16 密会
「そうですか…フロッグ達を見失ったんですか…」
ギルドのカウンター前で椅子に座らされたマナとレナ・バース。目の前のテーブルには『マナ様専用窓口』と書かれた札が立っていた。
そして『マナ様専用受付嬢兼アドバイザー』と書かれた名札を付けたマリィ受付嬢がマナ達の前にテーブルを挟んで座っている。
マナは悔しさをマリィにぶつけた。テーブルを叩き、足をバタつかせる。
その姿を見たマリィは、ゆっくり何度も頷きながらマナの話しを聞いた。
「ち、ちょっと良いかなマリィ氏。」
レナ・バースは戻って来たら設置されていた、この専用窓口について尋ねるとマリィはマナ様には当然の処置ですと澄ました顔で答えた。
Fランクに専用窓口なんて聞いた事がない…
え?ギルド長の許可を得ている?あのギルド長の?
デコルギルド長も了承済みなのか?彼はマナを特別扱いしない様に案をだした人物だぞ?
レナ・バースは知らなかった。マリィは昨日、デコルギルド長に世界樹の葉を見せた。しかし、希少なものだが世界樹とエリクサーに世界樹の枝を目の当たりにしていた為に、それ程驚きはしなかった。
「へ〜世界樹の葉の伝説しらないんだ!」
ギルド長室の椅子に座るデコルギルド長を見下ろすマリィの態度と言葉遣いに苛々するデコルギルド長。
「さっさと保管室に預けて帰れ!残業代を支払う余裕は今のギルドには無いんだぞ!」
そう言いながらデコルギルド長は椅子をまわしマリィを視界から外した。
夕日が堕ちて行く空を見つめるデコル。その背後から甘い臭いを漂わせながら胸元のボタンを開けてデコルの首筋に腕をまわすマリィ。
彼女は微笑んでデコルの耳を甘噛みして囁く。
デコルは彼女の囁きに堕ちる夕日を見ながら確認をした。
「マリィ…その話しは本当か?」
「あらヤダ!ギルド長が自ら確認しなさいよ!貴方は街のトップなのよ!」
二人は見つめ合う。そして背後で夕日が堕ちる中で、デコルはマリィを見上げて呟いた。
「誰にも言うなよマリィ…」
その言葉にマリィは微笑んでギルド長の頬に口づけをした。
世界樹の葉はすり潰してペースト状にすると毛生え薬の秘薬になる。
ギルド1の秀才のマリィが言うのだから間違いないだろう。
だが世界樹の葉はギルドのもので個人で所有してはいけない。しかし幸いな事に葉は2枚ある。1枚は俺が、そしてもう1枚はマリィが持てばよい。
彼女の行為は横領だ。いけない事だ。今まで何度か横領事件はあった。横領したものは厳罰に罪を償わせ街から消えた。
今回…俺は横領を見逃す。彼女は優秀だからな。今のギルドには絶対必要だ。
俺が彼女に付き合うだけで、ことが済む話しだ。
だから俺は癒着する。
立場が違えど同じ人間だ。欲は捨てられん!
その日の夜、デコルはギルドで自分しか知らない秘蔵品をマリィに渡した。「貴婦人の涙」と呼ばれるピンクダイヤモンドのネックレスを…
これが裏切らない証拠だ。
マリィは机に座って貴婦人の涙を見つめる。そして椅子に座るデコルは膝上のスカートが足の開きで捲れていくマリィの下半身を見つめていた。
「ギルド長?ネックレスつけてくれないかしら?」
デコルは立ち上がる。しかしマリィは机を背に倒れてしまう。そして開いた脚をデコルの腰にまわして力強く挟んでデコルを自分に寄せる。そして腕を絡めて自身の胸元へデコルの顔を誘った。
「今日の夜は熱くなるわよギルド長…」
その言葉にデコルはマリィの腕を解き、机に広げ手首を強く握りしめた。
「これでもBランク冒険者の上位だったんだ。悪いがマリィ氏よ。今夜はいつもの仕事より甘くはないぞ!」
机が揺れた。ランプの火が消えた。軋む音はどこか外の虫の鳴き声にも似ていた。
二人の汗は互いの身体に落ちた。
「ねぇギルド長…物以外でも私を守ってよ…」
そして翌日の朝の冒険者ラッシュが終わった後にマリィの役職が変わった。他の職員はなぜFランクの少女の専用なのかわからなかったがマリィは笑顔だった。
これで、あの子から好きなだけ…
想像しただけで笑ってしまう。いけない事だ。私は優秀な受付嬢なんだから、本当の顔は見せないのが私の信念なんだ。
デコルは朝日が昇るのをギルド長室から見ていた。
お前は毎日よく頑張るな…俺は堕ちたぞ昨日のお前の様に堕ちたんだ…そして朝日は昇らないんだ。お前は俺に光と闇をいつも見せてくれる。
でも俺にはもう…闇しか見えないんだ。