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03 きらびやかな男

 「出たい!外に出して!」


驚いた。昨夜あれだけ苦しそうにしていたマナは、診療所の一部屋で朝を迎えた。あんなに辛そうな顔をしていたのに、昨夜何事も無かったかの様に騒いでいる。


 ドドじいは部屋で騒いでいるマナを抱えて落ち着かせ様とするのだが、この日のマナは聞き分けが悪かった。


マナはドドじいに抱きかかえられても必死に抵抗する。

白い口髭を指で引っ張り、抱きかかえられて宙ぶらりんの踵で肉付が目立つドドじいのお腹を何度も蹴り上げる。


 「暴れるでないマナ!」


部屋の窓から見える景色。ドドじいの丸太の家より大きな家が沢山並んでいる。自分より小さな人族が元気に走り回る。上半身をあらわにした人族達が大きな毛むくじゃらの生物が引いている荷台に何かを並べている。きらびやかな服を着た人族が髪の長い人族に顔を叩かれている‥


 これが人族が暮らす場所なんだ!


マナは早く外に出て近くで人族の生活を見たくてしょうがない。


 「我慢できない!」


ドドじいはマナを連れてガゼルボの診療所を出る。マナは緑色の瞳を輝かせ手当り次第、街の人達に声を掛ける。


 「貴方!どうして叩かれていたの?」


きらびやかな服を身に着け、腰に剣をさげた男性はマナの質問に驚いていたが…


 「おう!見ていたのか?これはな…朝帰りの代償ってやつよ!」


そう言いながら男性は空を見て眩しそうに目を細めて、何かを思い出している。


 「お主、朝帰りの代償は高くついたのか?」


マナの手を引くドドじいが、空を見ている男性に話しかける。


 「いや…安いもんだ。俺は昨晩…蜜より甘い時間を過ごせたからな!……だから安いもんだ」


この人は何か嘘をついている。マナはドドじいと、この男性の会話の意味が全然分からない。でも、この空を見ている男性が何か強がっているのは感じる事が出来た。


 「きちんと謝るなら…早い方が良いぞ若いの!」


ドドじいの言葉に、男性は叩かれた頬を擦りながら自分達の居る場所から少し離れた所で、ベンチに腰掛けている髪の長い人の所に向かう。


 会話は聴こえない…


ベンチの前で何かを話している男性…

そして相手はベンチから腰を上げる…


 あ!


マナは驚いて自分の口元に手を当てた…


また叩かれた。3回も叩かれた!あの髪の長い人は強い人族なんだ!


 「下がるでない…若いの!」


ドドじいの言葉の意味が、やっぱり分からないマナ。でもあの強い人族を前に、きらびやかな男性は地面に額を擦りつけて何かを話している。


 「謝るのに、派手さは要らん!素直に謝れ若いの!」


 …………………………


 ……………………………ようやった若いの


髪の長い人は、離れたドドじいとマナに聴こえるほど大きな声で泣いていた。何度も何度も、きらびやかな男性の胸を叩いた。しかし、きらびやかな男性は痛がる素振りも見せずに…髪の長い人を抱きしめた。髪の長い人は抵抗していたが、きらびやかな男性が耳元で何かを呟くと全身の力が抜けた様に抵抗を止めて、きらびやかな男性の両腕の中で胸板に耳を当て、何かを確認するかの様に目を瞑り微笑んでいた。


 その後、二人はベンチに腰掛け、楽しそうに何かを話している。きらびやかな男性は時折、大きく口を開きアクビをする。それを長い髪の人が見ては何度も頬を摘んで痛がるきらびやかな男性を見て微笑む。


 「ありがとうございました。仲直り…出来ました!」


ドドじいの所へ駆け寄り頭を下げて感謝を述べる、きらびやかな男性…その後ろで髪の長い人が左右の指を自身の前で絡めながらドドじいに御礼をしている。


 マナはドドじいが何故感謝されているのかは分からないが、ドドじいの嬉しそうな表情を見ると何だか自分も嬉しい気分になれた。


 「若気の至りは時として本当の幸せが何であるか教えてくれる教訓となる。しかし、過ちを繰り返すと若気の至りは毒となり己を蝕む。お主の記憶に残るのは、偽りの愛か?それとも許してくれた隣りの者の涙か?見誤るでないぞ若いのよ!」


 去りゆく二人の後ろ姿を見ながら独り言を呟くドドじい。マナはドドじいの指を掴みながら二人の後ろ姿を見ている。


 「ドドじい!お腹空いた!」


確かに腹が減った。マナは、あの二人が何者だったか分からないし、ドドじいが何を言いたいのかも分からなかった。しかし自分が空腹な事は分かる。


そして…街の中には沢山の食べ物が有る事が分かった。


 「待てマナ!待てと言ったら待つのじゃ!」


 裸足で街中を駆け回るマナ。


 この街は素晴らしい!食べ物が沢山、道端に並んでいるなんて…


 屋台に並ぶ食べ物を手当り次第、口に入れて行くマナを必死に追いかけるドドじい。


 「このままじゃと街一番の食い逃げ犯になってしまうのじゃ…待て!止まらんかい!朝から食べ過ぎじゃ!」




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