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檻の中の少女編(4)

 初出勤の日は何事も無く終わった。


 仕事もだが、悪魔の攻撃が何もなかった事にホッとする。神様に感謝したい。


 そういえば会社の目の前のビルには、教会があった事を思い出す。ふらりと祈るために立ち寄りたいと思った。


 悠一によると地域に悪霊がいるという。その事も考えるとこの地域でも守ってほしいと考えた。この会社の人達も悪い人には見えない。どうか守られるように祈りたかった。


 という事で篝火は仕事が終わると、会社の目の前のビルにある教会に行く事にした。


 ビルの中の教会があるなんてちょっと不思議な感覚だが、クリスチャンが集まる場所は神様がいるから、どこにも教会になる。夫婦や友達でもクリスチャン同士なら礼拝を上げることも可能なのだ。神様はどこのでも臨在できるお方なので、場所は選ばない。海外ではコロナ渦で礼拝が禁じられたクリスチャンは、商業施設でも礼拝をあげていたという話を直恵から聞いた事がある。


 ビルの5階にある教会だが、一番大きい部屋が礼拝室のようだった。


 受付で牧師に会い、事情を話して礼拝室を借りる事にした。


 まだ若い牧師だった。


 黒田倫太郎という牧師で、まだ25歳ぐらいだった。目の下にクマがあり、ちょっとミュージシャンっぽいオシャレなサブカル雰囲気もある。ビジュアル系というよりはロッキンオン系バンドのような雰囲気だった。菊地やっぱり元ミュージシャンで、ロッキンオン系バンドを主にやっていたらしい。


「今はバンドからは足を洗いましたよ。もっぱら讃美歌だけですねぇ。さあ、礼拝室はここですよ」

「オレもビジュアル系バンドやってたけど、もうロックは聴けないねー」


 倫太郎に案内され、礼拝室に入る。高校の教室のような礼拝室だった。教壇にピアノと説教台があるので、礼拝室とかろうじてわかるぐらいだ。防音もしっかりしているので、讃美歌を歌っても問題無いとの事。


 という事で篝火は、祈りを捧げたあと、しばらく讃美歌も歌っていた。倫太郎もピアノを弾いてくれた。一曲だけだったが、神様への感謝の気持ちが溢れた。もう夕方だったが、目の前がパッと明るくなっていくような感覚も覚えた。


「讃美歌歌えてよかったです!」


 篝火が素直に言うと、論太郎はニコニコと笑って頷いた。


「少しお茶でもしながら話しません?聖書の事とか」

「いいっすね!」


 論太郎の提案に頷き、教会の事務室で少しお茶をする事になった。


 小さなテーブルを挟み、向き合うように座る。温かい紅茶と甘い香りのするクッキーを出され、篝火の表情も思わずゆるくなった。食べ物に興味のない篝火だが、こういうちょっとしたお菓子は好きだった。ビジュアル系バンドをしていた時は全国のライブハウスを周ったときもあったが、新幹線の中で買うアイスやコーヒーがやけに美味しかった事を覚えていた。


 しばらく倫太郎と神様に信仰を持った経緯を話していた。きっかけが悪霊祓いというとかなりびっくりしていた。


「今の教会は悪霊祓いやっている所はあんまり無いんですけどね。珍しいです。あぁ、神谷さんのところの教会でしたか。噂だけは聞いていますね」


 悠一は表向きは悪霊祓いをやっていないはずだが、やっぱり牧師同士のネットワークでは噂が流れているようだ。


「最近はどうですか。洗礼受けた後は、悪霊の攻撃が強くなりますからね」

「実は……」


 篝火は最近の悩みを打ち明けた。悪霊が見えるようになった事や姦淫の悪霊に憑かれた事など。


「生霊ってあるんですかねぇ。正直女性からそんな風に見られるのは、キッツイですよー」

「いいえ。生霊などは無いですね」


 倫太郎はそう言いと、クッキーをぽりぽりと齧り、紅茶を飲んだ。


「生霊はない?」


 悠一は生霊はあるような事を言っていたが、倫太郎によると「霊」には聖書で書かれる悪霊と聖霊のどちらかしか無いという。いわゆる幽霊も死んだ人の記憶を食べた悪霊が見せている幻だという。


「倫太郎さん、詳しいですね!」

「ええ。もともとオカルトネタが好きだったんですよ」


 篝火が褒めると倫太郎は、気分を良くしたようで、さらに詳しく教えてくれた。


 いわゆる生霊というのも悪霊が人間の負の感情を食べたものらしい。そこで知ってか知らずか人間と悪霊との契約が生まれる。契約を結んだ悪霊は、その人の願いを叶える為に恨んでいたり、執着していたり、許せない人間を攻撃しの行くという。これがいわゆる生霊、呪いと言われているものだ。


 その話を聞いて篝火は顔が真っ青になった。心当たりがありすぎる。目の前の紅茶やクッキーも食べたくなくなってしまった。


「でもそんな呪いなんて……。呪い返しみたいな事があるんですか?」

「ありますよ。結局悪霊も神様の許可がないと人に攻撃できませんからね。神様から許可が降りない場所、呪いはそのまま本人に帰ってきますねー」


 倫太郎の口調はクールだったが、それ故に篝火はプルプルと震えてしまう。今まで見えていた悪霊も自分が招いていたものかも知れないと思うと、怖い。


「だから聖書でが許す事の大切さを言っているんですよ。許す事は完全に本人の為です。復讐も人がいくら呪っても無理ですねー。聖書にかいてある通り、神様に任せてしまった方が良いです」

「知らんかった……」


 篝火は聖書を読み、許す事や復讐をしない事は納得できなかったが、悪霊の事を知ってしまうと筋が通っていると思った。聖書にもいつも喜んでいようと書いてるが、これも理屈が通る。負の感情は悪霊のエサになるんだろう。今は落ち着いているが、負の感情を持っていた事が多かった。ただ、それは自分の力でどうする事もできない。結局神様に頼って自分の気持ちを整えて貰うしか無いようだと悟った。


「でも、オレってイケメンじゃないですか」

「篝火さん、自分で言いますかー?」

「女性に誤解されて、その女性の念を食った悪霊から攻撃受けたらどうしよ」


 篝火はみっともなくプルプルと震えた。


「一つは、聖書に書いてある通り、許せない気持ちなどは持たないよう、日々悔い改めましょう」

「う、うん」

「あとは、血潮の祈りをしましょう」

「血潮の祈り? なんですか?」


 論太郎によるとイエス様が流した血潮は悪霊が一番怖がるものらしい。その血潮で守られている事をイメージしながら祈ると言いと言われた。


 それを聞いた篝火は、ホッとした。結局神様に頼るしかないようだ。


「それにしてもイケメンや美女は大変ですね」

「本当ですよー」


 篝火は涙目でクッキーを頬張る。一般的な考えではイケメンや美女は、恵まれていると言える。ただ、こんな変な悪霊の攻撃を受けやすいと思えば、得なのか疑問だった。むしろ一般的なブサイクやブスは神様からすれば祝福されていると思うほどだった。


「神様の視点は、この世の人たちと全く逆ですからね。神様からすると罪を犯す事の少ない知的障害者や身体障害者、容姿の悪い人などこの世で生きにくさを抱えている人の方が祝福してるかもしれませんね」

「そうだな。全く気づかなかった……」

「悪魔が支配していこの世で幸せになってもしょうがないですからねぇ」


 篝火はしみじみと呟き、紅茶を飲み干した。

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