檻の中の少女編(2)
篝火は、ここ1か月に起きた事をみんなに話した。ほとんど面接しかしていなかったが、そこでちょっと女性面接官にハイになった事や悪霊は見えるようになった事も告白した。
「本当、家にも悪霊みたいのがいるんだよぉー。いくらイエス様の御名前ででてけって言っても居座ってるやつもいるしぃー」
そういう篝火は、小さな子犬のようで非常に情けなかったが、誰もが真剣に彼の話を聞いていた。
「わかったわ。姦淫の悪霊が入った経緯が」
「直恵、オレもわかったぞ」
「えー、どういう事?」
桜は全く感付いていなかったが、直恵と悠一はすぐに答えの行き着いたようだ。
二人によると面接で女性面接官に色仕掛けみたいな事をしたのが、悪霊が入った原因だと言う。特に執着心のある女性の場合、霊的に対象を縛り付ける事もできるのだという。単なる片思いでも、霊的にそれは可能なのだ。一言で言えば霊的に女性にレイプされているような状態だという。だから聖書でも思考だけでも性的な事を考えるのは罪とされている。
「だから、芸能人やキャバ嬢なんかも早死にするんだよ。相手から霊的にレイプされるから」
悠一の言葉を聞き、篝火は恐怖でプルプルと震えていた。確かにビジュアル系バンドをやっていたときは、今よりもっと怪我や病気をしやすかった。早死にする同業者も多かった理由が腑に落ちる。
「篝火くんが悪霊見えているのも、姦淫の悪霊の影響かもしれないわ。パニック傷害みたいな状況もあるのよね?」
直恵の言葉に篝火は、涙目でコクコクと頷く。
「ひぇー、もうどうすればいいんだ! 困った!」
頭をかきむしり、篝火は首を左右にふる。生霊というのは何だかわからなかったが、霊の世界だけでレイプが可能なら、そういうのもあり得ると思った。悠一の説明によれば、生霊というよりは、その女についている悪霊が、姦淫の意志を持って相手を縛っているという表現が正しいそうだが。
「かわいそう、篝火太郎くん」
なぜか桜も同情して涙目を見せてきた。
「でも、どうすればいいのさ。オレみたいにイケメンで爽やかだったら、防ぎようが無いじゃん!」
「諦めなさい。それが嫌なら10キロぐらい太って不潔感を出しなさい」
涙目の篝火に直恵は厳しかった。不潔感を出せ何て初めて言われたんですけど……。
「まあ、原因がわかったんなら、いいじゃないか。悪霊追い出ししようじゃないか」
悠一は明るく言い、結局悪霊追い出しをする事になってしまった。
礼拝室の席に座り、篝火は女性に色仕掛けみたいな事をした事を悔い改めた。
それから、悠一、直恵、桜の三人がかりで悪霊追い出しが始まった。
『嫌だ! この男は私のものよ!』
入っている悪霊はそこそこしつこかった。より悪霊がはっきり見える直恵は、化粧の濃いキャバ嬢のような格好の悪霊がついているのが見えると言い、篝火はさらに震え上がった。
『篝火は私のものよ!』
「うるさい! オレはイエス様のもんだ! イエス様の御名前で命令するぞ、出ていけ! 火の池にぶち込むぞ!」
篝火も最後に大声で叫ぶと姦淫の悪霊は、さーっと逃げていった。やっぱり本人が言葉で宣言して追い出すのが一番効果があるらしい。
「消えた?」
悪霊がいなくなり、肩の力を抜けた。篝火は涙目であたりをキョロキョロ伺う。
「消えたぞ」
「ええ、消えたわね」
悠一と直恵にそう言われ、は篝火は心底ホッとした。同時に神様に感謝の祈りをし、守られるよう言葉にした。
「よかったね、篝火太郎くん。もう色仕掛けみたいな事しちゃダメだよ」
桜にも母親のように叱られたが、篝火なにひとつ反論出来なかった。
「しかし、こんな生霊みたいな悪霊はタチが悪いわよねぇ。イケメンも大変だね」
直恵は呆れたように篝火の整った顔を見ていた。確かに自分はイケメンだから得する事は多かった。女子にはモテたし、ビジュアル系バンド時代は貢いでくれる女ばかりだった。
「オレが適度にブサイクでよかったわ〜」
悠一のその言葉はちょっと嫌味っぽかったが、納得するしかない。悠一は顔がちょっと怖く見えるので、女性にウケるタイプではないのが、ちょっと羨ましかった。
「不潔感ってどうやったら出せる?」
そうは言っても誰もその答えは知らないようだった。