偽物の恋愛、成仏させます。
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「お~い、酔っ払い」
私は、そんな大きな声が聞こえて目を覚ました。
頭が痛い。
目をゆっくりと開けると、目の前に彼がいた。
何で?
彼女と飲み会が始まって、その後を覚えていない。
私、何かしたかな?
「ほらっ、帰るぞ」
「えっ」
「彼女は仕事に行ったみたいだ。みかんを迎えに来いって電話があって、来たんだよ」
「迎えなんていらないです。一人で帰れます」
私は、二日酔いで痛む頭を押さえながら言った。
「頭が痛いんだろう? 家まで送ってやるよ」
「大丈夫です」
「たった一本の缶チューハイで酔っ払うって、どんだけ弱いんだよ。よくそれで、お酒も飲める歳だって言ったよな?」
「お酒は二十歳からなんで飲めるんです」
「分かったから、帰るぞ」
「だから大丈夫です」
「何、言ってんだよ。ほらっ」
彼が私に触れようとしたから、私は彼の手を払った。
その手で彼女に触れたりしたのよね?
「何? 俺、何かしたかな?」
「いいえ。ただ、あなたが分からないんです。だから怖くて、、、」
「あっそ。それならタクシーを呼ぶから、それに乗って帰りなよ」
「えっ」
「俺はみかんには触れないから。それだったら怖くはないだろう?」
傷付けたかな?
彼を見ても表情じゃ読み取れない。
彼が何を思っているのか分からない。
「教えてはくれないんですか?」
「何を?」
「あなたのことをです」
「俺のことを知ったら怖くない訳?」
「それは、、、」
「ごめん」
「えっ」
「みかんが思っていることは分かっているんだ。彼女とのことだろう?」
「そっ、そうです」
「彼女とは何もないよ。俺は成仏させる恋愛に、触れることはないからさ」
彼は曖昧な答え方をした。
彼女には触れていないとは言っていない。
私に、どう受け取ってほしいの?
恋愛を成仏させる為には、彼女に触れるのは仕方がないと、そう理解してほしいの?
「分かりました。でも今日はタクシーで帰ります」
「そう」
彼は心配そうに私を見ている。
でも彼は、仕事をしているの。
私の恋愛を成仏させる為に。
そんな嘘で私の恋愛は成仏しないわ。
「ところで、どうして彼女に、最低彼氏のことを言わなかったんですか?」
私はタクシーを待つ間、彼に気になることを訊いた。
「あの彼氏がどう思っていたのかは分からない。それなのに俺の憶測で、彼女の為に悪い男を演じたなんて話をして、彼女の恋愛が成仏しなかったら、お金が貰えないだろう?」
「お金目当てじゃないのは知っていますよ?」
「はあ?」
「お坊ちゃんなんですよね?」
「その言い方はやめろよな」
彼は本当に嫌そうに言った。
「本当はどうしてなんですか?」
「そこは、二人の問題だからだよ」
「二人ですか?」
「そう。彼氏が彼女と一緒にいたいなら、連絡をするだろうし、二人がまた恋人になっても、彼氏が浮気をしないとも限らないからね。でも、彼女の悲しむリスクがあるモノは、排除したってところもあるよ」
彼は、ちゃんと考えている。
彼女の未来を。
彼女の幸せを。
◇
それから彼からの連絡は、一ヶ月経っても無かった。
そして私は、別れた元カレのことを、まだ忘れられないでいた。
大学では、ほとんど見かけることは無いから良かった。
元カレの顔を見ると泣くかもしれない。
あの日、初めて元カレと会った時に、私は恋に落ちた。
元カレしか見えなくて、元カレとの時間を大切にした。
私にとって、元カレが世界の中心だった。
あ~あ、彼に、、、
「会いたいなぁ」
私の思っていることを、誰かが私の耳元で言った。
私は驚きながら声のする方を向いた。
「どうして?」
「ごめん、忙しかったんだよ」
「そっ、そうなんですね、、じゃなくて、どうして私の大学にいるんですか?」
「どうしてかな? みかんを好きになったからかな?」
「今は冗談なんていらないです」
「なんだよ。つまらない女だな?」
一ヶ月振りのベビーフェイスの彼は、口を尖らせながら言った。
また幼く感じた。
彼は何歳なんだろう?
「それで、どうして私のいる大学を、知っているんですか?」
「これだよ」
彼はスーツの内側の胸ポケットから、私の学生証を出した。
「えっ、盗んだんですか?」
「違うよ。みかんが落としていったんだよ」
「あっ、そうだったんですね。すみません」
「簡単に信じるなよな」
「えっ、それじゃあ、盗んだんですか?」
「違うよ。これは本当に落としてたんだよ。でも、人の言葉を簡単に信じるなよな」
「大丈夫です。私は信じていいと思った人だけ、信じるので」
「そっか」
彼は私の頭を撫でようとしてやめた。
でも笑っていた。
また幼い表情で。
そんな表情をされると、好きなように触っていいよって言ってしまいそうになる。
そのベビーフェイスは卑怯よ。
「ところで、どうしてここへ来たんですか?」
「みかんに手伝ってもらう為だよ」
彼はニッコリと笑った。
天使の笑顔じゃなくて、悪魔の笑顔に見えた。
怖い。
私に何を手伝わせるの?
「さぁ、行こうか?」
「えっ、でも、私が手伝えることなんですか?」
「うん。簡単だよ」
そう言って彼は私の前に掌を差し出した。
私は彼の掌に手を乗せた。
この行動は、彼が私の意思を確認する為だと思う。
そして、大学の前に大きな黒い車が停まっていた。
お金持ちの人が乗るような車に、彼は私を乗せた。
彼は、後は宜しくと言って車のドアを閉めた。
そのまま私は、隣に座っていたメイド服の女性に、簡単だけど説明を受けた。
今から私は、パーティーに出席する為に準備をするみたい。
車は、大手ファッションブランドショップの前で止まり、私はメイドさんと一緒にショップの中へ入る。
キラキラしていて眩しい。
ドレスもアクセサリーもバッグも靴も全てが高そうで、私は足が動かなくなる。
無理。
私には、こんな高価な物を身に付けるのは無理よ。
ビビっている私に、メイドさんが背中を撫でてくれた。
そしてメイドさんは、私に言った。
「ここで一番、価値があるモノって何か分かりますか?」
「それは、、、あのショーケースにある大きな宝石が付いたアクセサリーですか?」
「いいえ。みかん様です」
「私? えっと、様なんてつけられても困るんですけど、、」
「あなたはみかん様です。あのお方がパーティーを出席するなんて初めてなのですから」
「意味が分からないんですが?」
「みかん様が、あのお方のお心を動かしたのです。ですのでみかん様には、誰も何も敵わないのです」
あのお方って誰なんだろう?
どう考えても、車に私を乗せた彼のことだよね?
でも私が彼に何かしたのかな?
「みかん様には、ドレスなど準備しておりますので、お着替えをお願い致します」
「もう決まっているんですか?」
「はい。あのお方が楽しそうに、お選びになられておりました」
「彼の好みってことですね?」
「いいえ。みかん様にピッタリの物です」
私はワクワクしながら奥の部屋へ向かう。
どんなドレスなんだろう?
ドアを開けると、ドレスを着たマネキンがいた。
「とても綺麗なオレンジ色」
私はドレスを見て、すぐに気に入った。
そして、思ったことが口から出てしまうほど、目を奪われた。
オレンジ色のドレスはキラキラと光り輝いている。
近付いて見てみると、宝石がちりばめられていて、まるで星の様。
でも星は、夜空じゃなければ綺麗に見えないはずよ。
オレンジ色の夕焼けに、キラキラ光る物と言えば、、、海よ。
海に夕陽が沈む時、オレンジ色の海面が波で動いてキラキラ光る。
それを表しているのね。
とても綺麗だけれど、この宝石はダイヤなんて言われたら、絶対に着れないわ。
「こちらについている物はガラスです」
私がメイドさんに、着れないよと言おうとして見ると、メイドさんは、私の気になっていることの答えを教えてくれた。
「ガラスですか?」
「はい。みかん様はシーグラスという物を知っていますか?」
「知ってます。海を旅して丸くなった、ビンなどのガラスの欠片ですよね?」
「はい、そうです。そのシーグラスを綺麗に磨いて作ったのです」
「そうなんですね。磨いてしまえば、シーグラスではなく、宝石に見えますね?」
「みかん様に知っていただければ、それで良いそうですよ」
「私がこのドレスを着やすくする為でしょうね? とっても素敵な海を表現しているドレスを」
「みかん様はお分かりなんですね」
メイドさんは驚いた後、納得したようにうなずいている。
「みかん様、お着替えをお願い致します。今夜のパーティーに遅れては大変ですので」
「今夜?」
「はい。大丈夫ですよ。みかん様は、あのお方の隣にいていただければいいのです」
「でもドレスを着るということは、作法とか必要ですよね?」
「あのお方の隣にいていただければ、大丈夫です」
メイドさんは大丈夫しか言わないけど、本当に大丈夫なの?
私は不安になりながらも、ドレスに着替えた。
星型のピアスは控え目でシンプル。
白色のハイヒールはつま先部分にだけ、キラキラとラメがついている。
そしてネックレスは、大きな黒い石の存在感がすごい。
黒いからなのか、大きいからなのか、何故か引き付けられる。
私はメイクや髪のセットなど、プロの方にやってもらい、綺麗にしてもらった。
鏡を見て、自分で自分に驚いた。
プロの技術は凄いことが証明された瞬間だった。
「みかん様、とてもお綺麗です。それでは、あのお方の所へ向かいましょう」
メイドさんに手を引かれ、膝が見えるくらいの長さのドレスをキラキラと輝かせながら向かう。
彼の元へ。
「みかん様、一つお守りしていただきたいことがあります」
車に乗るとメイドさんは私の手を握り、私を見つめて言った。
「どうか、どんなことを言われても、下を向かず前だけを見ていて下さい」
「それって、私を怖がらせるだけですよ? 私は今から戦場へ向かうんですか?」
私は苦笑いしかできないほど、怖くて緊張をしている。
「いいえ。みかん様は誰もが目を離せないほどの、存在になることは間違いありません」
「そんなに、このドレスやアクセサリーは高価なんですか?」
「いいえ、、」
メイドさんが話そうとしていると車は止まり、車のドアが開いた。
そのドアを開けたのは、彼だった。
でも、さっきまでの彼じゃない。
ベビーフェイスなのに、幼さなんて無い。
感情さえも失くしたような無表情。
私はこんな彼を知らない。
「どちら様ですか?」
私は出されていた手を払い言った。
だって、ムカついたの。
私をパーティーなんかに出席させる彼が、私の不安な気持ちを分かっていないことに。
そんな無表情で迎えてほしくはなかった。
彼はそんな私の手首を強引に引っ張り、車から降ろした。
そして何も言わず、私を引っ張り高級なホテルへ入っていく。
エレベーターに乗って最上階を押す。
私の手首は握ったままで、力は強い。
そんなに握ると痛いよ。
彼はエレベーターの扉しか見ていない。
私はここにいるのに。
でも彼に、こっちを向いてなんて言えない。
さっきの無表情の冷たい顔は見たくはない。
最上階へ着き、エレベーターの扉が開く。
彼は何も言わず私の手首を引っ張る。
私は手首が痛くて、これ以上引っ張られたくなくて、仕方なくついていく。
大きな扉の前で彼は立ち止まる。
私は彼の隣に立たされる。
隣にいる彼を見上げると、やはり無表情の彼がいた。
「この先に何があるのか分かりませんが、大丈夫です。私はみかんですよ?」
「はあ?」
「メイドさんが言っていたんです。私には誰も何も敵わないそうですよ」
「なんだよそれ?」
彼は微かに笑った。
いつもの彼だ。
「みかんは前だけ見ていろよ」
「はい。それもメイドさんに言われました」
「それは俺が頼んだんだよ。みかんは俺が守るから」
本当に戦場へ行くみたいな言葉。
彼の手に力が入る。
「痛っ」
「あっ、ごめん、みかん」
彼は私の手首を撫でる。
少し赤くなっているが、すぐになくなった。
彼が私に触れている。
嫌だと思わないのは何故?
彼がいつもと違うから?
彼が怯えているように見えるから?
「あっ、ごめん。離れるよ」
彼は私から一歩だけ離れた。
その一歩がすごく遠く感じた。
彼と私は、最初から遠いからかもしれない。
「やっぱり、みかんには、そのみかん色がお似合いだ」
彼は大きな扉をゆっくりと開けながら、幼さの残る笑顔を見せてくれた。
この笑顔を無邪気な笑顔と呼ぶのかもしれない。
扉の向こうは、キラキラと輝く世界だった。
宝石を身に付け、自分が一番だと思っている人達の集まり。
香水の香りが色んな所から香ってくる。
混ざった香水の香りは嫌な匂いになっている。
音もうるさい。
クラシックの音楽が微かに流れていて、色んな人達の喋り声のせいで聴こえない。
最悪なパーティーだ。
誰もが、自分をアピールしようと、パーティーに出席したんだと思う。
こんなパーティー、私も嫌いよ。
彼の気持ちが痛いほど分かるわ。
そう言うように彼を見た。
彼は、飲み物を取ってくるよと言って、私から離れた。
すると、一人でいる私に、ダンディーな男性が声をかけてきた。
「とても可愛らしいお嬢さんだね?」
「ありがとうございます。ドレスがとても綺麗だからですよ」
「そうだね。ドレスも素敵だけど、君も素敵だよ。君はおいくつかな? お若いように見えるようだが?」
ダンディーな男性は、私の腰当たりに手を当て、私を引き寄せる。
私は、その引き寄せる力に抵抗するように、足に力を入れる。
「おいっ」
私の後ろから、低い声が聞こえた。
怒っているよね?
振り向くのが怖い。
声の正体は分かっている。
怒る理由が分からない。
私が何をしたっていうの?
「これが見えない訳?」
彼は私の後ろから、ネックレスの黒い石を持ち上げた。
それを見たダンディーな男性は、何処かへ消えていった。
「この黒い石はなんですか?」
「呪いの石だよ」
「えっ」
「それは嘘だけど、昔はそう呼ばれていたみたいだ」
「昔のお話でも怖いです」
「大丈夫、みかんは無敵なんだろう?」
「その根拠はないんです。メイドさんが言っただけなんですから」
「彼女がそう言うなら、そうだよ。ほらっ、みかんにジュースを持ってきたよ」
彼は、カクテルグラスに入ったピンク色のジュースをくれた。
ピンク色のジュースって何味かな?
ピンクグレープフルーツかな?
私はそのジュースを一気に飲んだ。
だって緊張で喉が渇いていたからね。
すると、私の世界がグルグルと回り始めた。
何?
「みかん!」
彼は、立っていられなくなった私の体を支える。
遠慮がちに支える彼の手が、私に気を遣っているのが分かる。
「私、、、どうしたのかな?」
「みかん、ごめん」
彼の本当に申し訳なさそうな顔が、このパーティーで見た最後の光景だった。
私は目を覚ますと、大きなベッドに寝かされていた。
何処だろうかと、辺りを見回しても分からない。
見たことのない部屋だった。
「あっ、みかん様。お目覚めですか?」
メイドさんが部屋へ入ってきて言った。
「ここは?」
「ここは聖野財閥所有の、ホテルのスイートルームです」
「聖野財閥、、」
聞いたことがある。
聖野財閥は大金持ちの集まりだって。
会長が一人で、聖野財閥を大きくしたんだって。
雑誌にも載っていた。
優しそうなおじいさん。
最近は、跡取り騒動があったよね?
お金は人を変えてしまう。
兄弟、姉妹、親子でさえ争う。
「お身体は大丈夫ですか?」
「あっ、はい。何ともないです」
「そうですか。あのお方の慌てたご様子を、みかん様にもお見せしたかったです」
「慌てる? 彼がですか?」
「はい。ドレスが邪魔でベッドに寝かせられないと、脱がそうとしていましたので、私が慌てて止めたのですよ?」
「えっ、止めてくださりありがとうございます」
「いいえ。それでは、あのお方をお呼びしますね」
メイドさんは一礼をして出ていった。
すぐに部屋のドアをノックする音がして、私はどうぞと言った。
「大丈夫か?」
彼が心配そうにしながら入ってきて訊いてきた。
「大丈夫ですよ。でも何が起きたんですか? 聖野財閥の御曹司の聖野さん」
「俺が聖野財閥の人間だとバレたのは、仕方がないな。その話はこれで終わりだ。まずは、みかんに何が起きたのかだが、みかんは酒を飲んだんだよ」
「お酒? でも私はジュースしか、、、」
「俺が飲ませたんだ。ごめん」
「どうしてですか? 何か理由があるんですよね?」
「うん。今回の依頼である恋愛を、成仏させる為だよ。その為にはみかんが必要だった」
「それで私を使ったんですね?」
恋愛を成仏させる為に、私にあんな綺麗なドレスを着せたんだ。
私をおとりにしたんだね。
私が聖野さんを、パーティーに初めて出席させたんじゃないんだね。
依頼人である私の知らない女性なんだよ。
私は聖野さんを変えてなんかいない。
聖野さんは何も変わっていないのよ。
「みかん、本当にごめん」
「そんなに謝らないでください。それで恋愛は成仏したんですか?」
「うん。彼女達の仕返しで成仏したよ」
聖野さんは彼女達の話を教えてくれた。
彼女達は結婚を約束した人に、嘘をつかれていたことに気付いた。
その人は、お金持ちの令嬢をパーティーで探し、結婚の約束をして貢がせる最低な男。
そんな男の被害にあった女性達が集まり、聖野さんに恋愛成仏を依頼したみたい。
私が酔っ払って倒れた所で、パーティーの参加者達は私の元へ集まる。
その隙に女性達が男を取り囲み、他の場所へ誘導する。
そして被害にあった内容の紙を叩きつけた。
ある女性は、結婚式の為に二人で貯めようと言われ、通帳を作り、目標金額になると通帳と一緒に男は消えた。
年配の女性には、老後の為。
シングルマザーには、子供の為。
母親が病気の女性には、母親の入院費用の為。
男は苦しんでいた女性達を傷つけた。
そんな女性達に男は、怯えながら謝っていたそうよ。
そして女性達は男を警察にひき渡したの。
女性達の被害届けが受理されたからだって。
「私もその現場を見たかったです。見ている人達もスッキリするでしょうね」
「そうだろうね」
「あれ? 見ていないんですか?」
「みかんが心配だったからね」
「ただの酔っ払いですよ?」
「でも目の前で倒れたら、心配するだろう?」
「そうですね。心配しすぎて私のドレスを、脱がそうなんてするんですもんね?」
「それは、、、」
聖野さんは、本当に申し訳なさそうな顔をしていた。
脱がさなかったのだから、そんな顔はしなくていいんですよと言おうとしたら、部屋のドアを誰かがノックした。
私がどうぞと言って、中に入ってきたのは、大人しそうな女性だった。
この女性が、恋愛成仏の依頼人だと分かった。
だって、聖野さんが柔らかい表情になったから。
彼女とも何かあったのは分かる。
また依頼の為に、彼女と過ごしたんだと思う。
「彼女と二人にしてもらってもいい?」
女性は聖野さんにそう言った。
そして聖野さんは静かに出ていった。
「私達のせいで、こんなことになって、ごめんなさい」
「いいえ。お酒が弱い私が悪いんですよ。でも、私も協力ができて良かったです」
「お酒? あっ、そうね。でも、みかんちゃんが羨ましいわ」
「私がですか? 私も恋愛成仏を聖野さんに依頼しているんですよ? 私は貴女の方が羨ましいです。ちゃんと成仏して、次へ進めるんですから」
「そうね、私の恋愛は成仏したわ。でも、みかんちゃんだって、ちゃんと進めるわ」
「そうですかね?」
「シン君がいるもの」
「シン君?」
「彼のことよ。もしかして知らなかったの?」
彼女は驚いていたけど、すぐに自分の唇に人差し指を押し当て、私が教えたことは内緒ねと言った。
そんな仕草が可愛らしかった。
「彼に、みんなが元の生活に戻れて良かったって言っていたと、伝えてもらえるかしら?」
「はい。分かりました」
「それと、私達の味方にはなってくれても、逃げ場にはなってくれなくて、ありがとうって伝えててね」
「逃げ場ですか?」
「そう。私達に触れることなく、ただ優しく見守ってくれていたから、私達は自分達で立ち上がったのよ」
さっきまで可愛らしかった彼女が、どこか強い意志を持った女性に見えた。
しかし、聖野さんは本当に触れなかったの?
今回は触れない作戦だったのかなぁ?
そして彼女が帰ると、少し眠くなった。
私はふかふかのベッドへ横になる。
真っ白いシーツに包まれると瞼が重くなってきた。
聖野さんに後で言おう。
今日は心配してくれてありがとうと。
「ありがとう、、ござい、、ます」
読んでいただき誠に、ありがとうございます。
楽しくお読みいただけましたら幸いです。
明日の朝6時頃に更新いたします。




