沖縄で過ごした夜
「この前すごかったよな、血出たよな」
「うん、流石に8回はキツイって〜。やめてよー?」
修学旅行の夜。部屋にはもちろん女子しかいない。もちろん男子が入ってくることもない。しかしよくわからぬ男の声が聞こえる。どうやら瑠美には彼氏がいるということを、電話の内容から知った。一体、行為ってどれくらい痛いんだろう。血が出るって、怖い。私はそんなことを思いながら電話の話を興味がないふりをして盗み聞きしていた。2ヶ月きてないとか言ってたけど、まさか…??もしかして…?そんな考えがぐるぐる頭をよぎった。
高校に入った頃は、この学校って地味で真面目な人しかいない。他校生はすごく派手で垢抜けている。なんて思っていたけれど、蓋を開けてみれば学校内でカップルなんてごろごろいる。可愛い子だって多い。他校生と付き合ってる人もだっている。宿題だって多いし、部活も忙しいのによく恋愛までするエネルギーがあるなぁ。カップルたちは、もしかして瑠美たちが話しているようなことをしているのだろうか。
そういうことをしたことがない私って、だいぶ遅れをとっているのだろうか。そもそも恋愛どころか、男子と大して関わったこともない。
「ねえ、何瑠美のことジロジロみてんの?」
横井ちゃんが聞いてきた。横井ちゃんは、瑠美のことなんかちっとも興味なさそうに髪の毛を乾かしている。
「別に経験済ませてるのって、偉くもなんともないからさ」
横井ちゃんはそう言ったけど、やっぱり瑠美は大人に見えてしまう。
中学の頃は学年で10位以内になれていたけど、高校では授業についていくのが精一杯。研究の授業は大好きで打ち込めて、化学研究コンテストだって出てみた。予備審査は受かったけど、一次審査会で落ちてしまった。私って何をしても中途半端。
「全国区のコンテストに出ようって気持ちがすごい、予備審査合格おめでとう」
なんて瑠美や横井ちゃんは励ましてくれて、祝ってくれた。けれども、横井ちゃんなんて、中学の時点で化学系の研究コンテストに出たなんてすごい。瑠美は週に6日、土曜日の午後も新体操部の練習をやって彼氏までいる瑠美は器用すぎてすごい。瑠美も横井ちゃんも、修学旅行の朝ですら、部活の走り込みをするなんてすごすぎる。
そう考えているうちに、気づいたら目をつぶって眠りについていた。
-----夢見る10歳------
私、小出千咲。普通の小学生。この前、お母さんに高校のイベントに連れて行ってもらったんだ。ガラス細工を作ったのがとっても楽しかった。お兄さん、お姉さんが優しく実験を教えてくれていたし、実験って楽しいな。あの高校に行って、実験をたくさんしたい。
-----有名になった16歳------
私、小出千咲。田舎の普通科の高校生…だったのが、化学研究コンテストで優勝にあたる文部科学大臣賞を受賞しました。新聞に載って、全国にその名を馳せる有名人になっちゃいました。おかげでみんなが祝ってくれる。学校のみんなの前で、表彰される。なぜか全国のいろんな人から声をかけられる…
朝になり、目が覚めた。コンテストは、一次審査でダメだった。結果もそうだけれど、別の意味でも打ちのめされた。それは、他県には県立の女子高校が未だにあるということ。私だって、元々は県立の女子高校があるならば行きたかった。
今は沖縄のホテルにいる。瑠美がポニーテールに半袖短パン姿で、汗だくになって部屋に戻ってきた。
「あー、なっちゃった、お腹痛い」
瑠美はそんなことを言っていた。日常の何気ない言葉に、すごくホッとした。リュックの中には、瑠美とお揃いで買ったネックレスがある。物が欲しいとか普段は思わないけど、このネックレスだけは、どうしても欲しかった。手彫りの石が、キラキラと光っている。