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01 勇者様と魔王

 「フフ…これが家出ってやつね!」


世界樹は森の中を歩いた。自分の全エネルギーを駆使しあの巨木から少女へと姿を変えた世界樹は、前に自身の根もとで見かけた肌が白く少し耳が尖った種族を真似てみた。


 ハァハァ…


世界樹は初めて歩いた。自分の根ではなく足を使い、森の足場の悪い地面をしっかりと踏み込みながら歩いた。


 凄く苦しい…


地上って風が吹かないのかしら?いつも風が私めがけてぶつかって来るのに、森の中ってジメジメして何だか息苦しい。


 西の大陸へ行きたい!


あの妖精さんが教えてくれた、勇者様が居た場所に行ってみたい。


 少女へと姿を変えた世界樹は森の中を彷徨う。

 

 少女は西へと進んでいるつもりでも森の中は似たような景色ばかりで少女を迷わせた。途中で小さな精霊さんを見つけた少女は、西の大陸への道を聞いてみたが精霊さんは少女を見て怯えて逃げてしまった。


 「もう!人って視界が狭いのね!」


今までは、雲を突き抜ける程の高さから外の景色を見ていた世界樹。しかし今は幼い少女だ。その低い目線から見える景色に困惑してしまう。


 1週間は森の中を彷徨っただろうか?


同じ景色の中を彷徨い。偶に見かける精霊さん達は逃げてしまう。そして何度か怖そうな生き物にも遭遇した。大きな口を開けて鋭い牙から何度も涎を垂らす毛むくじゃらの生き物。


 少女は、こんな息苦しい場所で暑苦しい毛皮を纏う、その生き物に、ハァハァするなら、その毛皮を脱ぎなさいよ!と何度も注意したのだが、毛むくじゃらの生き物は少女が近づくと手足を起用に使い逃げてしまった。


 もう…挨拶くらいしなさいよ!


 ぐぅ~…


 「何か身体の中から音がするわね…」


少女は自分のお腹を押さえながら、この聴き慣れない音に困惑してしまう。


 人の身体は分からない事だらけだ。


 『ガッ!…ガッ!』


なんだろう?近くから何かの音が聴こえてくる。断続的ではあるが少女が居る場所の先から確かに音がする。


 「誰か居るのかな?」


 少女は走る!


 きっとこの先には誰か居る!


 少女は森から抜け出す事が出来た。そして何時も浴びていた様な風が少女の全身を包み込む。


 「うわ〜…やっぱり風さんは気持ち良いわね!」


 どうやら、少女は森を抜けて何処かの丘の上に出た様だ…


 そして、少女は初めて人を間近で見た。


 「貴方…人間さんね!そうでしょう?」


突然、森から現れた少女を見て驚いた白い口髭を蓄えた老人は尻もちをついていた。


 切り株の上で少女は自身の腰に手を当てながら、尻もちをついている老人に何度も質問をした。


 「人間さんよね?そうでしょう!」


 老人は尻もちをついたままだが…自分の呼吸を整えて口髭を何度か手で伸ばし口を開いた。


 「お前さん…こんな所で裸で何をしとるんじゃ?」


少女は嬉しかった。森で見かけた精霊さんも毛むくじゃらの生き物も皆、私の事を無視して居なくなったのに、この人間さんは会話をしてくれた!


 「貴方…凄く良い人間さんね!」


 「馬鹿な事を言っとらんで、ちと来い!」


 この人間さんが勇者様なのではないのだろうか?


老人は少女に、自分が着ていた上着を渡した。そして、 老人のゴツゴツとした大きな手は痛くない程の力で少女の腕を掴み丘の上に建てられた木の家に案内してくれた。


 「娘の服じゃが…裸よりはマシじゃて!」


 …………!


 「何じゃお主!服も着れんのか?」


 …………!


 「駄目じゃ!下着を着けるんじゃ!暑い?バカモノ!裸で街を歩いて見ろ!暑いじゃ済まんぞ。男は野獣になる事が有るんじゃ!」


 人間さんの服って、凄く窮屈なのね!


 少女は戸惑った。きっとこの服は、人間さんの真似をしろって事なのね…


 「儂はドドルじゃ。お前さんの名前は?」


 名前?自分の名前は何?


妖精さんや根もとで頭を下げていた人達は私をエターナルマナと呼ぶけれど…それが私の名前かしら?


 「エターナル…マナ」


少女が発した言葉に、老人は口髭を何度か触り大きく口を開き大声で笑った。少女はその聞き慣れない大声に驚き、耳に手を当て暖炉の前で座り込む。


 「すまんな。儂は声がデカくてな…しかし、お前さんが世界樹様の名前を言うからいけないのじゃ!」


 どうしていけないの?


貴方達が私をエターナルマナと呼ぶから言っただけなのに…


 「そう言えば…お主は裸で服も着とらんかったな…」


老人は暖炉の前で座り込む少女を抱えあげて、丸窓の前に置かれていた木製のロッキングチェアに座らせた。


 少女は勝手に揺れる得体の知れない物に戸惑いながらも大きな緑色の瞳で、目の前で難しい顔をする老人を、見つめている。


 「もしかして…記憶喪失ってやつじゃろうか?」


ひとり考え込む老人。少女は老人が考えている間にロッキングチェアの揺れを自分でコントロールする術を身に着けた。


老人はブツブツと独り言を良い、首を傾げ更に深く考えている様だ。少女は老人の考える姿を見ていたら、あることに気がついた。


 「この揺れ…とまらないよ!」


深く考えている老人の前で少女は焦る。どうにかしようと藻掻くと揺れは更に大きくなる…


 どうしよう…妖精さんの羽ばたきより速くなってる…


 老人は答えが出なかったが、自分の娘程のこの少女をほっとける事は出来なかった。


 「お主の名前はマナじゃ!記憶が戻るまで家で………」


 あれ?少女はひとりだよな?


 老人の目の前で高速で揺れるロッキングチェア。そして、そのスピードは老人に少女が複数人に見えてしまう程の残像効果をもたらした。


 「こら!何をしておるマナ!」


 また…助けてくれた。この人は絶対勇者様よ!


 そして…この揺れる奴が魔王ね!


 「大嫌い!魔王なんて大嫌いなんだから!」


少女は老人に抱えられ、まだ微かに揺れているロッキングチェアを見下ろす。


 「勇者様…この揺れる魔王を封印しましょう!」


 老人は覚悟する。この少女の記憶喪失は重度だと…


 


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