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12.消えていった言葉




「リファレラ。欲しい物があったら何でも言ってごらん」



 ――夜、旦那様の部屋にて。


 いつものように旦那様のエスコートでソファに座ったら、すぐ隣に彼が座りそう言ってきた。



 あ、また距離が元に戻ったわ! 心の声が聞こえたわけじゃなかったのね。昨晩は一回こっきりのレアな距離間だったということか……。


 ――えっ!? この人、さり気なく肩を抱いてきたわっ!? これじゃこっちもさり気なく離れられないじゃない! 先制攻撃を食らったわ! 何なのよもうっ!?



「えっと、欲しい物ですか……? 特にありませんが……」

「ははっ、本当に欲がないね、リファレラは。あ、パーティーに着ていくドレスや装飾品は僕が買うよ。僕の服装と合わせたいから、僕が選んでも大丈夫?」

「え、えぇ。お任せしますわ。ありがとうございます」

「こちらこそありがとう。他に欲しい物があれば遠慮なく言ってくれ」



 遠慮なく……ですか?

 では冒険者用の服と魔力回復剤が欲しいです!!

 戦闘になると、時々火が移って服が焦げたりするのよね……。火の属性者の『あるある』よ……。


 ――って、こんなこと絶対に言えるわけないじゃない! ギルドに行っていることがバレて絶好のお小遣い稼ぎの場所を失うわけにはいかないもの!!



 私が困った顔になっていることに気が付いたのか、旦那様は綺麗な眉を八の字にしてクスリと苦笑した。

 そして、空いている手で私の頬をそっと触ってくる。


 ……断りを入れなかったわね……。

 やはり旦那様の中で、昨晩の二つの許可は私が拒否をするまで継続しているようね……。



「ごめん、君を困らせたい訳じゃないんだ。僕に出来ることなら、何でも君にしたいと思ってる。勿論、これからもずっと。『自己満足』、『偽善』と罵ってくれたっていい。それでも僕は、君が喜ぶことをしたい。君の心からの笑顔が見たいんだ。だから、本当に何でも言って欲しい……」



 旦那様の顔は真剣そのもので。それを本気で言っていることが分かる。


 どうして……そこまで私のことを……?



 ………………。


 …………。



 ……うぅ、ちょっと待って。さっきから撫でられている所がくすぐったい……。ムズムズするわ……。思いっ切り掻き毟りたいっ。



 暫く頬を撫でてジッとこちらを見つめていた旦那様は、不意に私の肩を抱く力を強くした。

 そして、おもむろに私の顎に人差し指と親指を掛け少し上を向かせると、その美麗な顔をゆっくりと私の顔に近付けてきて――



 ――えっ!? ちょ、ちょっと待って!? こっ、こここれはもしや……!!



「だ、旦那様……っ」



 唇と唇がもう少しで触れ合う瞬間、私は慌てて旦那様を呼んだ。

 ハッと旦那様は動きを止め、目と鼻の先に焦る私の顔があることに気付くと、ボボッと顔全体を真っ赤にさせる。

 そして、瞬時に仰け反るように顔を離した。



「ごっ……ごごごごめんっ!! きっ、君が愛しくて仕方なくてくすぐったそうに目を細める顔がめちゃくちゃ可愛くて可愛過ぎてあぁすごくキスしたいって思っていたら無意識に身体が勝手に……っ!?」

「へっ、ええぇっ!? あっ、やっ、いえっ、だだ大丈夫です! はいっ! ここここちらこそすみませんっ!?」

「あっ!? いっ、いやいや大丈夫!! すごく残念だったけど――あっ、いやいやいや何でもないっ!! うん本当何でもないよっ!?」



 二人して顔を真っ赤にさせて、腕を振り回してアワアワする。

 何かとんでもないこと言われた気がするけど気の所為よね!?



「え、えっと、も……もう遅いし寝ようか、うん!!」

「は、はいっ! そうしましょう、えぇ!!」



 私達は大きく頷き合いぎこちなく立ち上がると、自然と手を繋ぎベッドまでカチコチとした動作で歩く。

 そして、昨晩と同じように旦那様は私を抱き上げると、私を抱きしめて横になり、毛布を掛けた。


 旦那様の胸の中に深く抱き込まれ、彼の顔は見ることが出来なかったけど、体温がすごく熱くなっているのが分かって……。きっと顔の方も――

 私も顔だけじゃなく、身体全体が熱くなっていた。



 ほ、本当にビックリしたわ……! 不意打ちは卑怯よ旦那様っ! 私が止めなかったら、あのまま――



 自分の心臓がバクバクと煩い。ふと思い付き、旦那様の左胸に耳を当てると、こちらも昨晩と同じ――いやそれ以上にバクバクと盛大に心音を鳴らしていて、思わずフフッと笑ってしまった。



「……どうした? リファレラ」



 私の小さな笑いに気付いた旦那様が、頭を優しく撫でながら訊いてくる。



「いえ。……似た者同士だな、と思いまして」

「……君に似ているのなら、僕はすごく嬉しいよ」



 フッと笑った気配がし、私の頭に旦那様が顔を埋めたのが分かった。




「……してる、リファレラ――」




 旦那様が小さく小さく呟いた掠れた言葉は、私の耳に届く前に消えていった――






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