11 ギルド長の悩み
「すまない…マナ氏よ!」
マナが目を覚ますと隣りのベンチの上で顔面がボコボコに腫れ上がったデコルが横になっていた。
デコルは嫌い!
しかしマナは、部屋で見せた金色の液体が入った小瓶を再び取り出し、出血が激しい口に小瓶を突き刺した。
「デコル嫌い!だから自分で飲んで!」
ドドじいには口うつししたけど、デコルには触りたくないという感情が芽生えてしまうマナ。
どうやら本当にデコルが嫌いな様だ。
金色の液体を飲み干したデコルは驚く。こうも簡単に痛みが引くものなのかと。液体を飲み込んだデコルを見ていた2人も目を見開き驚いている。
傷が一瞬で消えた…
冒険者が使う回復薬とはレベルが違う。この回復量は正しく世界樹の秘薬…エリクサーだ。
「エリクサーって本当にあったんですね?」
「あったな…こいつは凄いもんじゃ!」
エリクサー?
もしかして、この薬の名前?私は名前なんかつけていない。
そう言えば昔…大きな黒い翼の生き物が私の所に来て沢山、口から炎を吐き出して邪魔したから枝を震わせて叩き落とした時に根もとで泣いて謝るから、この薬をあげた事があったけど…
あの子が薬の名前をつけたのかな?
え〜と黒炎なんとか邪神…龍って名前だった筈だけど泣き声がうるさいせいで名前…忘れちゃった。
元気かな?あの泣き虫さん。
この日は遅くなった。ドドじいはデコルギルド長と仮冒険者ギルドの広間で難しい話しをしている。マナは退屈でレナ・バースの家に泊まる事になった。どうやら、ドドじいがレナ・バースに頼んだ様だ。
翌朝…
ドドルとデコルギルド長は、広間で口を開けて椅子に座り背もたれに寄りかかる様に寝ていた。朝からギルドは忙しい。冒険者達は良い依頼受ける為に我先にとカウンターへと押し寄せる。職員はその対応に追われている。
「ギルド長…邪魔です」
2人は職員達から邪魔者扱いされて広間の端に追いやられ、寝ぼけ眼で冒険者達と職員のやり取りを見ていた。
「おはよう!」
レナ・バースは2人を見つけ挨拶をする。ドドじいは、マナを泊めてくれた御礼をする。デコルギルド長はギルド長室に戻り壊れた壁の修理依頼を職員達に頼んでいたが何故か手には愛用の手鏡が握られていた。
「良いのか?レナ・バース」
マナは朝から笑顔だった。お腹が空いたと騒ぐ事も今日はしていない。緑色の髪につけられている赤いリボン。
マナはレナ・バースがくれたんだと嬉しそうにドドルに見せている。
「かまわない。私はもう使わないから」
…………………………?
先程から、デコルギルド長は頻りに手鏡を覗き込んでいる。
「デコル…なにをしておる?」
デコルは、自分もドドルのようにエリクサーで若返ったのではないかと手鏡で顔を確認している。
額と生え際。この2箇所だけで構わない。頼む!
コンプレックスは誰にでもある。ギルド長まで登りつめた男…デコル。冒険者として成功した側の人間。志半ばで倒れた仲間もいる。しかしデコルは生き残った。
運はある方だ…頼むエリクサー!俺にもう一度…
ふさふさを与えてくれないか?
…………………
ギルド長室の壊れた壁際から外を眺めるデコル。いつも同じ姿を見せる太陽…
「太陽よ…お前はいつも変わらない姿だな?」
太陽はなにも言わない。
「お前はいつも眩しいな?だが俺も負けてないぞ!」
………何も変わっていなかった。いつものベタつきとヤル気のない髪だった…
「そんな事を気にしていたのか?儂は若い頃からお前を見てきたが…なんじゃ…あれじゃ!お前は最初から、そんな感じの額と髪じゃったぞ!」
ドドルはデコルに事実を告げた。
そうだったのか…知らなかった!俺は若い頃から、こんな感じの額と髪質だったのか?
あの頃は、冒険者として強くなりたくて、がむしゃら
だったな。容姿なんて気にしている暇もなかったよ。
余裕ができたから、俺は自分の容姿を気にしだしたのかな?
デコルは自分の生え際を両手でもむ。あんなフルフェイスの兜なんか愛用するんじゃなかった。
酒を飲んで騒ぐ暇があったなら、しっかり根もとまで乾かせば良かった…
もうあの頃には…どうやっても戻れないんだ!
「カツラ買えばいいじゃない!くだらない悩みをするくらいなら世界樹の事を考えたら?」
レナ・バース…
「お前には、薄毛の悩みなんか…わからねぇだろうな!」