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檻の中の少女編(3)

 1週間後、篝火の初出勤の日になった。


 この1週間はだいぶマシだった。悪霊も薄く見える程度になり、家にいるものも気にならなくなった。


 もっと早くみんなに相談すれば良かったと後悔したものだが、もう遅い。これも神様の計画かもしれないと思い、この運命を受け入れる事にした。


 ちなみにこの一週間は、不潔感を出す事に研究を重ねていた。太ってみようと思い、宅配ピザやファストフードを爆買いしてみた。ユニクロやGUでチェックシャツ、メガネ屋では分厚い丸眼鏡を購入してみたが、あまり効果は出ない。


 食べ物は元々興味がないので、あんまり食べたくないし、もさい格好をして歩いても家の近所にいるギャルに「サブカル男子っぽい!」と返って気に入られてしまった。ギャルに聞くと「清潔なブサイクより、不潔感のあるイケメンがいい」と言われてしまった。やっぱり元の良さは崩せないと思った篝火は、不潔感アップ大作戦は失敗に終わったと悟った。


 もし女子に好かれて、姦淫の悪霊を送られてきたらどうしよう?


 結局神様に頼るしかないという結論に至った。エクソシストをしているYouTuberの動画を見ていると、イエス様の血潮を宣言する祈りで、相手から送られてくる悪霊は防御できるらしい。


 という事でそんな祈りをし、聖書を読み、祈る生活を続け、なんとかマシになってきたところだった。パニック障害のような状態もすっきりとなくなった。結局、悪霊が送られてくるのは、こちらに隙があるからだと気づく。この隙さえちゃんとしていれは、いくら悪霊でも神様から許可が降りず、攻撃できないという事だった。


 それにいざとなれば普段エクソシストしている悠一、直恵、桜もいる。桜はだいぶ頼りないが、前に悪霊を祓って貰ったのは事実だ。


 そう思うといくらか安心できた。


 そんな気分で初出社の為、仕事場に向かった。


 まず人事部の人間と会い、契約を結んだ。アラフォーの人事部の女からは、薄ら薄らと悪霊のような者が見えたが、無視した。


「オレって実はクリスチャンなんですよー。日曜日は、礼拝行ったりしています」


 なぜか自分がクリスチャンだと明言すると、相手の悪霊も微妙に怖がっているのが見えた。突然こんな話をしている篝火に人事部の女はドン引きしていたが、とりあえず釘をさせてよかった。


 そんな雇用契約の手続きも終わり、いよいよ職場である研究室に案内された。


 本社ビルの最上階・8階にある研究室だった。白衣を着た研究員が何人か行き来しているのも見え、香料の研究をしている為か、ラベンダーかローズのような匂いが鼻をくすぐった。


 大学の研究室のような場所で、棚の中にはずらりと香料瓶が並んでいたり、思わず緊張する。


 一通り研究員を紹介されたが、緊張で自分の名前を言うので精一杯だった。顔も名前を覚えるののやっとの状態だった。


 最後に直属の上司を紹介された。


「どうも。調香師の風間充希です」


 白衣を着たアラサー女だった。メガネに黒髪というルックスで、どこなく直恵と似ている。ただ、猫背でどこなく自信なさげなところが見え隠れしていた。一言でいえば陰キャっぽい。他の研究員が茶髪で陽キャっぽいので、浮いてる。ただ、仕事はできそうだった。


「有里一太郎っす。よろしく!」

「なんかパソコンみたいな名前ね。エクセルはできる?」

「職業訓練で一年頑張ったので、エクセル、ワード、パワポイントなんでもできます。後元ミュージシャンだったので、英語の歌詞はさらっと書いてましたねー。外人の友達もいたし、ちょっとした案内ぐらいはできます!」


 篝火は精一杯感じよく自己アピールをしたが、充希の反応はぬるいものだった。


「そう。じゃあ、データ入力の仕事をまずやってもらいましょう」

「は、はい」


 冷たい感じに言われて篝火は、しゅんとしてしまった。今のところ充希からは悪霊のようなものは見えないので、何か攻撃されたような不安はなかったが。


 午前中は研究室の隣にある事務室で篝火は、充希につきっきりでデータ入力の仕事を教わった。他にも営業事務や調香師が事務仕事をしていて、意外と騒がしい事務室だった。


「充希先輩ってクールっすよね。どこに住んでるんですか?」

「プライベートよね。教えたくないわ」


 仕事の合間に充希に雑談をふっかけたが、反応はぬるかった。何を聞いても「プライベート」で壁を作られた。


「でもクールっすよね、充希さん。モテるでしょ?」


 別にモテるようには見えないが、一応褒めておいた。すると充希の顔が真っ赤になった。意外と免疫がないのかもしれない。


「仕事して。下っ端でも役に立ってよ」

「あい、あざーっす」

「本当、何この子。馬鹿っぽい……。っていうか言葉づかい直して」


 呆れられながも充希と和やかに仕事していった。午後は、他の男性の調香師から瓶を運んだり、電球を付け替えたり、地から仕事に励んだ。


 男性の調香師は、平川史也と言い、なかなかマッチョでエリート風の男性だった。


「白衣似合ってんな、新人!」

「オレ、ビジュアル系バンドやってたんですよ。ステージ衣装で白衣着て、お医者さんごっこみたいのをしてましたね」

「なにそれ、超ウケるわ」


 史也はいかにも陽キャという感じで、篝火は付き合いやすいと感じた。


 香料瓶を捨てたり、洗ったり大量勝負の仕事だったが、仕事の教え方もなかなか丁寧だった。マニュアルにない事もいちいち教えてくれた。マニュアル通りの事しか言わない充希とはだいぶ違うタイプに見えた。


 そういえばこの研究室に中で充希はだいぶ浮いている。他は容姿も派手な陽キャばっかりだったので、篝火は首を傾げる。


「充希さんってどんな人なんですかー?」

「ああ、風間さんね」


 史也の表情は、ちょっと嫌な感じだった。


「あの子ね、悪い人じゃないんだけど。仕事はできるよ。風間さんが開発した香水は、結構評判いいんだ」

「へぇ」

「でも風間さんの前で結婚の話はタブーな」

「なんでですか?」


 史也によるとこの研究室で独身なのは、充希と篝火だけらしい。充希は婚活に行ってるが、なかなか上手くいかないという事だった。史也はちょっと小馬鹿にしたような表情を見せた。


「まあ、仕事はできるが、風間さんはあんま可愛くないから」

「ちょ、そんな事言っていいんですか?」


 ここは研究室のそばにある備品倉庫で周りに人がいないのはちょっとホッとしたが。どうも史也が充希が嫌いというか、嫉妬めいた感情を持っているようだった。どこの職場もドロドロしているものだ。ミュージシャン界隈も足の引っ張り合いばかりだった。まあ、それと比べたら男のキャリアウーマンへの嫉妬は可愛いものだが。


 同時に史也から嫉妬の悪霊のようなものが見えてしまった。あまり見たくは無いものだった。


「実はオレ、クリスチャンなんです」

「ふーん。珍しいね」


 篝火がそう言うと、史也についている悪霊がザワザワと騒ぎ始めた。


 嫌な感じだが、とりあえず釘を刺した。この悪霊から攻撃を受けませんように。神様に祈る他なかった。

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