12 私が導く
「保護する!」
何か吹っ切れた様に、急に仕事モードに切り替わったデコルは、丘に現れた世界樹を見上げている。
おそらく本当だろう。
世界樹に世界樹の枝。そしてエリクサー。
マナを記憶喪失だと決めつけたが、もしかしたら本人が言う通り、本当にエターナルマナかもしれない。
分からない事だらけだが放置する事はできない。
暗闇の中で青白く幻想的に輝く世界樹を見てデコルは今後の事を考える。
第一に優先するのはマナだ。もし彼女が本物の世界樹なら世界中から彼女目的で人が群がるだろう。
全員が善人とは限らない。
だからこそ…マナには普通でいてもらう。新人冒険者として過ごしてもらおう。変に特別扱いしたら悪党達の目につきやすいかもしれないから。
さいわい、レナ・バースに懐いている。パーティーを組んで冒険者らしい行動をとってもらう。
ドドル先輩でも良いのだが、あの強面だ。誘拐犯とかに間違われてしまう可能性がある。
それにドドル先輩には、この世界樹の見張りを頼むつもりだ。断らせはしない。大丈夫だ。彼はギルド再建の為に稼がなければならないからな。
デコルは丘の上で3人に考えを説明する。
マナは冒険できると喜んだ。レナ・バースもマナとパーティーを組める事を喜んだ。
しかし、ドドルは愚痴る。マナと離れるからではなく見張りの給料が安い事を愚痴る。
「デコル!儂に新人を預けろ!」
「なぜですか?先輩。」
ドドルにはわかる。マナを上手く匿った所で、どちらにしてもこの丘の世界樹は目立つ。もしかしたら争いが起こるかもしれない。
この街のベテラン冒険者は上手く立ち回るだろう。しかし、新人は潰される可能性が高い。
だから、見張りついでにドドルが鍛える。
「教育料は儂が決める!」
「まあ、冒険者の底上げは良い事ですが…」
デコルは思った。先輩はただお金を集めたいだけなのでは?……と
明日から行動に移す!
3人はマナを見つめながら、決意する。
翌朝…
「ドドじい?」
目を覚ましたマナはドドじいを探す。家にいない。何処に行ったの?
玄関を出て世界樹の周りを探すマナ。
「ドドじい!」
姿が見えない。マナは丘の上を小走りで走る。レナ・バースがくれた赤いリボンが風と振動で小刻みに揺れている。
「いた!」
丘の上の端にある小さな花畑。その中にドドじいは立っていた。
「おきたか?マナ」
「カーラ…アイラ…この子がマナだ。」
マナは不思議そうにドドじいを見る。ドドじいは誰と会話をしているのだろうか?
「まだ小さいじゃろ?だから儂はマナの面倒を見ないといけないのじゃ…」
どうやら、白い花畑の真ん中に置かれた2つの石に、ドドじいは話しかけているみたいだ。
「この石は話せる石なの?」
その言葉にドドルは笑った。話せない。話してはくれない。
「儂が一方的に話しかけているだけじゃ」
どうして話せない石に話しかけているのか、マイはわからない。
「儂が愛した人が、この石の下で眠っているのだ」
ドドじいが愛した人?
マナが石を見つめていると、ドドルは昔の話しだと語りだした。
冒険者としてAランクまで登りつめたドドルは、幼馴染みの女性と結婚した。何度も何度もふられたとドドルは笑った。
どうしても一緒になりたかったドドルは、冒険者を辞めた。彼女が一緒になる為に出した条件が冒険者を辞めてほしいだったから…
みんなが反対した。Aランク冒険者になったのに辞めてしまうなど、どうかしている。…と
彼女は冒険者が嫌いなわけではない。好きな人が突然いなくなるのが怖いのだ。
しかし、突然いなくなったのは妻のカーラと娘のアイラの方だった。
ドドルは石を見つめ、話しをやめた。
マナは人が死ぬと石になるのかとドドルに聞いた。
ドドルは石は生きている者が忘れない為に必要なものだと答えただけだった。
2人には申し訳ないが、若返ったから、まだそちらにはいけない。やることがある。と言いに来たとドドルはマナに教えてくれた。
マナは、ドドじいもいつか石になるの?と聞いた。
「生まれたからには死を迎えるのが人の運命…」
ドドルの言葉はマナを不安にさせる。いつかいなくなるんだと…
ドドルは、私が導くから…
私は貴方を死なせない!
ドドルは、これからの人生で世界樹の悲しさを知ることになるとは今はまだ知らなかった…