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02 シチュー

 勇者様じゃないの?


少女は魔王の激しい揺れで気持ち悪くなり、ベッドの中で横になっていた。布団から顔を半分ほど露出し、あの憎らしい魔王の上に座する老人を見つめている。


 「儂は勇者じゃなくて木こりだよ。昔は冒険者として世界を旅したが、ほれ!もうご覧の通りの老体じゃ、引退して、残りの人生を気ままに過ごしておるんじゃよ」


 ハッハッハ!


少女は私を魔王から助けてくれたから、貴方は勇者様だと老人に告げると、また大きな声で笑われてしまう。


 「これは椅子じゃ!こうやって腰掛けてくつろげる為の道具なんじゃ」


老人は少女に椅子で寛いでいる自分の姿を見せた。全然違う…私が座った時とは凶暴性が違う。


 魔王は勇者に降参して椅子になった


少女は勇者様の強さに感激する。私も勇者様みたいに、強くなりたいと。


 それから数日…


 「マナ。女の子が毎日同じ服を着てはならん!」


 「ドドじい、お腹空いたよ!」


少女はマナと呼ばれている。そして少女は老人をドドじいと呼んでいた。


 「朝ご飯の前に着替えてこんかい。それは昨日と同じ服じゃ!」


マナは部屋に戻り服を選び直す。ドドじいはいつも同じ服なのに、私にばかりうるさいんだから!


 ……………人っていつも、こんなに美味しいものを食べているのね!


 ドドじいが教えてくれた。お腹から音がするのは、お腹が空いているからなんだと。そして空腹のままでは生きられないと。


 マナは思う。人間って不便な生き物だと。しかしマナもその不便な身体に不慣れにも適応してきた。


 身体を動かすと徐々にお腹が空いてくる。最近は何もしなくともお日様が上まで来るとお腹が空いてしまう。

そして月が見えると…またお腹が空いてしまう。


 この口に何か含めば、空腹はおさまるのよね?


でも私は気がついたの…味が大事なの!何でも良いわけでは無いのよ。味が大事。食べ物は味が大事なのよ!


 「ドドじい。夜はお肉入りのシチューにしてよ!」


朝ご飯の最中に、夜ご飯のおねだりをしてしまうマナ。

ドドじいは朝から夜ご飯の話をするなと注意するが、マナはドドじいの注意を両手で机を叩き跳ねのける。


 「あのお肉に絡む白いとろみが大好きなのよ!」


マナは知らなかった。食べなければ生きられない不便な人間が求める食の欲に、自分も知らず識らず取り憑かれている事を…


 この日は、ドドじいのお仕事を手伝った。丘の上にある家から少し歩いた場所でドドじいは木を切り、小屋の中に積み重ねていく。マナは運ぶ作業を手伝う。ドドじいに刃物を持つのは、まだ危険だと言われたからだ。


そして全ての木を切り終えると森に深々と御礼をした。


 「こうやって木を分けてくれるのは何時も世界樹様が見守ってくれているからなんじゃマナ。」


 だから…世界樹様への感謝は常に忘れてはならないそうだ。


 世界樹は私だよ!


 また笑われてしまった。マナは嘘をついてはいない。しかし、この真実を鵜呑みにする者は居ないかもしれない。


 しかし、ドドじいに信じて貰えなくともマナは嫌な気持ちにはならなかった。


 理由は簡単だ。ドドじいが世界樹を大切に思ってくれているからだ。


マナは最後の木を抱えて小屋に向かった。世界樹が褒められた。ドドじいが褒めてくれた。感謝してくれた!


 その日の夜はマナの要望通り、肉入りのシチューだった。


 女の子は上品に食べなさいと言われたが、マナはスプーンを投げ、フォークを肉にぶっ刺して口に頬張り込んだ。そして更に木の皿に口をつけてシチューを流し込んだ。呆れるドドじいに空の木の皿が3度突きつけられてしまう。4回目の突きつけで、食べ過ぎじゃと怒られたけど。マナは満足気な表情を見せた。


 「足をバタバタさせるのも止めるんじゃ!」


 ………………


 子供の体調は変わりやすいものだ…


シチューを食べすぎたから…ではないだろ。突然の発熱で、マヤはベッドの中でうなされていた…


 「大丈夫じゃ…大丈夫じゃ…」


ドドじいは、額を冷す布を何度も取り替えた。娘が寝込んだ時を思いだしながら手を握りマナを見守った。


 しかし夜中になってもマナは苦しそうだ。寝つく事もなく、なんども目を開けてドドじいを探した。


 医者に見せたほうが…


ドドじいは、マナを背負った。身体が冷えない様に冒険者時代に使っていた外套を羽織い丘を下った。


 丘を下った場所には街がある。エターナル大陸南西部に位置する冒険者達が取り仕切る街「エバーダ」


ドドじいも偶に買い出しなどで訪れるこの街、冒険者時代の馴染みの友も何人か滞在している。


 「ガゼルボ!居るか?…儂じゃ…ドドルだ!」


ドドルと言う言葉で暗かった家に明かりが灯り、ノックしていた扉が開いた…


 「おぉドドル!何年ぶりだ?しかもこんな夜更けに」

 

ドドルは事の顛末を、家の主人に説明した。随分親しく見える2人…


 ドドルが話していた男性は、「エバーダ」の街医者の

ガゼルボだ。


若い頃にドドルと他の仲間達と共に冒険者として旅をしたガゼルボ。ドドルの引退と共に故郷に戻り今は街医者として、この「エバーダ」で落ち着いている。


 「中へ入れろ!」


ガゼルボの案内で診察室へ向かうドドル。診察台で苦しそうな表情をするマナを診てガゼルボは驚く…


 「ドドル…この娘は、もしかして…」


ドドルはガゼルボが何を言いたいのかは分かっていた。自分も初めてマナを見た時にそのことには気がついていた。


 「エルフ族に似ているが…」


マナが世界樹から姿を変えた時に思い浮かべた容姿は、

偶に根もとに現れては、熱心にマナに祈りを捧げる種族…「エターナルエルフ」


現在、人族とエルフ族は互いに交流を築いている。数百年前は互いの領土を守る為に争いを繰り広げたそうだがある国の王子がエルフ族の領土へ攻め込んだ時に、エルフ族の姫に恋をしてしまった。


 2人は互いに愛し合い、国を捨て駆け落ちをした。

エルフ族の平均寿命は500歳程、対する人族は100年生き長らえれば良い方だ。


 2人の愛は永遠だった。自分より早く老いて行く王子をエルフの姫は必死に看病した。代々伝わる秘薬を王子に与えて愛した。


 でも…終わりは訪れた。


王子を亡くした姫は憔悴し……王子の後を追った…


両国は二人を嘆いた。二人の愛が争いを止めた。それからエルフ族は人族の居住圏に足を踏み込み様になって行く。


 森の秘薬を提供し人々は以前より身体が健康になり、人族の生産技術を目の当たりにしたエルフ族は自分達の生活習慣に人族の技術を取り入れる。


 このガゼルボの診療所にもエルフが偶に診察に来る。

まぁ人族のお酒を飲んだら頭が痛いとか人族が飼う家畜の肉が美味すぎて大量に食べたら、お尻から血が出たと

言った内容の診察だが…


 とりあえずエルフ達は偶に訪れる。


「エルフ族より…希少。ドドル、この子はおそらくエターナルエルフだ。世界樹…あの聖域の守り手だぞ…」


 マナはエターナルエルフではない。ただその姿を真似ただけ…だって一番、私の所に訪れてくれる人達だったから…


 

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