 涙を流しながらのグラッドの告白に、トリスタンは眉尻を下げてガシガシと頭を掻く。



「それは俺に訊くもんじゃないぞ。自分で考えろ。離れたくないなら、必死で食らいつくしかないな」

「……はい……」

「一つ訊くが、本当に『初恋の人』はもういいんだな? もしまたお前の目の前に彼女が現れても、お前は揺らがない自信はあるか?」



 トリスタンのその問いに、グラッドは大きく縦に頷いた。



「あります。『初恋の人』は“憧れ”として、僕の中に有り続けると思いますが、僕はリファレラが好きです。大好きなんです」

「……そうか。なら実際に“彼女”を見て確かめてみろ。しっかりと見て、その時感じたお前の気持ちと向き合え。その気持ちから逃げるようなら、リファレラ嬢は諦めろ。冗談抜きで俺が貰うからな」

「…………え?」

「『初恋の人』が出現する場所と時間を教えてやるよ。情報源はヒミツだ。けど確かな情報だぜ。どうする? 訊くか?」



 グラッドは少しだけ固まったが、すぐに力強く首を上下に振ったのだった。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 夕方近くの『ルデールの沼地』で、グラッドは草の陰に身を潜め、気配を完全に消して様子を窺っていた。

 


「ここね? 人を襲うリザードマンの巣がある場所は」



 澄んだ女性の声がし、ライトブラウンの髪をポニーテールにまとめ、黒いメガネを掛けた『初恋の人』が現れた。

 確かに、先日出会った『初恋の人』――だが。



(髪の色が違う……!? それに……この髪の色、この声……。いや、そんな……まさか――)



 グラッドがグルグルと混乱している中、沼から次々とリザードマンが這い上がってきた。



「あら、結構な団体様ね? いいわよ、いらっしゃい。一瞬でやっつけちゃうから!!」



 彼女が詠唱を開始する。すると、髪の色が鮮やかな美しい紅色に変化していって――



「……っ!?」



 グラッドが驚愕で目を大きく見開く中、リザードマン達は次々と炎に呑まれて消えていく。



「ふふん、楽勝ね。さて、最後にこの沼を巣ごと燃やしちゃいますか」



 鼻歌交じりに彼女がまた詠唱を始め、終わった瞬間、沼が業火に包まれた。

 それは沼を干上がらせ、リザードマンの巣ごと燃やし尽くす。


 ものすごい魔力だ。それは上級の魔導師にも匹敵するほどの――



「オーッホッホッホ!! 私に掛かればこんなのお茶の子さいさい、屁の河童よっ! 今日の夕ご飯も美味しく食べられるわぁ~!」



 彼女は楽しそうに高笑いすると、黒いメガネを外した。



「…………っ!!」



 そこにあった、彼女の――『初恋の人』の顔は――




(り……リファ、レラ――)




「旦那様もちゃんとご飯食べているかしら? 城で寝泊まりだなんて、肩書きを持つと色々と大変よね。無理してないといいけど。嫌じゃなかったら、今度差し入れでも持っていこうかしら?」



(リファレラが……。こんな……僕の、心配を……)



 身体の震えが、さっきから止まらない。気付けば全身、滝のような汗を流していた。



「さぁ、早く帰りましょう。遅くなるとシルヴィが心配しちゃうからね」



 彼女――リファレラは、軽い足取りで沼地から出て行く。




「……う……うああぁぁぁッッ!!」




 リファレラがいなくなった後、グラッドは人目憚らず慟哭した。




『離縁の許可は、今はしないでおきます。娘の為にも、――()殿()()()()()、ね』




(エルドラト子爵の言葉の意味が、今……ようやく分かった――)




 様々な感情が押し寄せては引いてを繰り返す。





『僕は君を愛することは出来ない!!』

『なるべく早く君と離縁出来るようにするから、少し待っていてくれないか……?』




 自分がリファレラに放った数々の心無い言葉も、グルグルと頭の中を渦巻いて。





 グラッドは声を上げて、涙が枯れ果てるくらい泣き続けたのだった――






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