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page 9

「彼女の特徴についてですが……やはり爪の色、でしょうか」

「爪の色?」

「はい。夢で見た世界では、爪の色によって能力が使えたのですが、彼女の爪の色がカシスブルーだったことははっきり覚えています」

「カシスブルー……? ブルーというくらいだから、青系統の色だろうか。女性なら、ネイルではないのか?」

「あれは内側から滲んだような感じでしたから、多分マニキュアではないと思います。左手の薬指だけネイルをする人もいないでしょうし」

「指の一本だけ、内側から……分からないな。あとは内出血くらいしか出て来ない」

「な、内出血ですか……」


 ジムよりよっぽど真面目に推理しているユエに感心していたリオードは、ふいに怯えたように呟いた。リオードはローファード・ハウスの中では一番の怖がりで、心霊現象なんかは勿論だが、この手の話題も苦手なのだ。


「ああ。訓練中に内出血して、爪が真っ青になった奴なら見たことがある」

「へえ、やっぱりポリスの訓練は厳しいんですね」


 ケリーが感心したように言うと、「この街で生きていくのに比べれば、あれくらい大したことはない」とユエは平然とした声で返した。


「他に情報はあるか?」

「カシスブルーは罪の血の色だと言って、それを隠すようにいつも手袋をしていました。服装はいかにもお嬢様と言った感じで、夢で見た場面が社交パーティーだったこともあるんでしょうが、上品なドレスがよく似合っていました」


 そう話しながら照れ笑いを浮かべるケリーの惚気っぷりにリオードが感心していると、ユエが思い出したように言った。


「そういえば、手袋の令嬢なら一人心当たりがある」

「えっ、いるんですか」


 驚いたリオードに、ユエは頷く。思わず道が開けたケリーは、昂る期待を抑えこむように息をのんだ。


「街ではどの程度知られているか知らないが、ポリスの間じゃそれなりに噂になっていた人物だ。現役ポリスのお父上が教育熱心な方でな、数年前に見学でよく訓練校に連れて来ていたんだ。彼女自身も訓練校への入学を強く希望していると言っていて……いつだったかは忘れてしまったが、無事入学したはずだ」

「その人は今、どっ、どこに!?」


 とうとう興奮が抑えられなくなったケリーは、机に手をつきながら前のめりになってそう尋ねた。ユエは落ち着いた様子で静かに手首を持ち上げると、カフェの窓の奥に向かって指をのばした。ケリーとリオードがそれを辿っていくと、その先で一人の女性の姿を目に捉えた。スポーティーな格好で黒髪を結んでいる女性が、裏路地へと消えて行く。女性の両手は確かに布地に覆われていた。表情は見えなかったが、ケリーは確信めいた声色で呟いた。


「……間違いない。彼女だ」


 リオードはケリーの声に反応すると、すぐさまユエの肩をがっと掴んだ。痛くも痒くもなかったが、ユエはちょっと嫌そうな顔をした。


「ユエさん、あの人と会わせてください!」

「なんで私が」

「ポリスの訓練校にいたなら、連絡先とか調べられるかも知れないじゃないですか! あるいは直接彼女を呼び出してもらうとか……」

「私は時間外労働も職権乱用もごめんだ。だいたい、今通りがかったんだからすぐにでも追いかければいいじゃないか」


 ユエは何でもないように言ってのけた。それもそのはず、ユエはポリスのトップ、つまりティアナから直々に単独任務が課せられるほどの実力者なのである。パワー・イズ・パワー、ジムの言葉が今になってリオードの胸を刺す。


「ぼ、僕はジムさんみたいに強くないですし、一人であんなところ入って行ったら死んじゃいますって……!」


 女性が消えて行った暗闇を眺めて、ユエは軽く息をついた。実際、リオードはジムとミドルや裏路地を巡る中で散々危険な目に遭ってきたのだから、リオードの言い分はもっともである。しかし、ユエはユエの経験に基づいて、ここで引き下がる気にはならなかった。


「こんなことは死んでも言いたくないが……」


 ユエはひどく眉をひそめながら、息を吐き出す。


「ジム、彼女は決して馬鹿じゃない。こんなことを言わされるのは本当に、本当に不服だが、彼女は有能だ。ティアナさんですらそれを認めているのだから、私が否定できるはずもない。つまり、彼女ができると判断したなら、それはきっと君にできないはずがないということだ」

「そう、でしょうか」

「これ以上は言わないぞ。行くならさっさと行った方が良い」

「……っ」


 ユエの説得にリオードが言葉を詰まらせたとき、それまで惚けていたケリーが話し出した。


「……リオードくん、ここまでありがとうございます。後は僕が直接話をつけてきますから、もう大丈夫です」

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