パンがないからお菓子をお食べ
お腹がすいた。
朝食には食パンを2枚、ホットミルクにスクランブルエッグ。
私の朝のごちそう、これがあれば何にもいらない。
・・・のに、肝心のパンのストックが一枚もなかった。
どうしよう・・・。
洗面台の前に立ち、夕べ遅くまで部活でしごかれ、憔悴しきった自分の顔を見た。
高校2年生。
女子としてこの世に産まれ、女子校生というブランドに決してひけをとらないルックスは、これまで数多の男子を魅了し、そしてことごとくを奈落の底に落としてきた。
数多というのは言い過ぎた、厳密には3人だけだ。
口角をきゅっと上げてみる。
可憐にはにかむ疲れ切った10代のプリンセスがそこにいた。
学校が遠いので、親から仕送りをもらって格安アパートで暮らしはじめた2年目の秋。
いつしか、私の朝はパンとミルクと卵が定番となっていた。
顧問の白石が私のデッサンが気に入らないと熱の入った指導を遅くまで私に注いでいたのがいけなかったのだ。
おかげで、帰りにパンを買いそびれてしまった。
ちなみに部活は美術部だ。
部屋には黒鉛で描かれた描きかけの作品が乱雑に散りばめられたスケブがこれまた乱雑にばらまかれている。
お腹がすいた。
そういえば、お菓子が残っていたはずだ。
棚を開けると、ポン菓子が一袋、あとは恐らくしけっているであろう二月ほど前に購入した醤油せんべいが入っていた。
とりあえず、ポン菓子を食べるか。
ふと、1年の終わりに奈落の底に落とした同じクラスだった男子、伊藤のことが頭をよぎった。
ちょっと悪い言い方しちゃったかな・・・。
部活前に人気のないところに呼び出し、何となく内容は分かっていたけど、好みじゃなかったのでその場で丁重にお断りした。
マグナと付き合う気にはなれない。
甘いポン菓子は寂しい口元を誤魔化してはくれるけど、お腹を満たしてはくれない。
意を決して、しけったせんべいも食べることにした。
歯ごたえのないしわがれ濡れた感触が口の中をねっとりと浸食する。
濡れせんべいなんてものがあるけど、何がいいのか私には分からない。
食べながら2年のはじめに奈落に落とした男子、荻野のことをふと思い出した。
鏡を見てから出なおしてこいと言いたくなるほどの醜男だった。
気持ちは嬉しいけど、同じ部活の仲間としか見れないの・・・メシアは同じ美術部だった。彼が描く絵は独創的で不思議な魅力はあったけど、醜男だった。
ホットミルクで満たされてない空腹を誤魔化す。
3人目は誰だったっけ?思い出せないけど、多分奈落に落とした。
3人目の人が思い出せないのは、同じ時期に1年の時に振った伊藤が舞い戻ってきたからだ。
諦めきれない、僕と付き合ってくれ。懲りずにアタック。
以前より力を増した彼の気迫に圧倒されかけたが、私も女子校生として更なる高みにいたので、再び谷底に落としてやった。
その6日後にまた告白してきた時は正直面食らった。
それも、私のアパートまで尾行し、部屋番号を確認した上での突撃だったので、慌てて警察を呼んだのを覚えている。
女子の聖域に突入した罪は重い。彼は未成年ながら、網走の刑務所の独居房で臭い飯を食べていることだろう。
お菓子は空腹は満たしてくれないけど、心を満たしてくれると誰かが言った気がするけど、過去に振った男のことを思い出すだけで、特に満たされることはない。
私はミルクを飲み干し、カップを洗うとお腹のあたりをさすりながら寝間着から制服に着替えることにした。
ああ、お腹がすいた。
何か書きたくなったけど、ネタが浮かばないので、何でもいいから書いてしまえと考えずに書いた拙作です。
サクっと読めるしサクっと書きました。焼いたトーストだけにサクサク←