10 全盛期のAランク冒険者
「これは誰じゃ?」
二人と全く会話が噛み合わないドドル。デコルはドドルだと何度も騒ぐ男に引き出しから、生え際確認用の手鏡を渡した。
手鏡を見るドドルは混乱する。これは儂か?シワもなければ自慢の白髭もない。そして今日は身体の動きが軽い。
誰じゃ?この若者は…
……………!
そうだ!昨日再発行してもらった冒険者プレートを見れば分かる筈だ。
ドドルは首にかけられたネックレスを外す。
「ドドル Aランク冒険者」そう刻まれた真っ黒なプレート…間違いない、この若者は儂じゃ!
若返った…何故?
若返りの魔法など聞いた事がない。帝国お抱えの賢者が不死の魔法を開発したと昔聞いた事があったが…
確か…あれは、心がないゾンビになったとかそんな話しだった記憶がある。
「私の薬でドドじいは、元気になったんだよ!」
混乱する3人の動きが止まる。窓辺に腰掛けて退屈そうに足をバタバタさせていたマナは手のひらを輝かせ小さな瓶を取り出した。
机に置かれた金色の液体が入った小瓶…
3人は机すれすれまで顔を近づけ片目を閉じて眼力全開で小瓶を覗き込んだ。
「ね、ねぇ…ギルド長?もしかして…これ…」
「言うな!言ってはならんぞレナ・バース!!」
小瓶の前で大きな声を出すデコル。
「儂は見た事が無いぞ…じゃが何故か思ってしまう…これはもしかして伝説の…」
「だから言うなよ!このドドルもどき!!」
また、小瓶の前で大きな声を出すデコル。
冗談じゃない。世界樹の枝に、もしこの小瓶の中身がアレなら大陸中の奴らが、この街に押し寄せる。そんな事になったらこの街は…
「触るな!何やってんだドドルもどき!!」
……………「誰がもどきじゃ!」
本当だ。妖精さんが言っていた通りだ。人族はくだらない事で直ぐに争いを始める。そんなに私の薬が珍しいのかしら?欲しいなら言ってくれれば幾らでも出すのにな。
作る時間は沢山あったんだから!
『パリンッ!』
2人の組み合いは徐々に熱量がましていく。狭い部屋の限られたスペースで互いに有効打が無い争い。デコルはギルド長になる前はBランク冒険者の上位だった。先輩のドドルに憧れてAランクを目指したが残念ながら夢は潰えた。しかし纏め役としての能力は冒険者の中で群を抜いて才能があった。マナはデコルを嫌うが、ギルド長としての彼は街中からの信頼を得ている。
「ちっ!何だよこの力…本当にドドル先輩と同じじゃないか!」
何発もらった?高速過ぎて見えないが、この痛みには覚えがある!
新人の頃…何発も受けたからな!
ドドルもどきと呼んだ若者から繰り出される高速の拳。
痛みより若き日の訓練を思い出すデコル。
「儂は本物のドドルじゃ!バカタレ!!」
机ごとデコルを床に叩きつける爆腕のドドル。いささかやり過ぎた感があるが、男には引けない時があると都合良く自分で自分に言い聞かせる。
「ちょっと、お二人さん瓶割れてますよ?」
冷静に争いを見守ったレナ・バース。彼女はドドルさんが本当に若返ったんだと確信した。理由は私でも勝てそうにないから…
「何をしておる!デコル!」
「先輩が投げつけるからだろ!」
デコルは認めた。この若者はドドル先輩だ。間違いない俺が憧れて目指したあのドドル先輩だ。
でも、俺のせいにするのは納得が行かない。
「何がギルド長権限じゃ!男なら拳で語れデコル!」
「権力も立派な男の武器だ!」
壮絶な打ち合いは遂に部屋の外へと広がった。
「また壁壊しやがって…」
「お前が簡単に吹き飛ぶから壊れたんじゃ!」
壮絶な打ち合いが終わったのは日が沈む頃だった。
マナは広場で争う2人を見ていたが飽きてしまい。ベンチでレナ・バースに膝枕をしてもらい外の風を感じながら眠っていた。
レナ・バースは気持ち良さそうに眠るマナの頭を撫でながら2人の争いを見守った。
「ハァハァ…う〜…参りました!俺の負けです!」
「ふん!粘りおってデコルのくせに!」
2人の争いの勝者はドドルだった。やはりAランクは、伊達じゃなかった。
「そ、それで…何か話しがあったんですよね?先輩」
忘れていた。熱くなって忘れていたぞ!
「聞いてくれ!家に…家がある丘に世界樹が出来たんじゃが…どうしたら良いのじゃ?」
「はあ?」
何だよ今日は!世界樹の事だらけじゃないか?世界樹の枝に、あの瓶はおそらくエリクサーだ。そして、世界樹が出来た?出来るものなのか世界樹は?
そう言えば今朝、ギルド諜報員達が世界樹が聖域から消えたとか言っていたな…
話しがデカすぎて頭が痛くなるぜ!
広場で大の字で寝そべるデコルは、また生え際が後退すると内心思っていた。
「エリクサーって生え際に効くのかな?」