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裏切りの恋愛、成仏させます。

「ごめん。やっぱり君を好きにはなれないよ。だから別れてほしいんだ」


 私は大好きな彼氏にカフェのテラス席で、別れを告げられている。

 さっきまで一緒に映画を観ていたよね?

 別れ話なら、映画を観る前に言ってほしかったわよ。



 私の名前はみかん。

 大学二年の二十歳。


 身長は低いし、髪型はショートヘアーで短いし、女性というよりは、女の子と言った方がいいかもしれないけれど、ちゃんと成人をした大人の女子大生よ。


 やりたいことを探す為に入った大学で、やりたいことがみつからないまま、何となく平凡に過ごしている。


 私に別れを告げた彼は、私の一つ上の先輩。

 出会って一年くらい。

 そして、お付き合いをして三ヶ月。

 彼は優しくて格好良くて大人で、私の気持ちを優先させてくれて、思いやりのある人。


 そんな彼が、私を傷付けたりなんかしないはず。

 別れるなんて言うのには、何か理由があるはずよ。


「私を好きになれないって、好きだから恋人になったんじゃないの?」

「君に好きって言われて、僕も君のことは気に入っていたから付き合ってはみたけど、君を女の子として好きなところが、見つからなかったんだ」

「それって、私に魅力がなかったってこと?」

「そういうことになるのかな? 君とは男友達といるような感覚になっていたんだ。だから一緒に居て楽しかったけど、恋人ではなかったみたいなんだ」


 私って今、酷いことを言われたわよね?

 怒ってもいいわよね?

 泣いてもいいわよね?


「それなら最初から、、、」

「最低!」


 私が彼に反撃するように言葉を言おうとした時、隣のテーブルから女性の怒鳴る声が聞こえ、私は言うのをやめた。


 声がかなり大きかったから、周りの人達にも聞こえているようで、その声の主である気の強そうな女性と、一緒にいるホスト風な男性を、みんなが見ていた。


「お前が悪いんだろう?」

「はあ? 私は仕事が忙しくて、あなたにずっと会えなかったから、あなたには悪いなぁと思って、あなたの家でご飯を作ってあげようと行ったのに、、」

「お前が勝手に来なければ、あいつとのことはバレなかったんだよ」

「バレなければいいの? 浮気をしてもいいの?」


 女性は泣き出しそう。

 酷い男。

 私の彼の方がマシね。


 ちょっと待って、本当にマシなの?

 私も酷いことを言われたわよ。

 私も泣きたいわよ。


「もういいわ。あんたみたいな、キモイ男とは今日が最後よ」


 女性はそう言うと、テーブルに置いてある、甘いガムシロップが入った器を持ち、男性の頭にかけた。

 男性の頭にドロドロとした液体がかかる。

 洗うのが大変だろうなぁ。


 周りからパチパチと拍手が聞こえる。

 女性の男性への制裁が、周りの女性の同情を生んだみたい。

 私もその周りの女性達の一員だから、気持ちは分かる。


 女性は店員さんに、ガムシロップのことを謝っていたが、その店員さんも女性だったからなのか、弁償などしなくて済んだみたい。

 女性は何もなかったかのように、自分の飲み物代だけを払い、カフェを出ていった。


 男性は何が起こったのか分からず、しばらく放心状態だった。

 その間も、ガムシロップは男性の頭から肩へポタポタと落ちていた。


 水をかけるのは、テレビドラマなどで見るが、ガムシロップは初めてだった。

 水なんて乾けば何ともないのよね。

 女性のガムシロップ攻撃は、良いアイデアよ。


 男性はベトベトの頭を気にしながら、自分の注文をした飲み物代を払い、カフェを出ていった。

 すると、何もなかったかのように、周りの人達は会話を始め、カフェは賑わいだした。


 私も彼との話を再開させようと彼を見る。

 すると彼は、不安な顔をしながら私を見ていた。

 私達も別れ話だから、彼もさっきの男性と同じ目にあうと思っているんだ。


 私はそんなことはしないわ。

 私のことを本当に分かっていないのね。

 だから私を好きになれなかったのよ。

 知ろうとしなかったからね。


「分かったわ。別れましょう」


 私はそう言うと、彼に飲み物代を渡して帰ろうとした。

 それなのに彼は、お金は自分が払うと言って、受け取らなかった。


 そんな所で優しさはいらないのに。

 彼の申し訳ないと思う気持ちが、伝わってくるわ。

 彼の優しさは私を傷付ける優しさよ。

 私を悪者にする優しさよ。


 私は泣きそうになるのを我慢して、急いでカフェを出た。

 急いで人気(ひとけ)のない場所へ向かう。

 人通りのない、高架下の隅。


 そこには先約がいた。

 女性?

 さっきの気の強そうな女性だ。

 もしかして泣いているの?


 私が近付こうと足を動かしたのと同時に、隣を誰かが歩く。

 私よりも歩幅は大きく、私よりも背が高いから、私よりも先に女性に近付く。

 その人からは、微かにタバコの匂いがした。


 その人はスーツ姿だけれど、その辺の人とはオーラが違う。

 高そうなスーツだと思う。

 靴も高そう。


 後ろ姿だけれど、漆黒の髪もしっかりワックスなどでセットしている。

 後ろ姿だけでも格好良い雰囲気を出している。


「あなたの恋愛、成仏(じょうぶつ)させます」


 男性は、女性へ変なことを口にした。

 恋愛を成仏?

 意味が分からない。


 私はすぐに変な人だと思った。

 もしかしたら、傷付いている女性を狙った詐欺師?

 でも女性は、そんな変な人の相手はしないかもしれない。

 だって、気の強そうな人に見えたし。


「お願いします」


 女性はその男性の方を向いて言った。

 騙されている。

 私が助けてあげなきゃ。


「ダメ! 騙されちゃダメです。後ろ姿は格好良いかもしれないけれど、顔は残念なパターンですよね? そんな詐欺師に騙されちゃダメです」

「はあ? 誰が残念なんだよ」


 私の言葉に反応したのは女性じゃなくて、詐欺師の方だった。

 その詐欺師は私の方を見た。

 そして、その顔に私は驚いてしまった。


「ベビーフェイス」


 私は詐欺師の顔を見て、感じたままを口にした。


「誰が赤ちゃんの顔だよ」

「ベビーフェイスはそんな意味じゃなくて、格好いいっていう意味の褒め言葉です!」


 怒って言った詐欺師に、私まで怒りながら言ってしまった。


「まあ、ガキには大人の色気は分からないよな? だから、ガキは帰りなさい。今から大人の時間なんだよ」

「ガキって、私はもう成人してます!」


 私の言葉に詐欺師は、私を頭からつま先まで見た後、鼻で笑った。


「どう見てもガキだな」

「失礼な人ですね。さっき、彼に言われて傷付いていたのに」


 私は泣きそうになりながら、詐欺師に言った。


「そいつは、お前の魅力に気付いていないだけだよ」


 えっ。

 慰めてくれるの?

 なんだか調子狂うわ。

 顔もイケメンだし、好きになっちゃいそうよ。


「ガキにはガキにしか分からないんだよ」


 詐欺師はクスクスと笑いながら言った。

 さっきの私の言葉は撤回よ。

 こんな奴、好きになる訳がないわ。

 こんな失礼な詐欺師なんて。


「私は、あなたに用はないんです」


 私はそう言って、詐欺師の横にいる女性を見る。


「あのっ、私と一緒に失恋会をしませんか? 私もさっき、失恋したんです」

「えっ、でも私は成仏したいのよ」


 女性に声をかけたのに、女性は戸惑いながら断ってきた。

 その断り方が変だった。

 成仏したいって、まるで女性は幽霊みたいな言い方をした。


「ゆっ、幽霊とかではないですよね? だってさっき、ガムシロップを男性にかけていたし、、」

「私はちゃんと生きています。でも、彼のことを忘れたいの。だから成仏したいの」

「えっと、それは、死にたいってことですか? それはダメです。これから先は必ず良い事がありますから」


「お前の頭はスカスカなのかよ? コロコロと変わりやがって、まるでお前の脳は、未完成だな?」

「私はみかんです」

「はあ?」


 私は詐欺師が、私の名前を間違えたから訂正しただけなのに、詐欺師は呆れ顔で見てきた。


「私の名前はみかんです。ミカンセイじゃないです」

「お前は本当のバカだな。もういいから、ガキは帰れ」

「さっきからガキガキってうるさいです。私はお酒も飲める歳なんです。私を甘くみないでください」


 私はそう言うと、女性の元へ走り、女性の手を引いて詐欺師から離れる。


「お前がその女性を救うことはできないんだよ」

「できます。私が救ってみせます」

「できねぇよ。お前は何も分かっていないんだ」

「えっ」


「そうよ。あなたは何も分かっていないわ。彼は私の彼になるんだからね」


 女性はそう言うと私の手を振り払い、詐欺師の元へ戻る。

 どうして?


 女性は詐欺師にお金を渡していた。

 それも多額を。

 確実にヤバイ現場だと思う。

 どうしよう?


「おいっ、ガキ。早く帰れよ」


 詐欺師は呆れた顔で私に言った。


「帰れません。こんな犯罪現場を見たら、警察に通報しなきゃ」

「お前なぁ、警察が来ても俺は捕まらないよ?」

「どうしてですか?」

「何にも悪いことはしていないからだよ」

「でも、お金を貰っていましたよね?」

「前金だよ。俺が彼女を救う為のな」


 意味が分からないわ。

 前金?

 女性を救う?

 救うのに、お金がいるの?


「救うなら、無料ですればいいですよね?」

「それなら、人を救う医者も無料でやってくれるのか?」

「どうしてお医者さんと比較をするんですか?」

「医者って、人の身体を治し、救う為にいるだろう? だから俺が成仏させるのと何も変わらないんだよ」

「お医者さんには知識や経験、そして看護師さんの適切な体調管理などで、たくさんの費用が必要なんです」

「俺もそうだよ。たくさんの費用が必要なんだよ」


 詐欺師はニヤニヤしながら言った。

 その顔で、どれだけ高い金額を貰っているのかは想像できる。


「でっ、でも、、」

「もう、いいだろう? 関係の無いお前が、口を出すことじゃないんだよ」


 女性を見ると、女性も迷惑そうな顔をしている。

 お金を払ってまで、成仏したいの?

 でも、何を成仏させるの?


「成仏って何を成仏させるんですか?」

「はあ? 今更かよ。さっきも言ったけど恋愛だよ」

「恋愛は人や動物じゃないので、成仏なんてしませんよ?」

「恋愛はちゃんと存在するんだよ。彼女とその恋人の間でな」


 そういえば、、、私にも恋愛はちゃんと存在していた。

 私の中で、綿菓子のようにふわふわで甘くて、触れば溶けてなくなりそうな物。


 そんな想いを思い出すと、涙が出そうになった。

 でも、ここで、こんな詐欺師の前では泣けない。

 私が涙を堪えていると、詐欺師が私の頭に手を乗せた。


「恋愛は確かにあるんだ。なくなったりしない。だから俺が成仏させてやるんだ」


 詐欺師の想いは真剣で、冗談なんて言っていない。

 彼は、助けようとしているんだ。

 傷付いた恋愛を。

 傷付いた人を。

 傷付いた心を。


「でも、お金を貰うのはダメです。ボランティアでしてください」


 私は涙を、いっぱい目に溜めて彼を見て言った。


「お前も助けてやるよ。料金は学割にしてやるからさ」


 彼はそう言った。

 でも私にはお金なんて無い。


「お金はありません。さっきも言いましたが、ボランティアでしてください」

「それなら俺の助手をしろ。それで料金はチャラにしてやるよ」

「分かりました。それなら私は、ボランティア精神をあなたに叩き込みます」

「ボランティア精神ね。俺には一生、分からないだろうな」


 彼はそう言ってニコッと笑った。

 ベビーフェイスだからなのか、笑った顔が幼く感じた。


 彼には連絡先を教えて別れた。

 そして彼は女性とどこかへ行ってしまった。

 二人が何をするのかは分からない。


 大人の時間って何?

 成仏って何?

 私の疑問はたくさん生まれた。

 でも訊くことはできなくて、彼からの連絡を待つだけ。



 一週間後に彼から連絡が来た。

 彼は、一週間前に気の強そうな女性と、ホスト風な男性が別れ話をしていたカフェへ、私を呼び出した。


 私はカフェへ向かい、彼を見つけて驚いた。

 この前の彼とは全然違うから。

 髪型も、服装も。


「なっ、何でそんな格好をしているんですか?」

「あの日のことを教えてよ」


 彼は私の質問なんか無視。

 あの日のことって何時(いつ)のことよ?


「私の質問を聞いていましたか?」

「みかんは、俺の質問を聞いていたのか?」

「聞いていましたよ。でもまずは、私の質問に答えてくださいよ」

「俺の質問にみかんが答えれば、質問の答えは分かるよ」

「そうなんですか? それなら質問の答えですが、あの日とは何時(いつ)のことですか?」

「彼女がいる時に、このカフェで起きたことだよ」


 私は彼に、起きたこと全てを教えた。

 彼は何か考えている。


「どうしたんですか?」

「彼の行動が不思議なんだよ」

「私は最低彼氏だと思いますけど? 恋人を裏切るなんて許せないです」

「浮気は許されないことだけど、彼はガムシロップをかけられても、怒らなかったのは何故なんだ? ホスト風なら、髪のセットにも時間をかけているだろうから、見た目を気にする奴だと思うんだよ」


 そういえば、あんなに彼女のせいにしていたのに、どうしてガムシロップをかけられて、怒らなかったんだろう?


 驚き過ぎて、反応できなかったのかな?

 でも彼女がいなくなって、悪口も言わず静かに出ていった彼は、何を思っていたのかなぁ?


「自分をよく見せようとするなら、彼女のしたことに怒るのは当然だけれど、浮気をした自分が悪いから、彼女にされたことは、仕方がないと思っていたんじゃないですか?」

「それなら彼が、反省なんてしているようには感じとれたか?」


 私は、あの日のことを思い出す。

 最低彼氏は女性のせいにしていた。

 浮気したのは、女性が仕事ばかりしていたからと言っていた。


「言葉も態度も女性の仕事のせいにしていました。自分は悪くはないと。反省なんてしていませんでした」

「そっか、分かったよ」

「何が分かったんですか?」

「ん? ほらっ、行くよ」


 そして彼は立ち上がり、私に掌を差し出す。

 彼の服装はホスト風というより、もうホストにしか見えない。


 女の子の扱いを分かっているようで、強引じゃなくて私の意思を尊重している。

 ベビーフェイスに相応しい、幼く感じる笑顔で。


 周りの女の子達は彼をチラチラと見ている。

 そして格好良い彼が私を見ている。

 私だけを見て微笑んでいる。


 私は彼の掌に手を乗せた。

 彼はギュッと私の手を握って、一緒にカフェを出た。


「どう? お姫様の気分は?」

「えっ」

「俺のなんちゃってホストは、みかんには大好評かな?」

「かっ、からかったんですか?」

「もしかして怒ってる?」

「当たり前です」

「ごめん。みかんだから、いいかなって思ったんだよ」


 彼を見ると反省をしているように見える。

 幼い表情で悲しんでいる。

 彼が分からない。

 本当の彼を知りたい。




 彼はずっと私の手を握っている。

 これから何処へ行くの?


「着いたよ」


 彼は高層マンションの前でそう言った。


「ここに何があるんですか?」

「ん? 行けば分かるよ」


 彼はそう言って高層マンションの中へ入る。

 彼は慣れた手つきで鍵を開ける。

 誰の部屋なんだろう?


「あれ? どうしたの?」


 部屋に入ると女性の声が聞こえ、パタパタと走ってきた。

 その女性の顔を見て驚いた。

 だって、あの日の気の強そうな女性だったから。


「どう? 全部書き出した?」

「うん」


 私達はリビングに入り、彼は女性から受け取った紙を見ながら、女性に話しかけソファに座る。

 まるで自分の家の様に。


「でも、これは、もういらないよ」


 彼は紙を破る。

 バラバラになって床へヒラヒラと落ちていく。

 紙にはびっしりと、女性の綺麗な字が並んでいる。


「せっかく書いたのに。ヒドイわ」

「ヒドイのは誰だよ?」

「えっ」

「君は仕事ばかりで、他のことに手もつけられないじゃん」

「そんなことは、、、」

「仕事を断れないのは、君が自分一人でやろうとするからで、誰かに頼ってもいいんだよ。俺に頼ったようにね」

「頼る、、、」


 女性の涙が頬を流れた。


「みかん、後はお前に任せるよ」


 彼はそう言った後小さな声で、女の涙は苦手なんだと付け加え帰ろうとしている。


「あっ、みかん。さっきのカフェでの話はするなよ」


 彼は思い出したように振り向き、私に言った。

 私はうなずいて返事をした。


 立ったまま泣いている女性を、ソファに座らせた。

 私は泣き止むまで背中を優しく撫でた。

 女性は静かに泣いていた。


「人に頼られるのって、嬉しいですよね。だから貴女も頼っていいんですよ。お金なんて貰わなくても、貴女になら頼ってほしいって思う人はいます」

「そうかしら?」

「いますよ。貴女はずっと頼られてきたんですよね? だったら、貴女を信頼して頼っている人はいます」

「頼るんじゃなくて、面倒なことを押し付けているだけよ」

「そういう人も中にはいるでしょう。でも、貴女を尊敬する人もいます。貴女を目標にする人だっています。そんな人達に貴女が頼ることで、その人達も成長できるんです」

「でも、本当にそんな人がいるの?」

「いますよ。だって私は、貴女を尊敬していますから」


 私は床に落ちている破れた紙を拾う。


「こんなにびっしりと綺麗な字で書くんですよ? 貴女は何事にも手を抜かない人です。だから一人でやってしまうんですよね?」

「そうね。どうして今まで気付かなかったのかな?」

「貴女は一生懸命だからです。ただ走り続けていたんです。だから今は休憩です。貴女を裏切った男なんて忘れましょう?」

「そうね。私の恋愛は成仏したみたいね。明日からは新しい私よ」


 女性は真っ赤な目をしてニッコリ笑った。

 女性の笑顔を見ると私も笑ってしまった。


「失恋会をしましょうよ」

「それってあの時、みかんちゃんが言っていたわよね? あの時にみかんちゃんについて行ってたら、どうなっていたのかしらね?」

「それは分からないです。もう、あの時には戻れないので」

「そうね。みかんちゃん、ありがとう」

「私は何もしていませんよ。彼が貴女に気付かせてあげたんです」

「彼ね、、。彼には気を付けた方がいいわ。何か闇を抱えているわ」

「闇ですか?」


 彼のことを何も知らないから不安になる。

 一緒にいてもいいのだろうか?


「でも、一つだけ良いことを教えてあげるわ」

「彼のことですか?」

「そうよ。彼はね、お金持ちの御曹司よ」

「そうなんですか? それなら、あんな高額を傷付いている人から貰わなくてもいいのに、、」

「それは、彼が判別する手段なのよ」

「判別ですか?」

「高いお金を出す程、苦しんでいるのよ。お金なんてただの紙切れなのよ。経験者だからその気持ちがよく分かるわ」


 彼女の言葉は説得力があった。

 彼もお金をただの紙切れだと思っている。

 だから高額を請求するのよ。


 でもお金が払えない人はどうなるの?

 学生や貧乏な人はどうなるの?


「彼はあの日、お金を受け取らなかったわ」

「えっ、でも私は見ましたよ? お金を数えていましたよね?」

「そうね。その金額を見て、私の依頼を受けたのよ。お金は判別する手段だってだけよ。どれだけのお金を準備して、どれだけ苦しんでいるのか、確認しただけなのよ」


 私、何も知らないクセに生意気なこと言ったよね?

 それなのに彼は、私を手伝わせるのは何故?

 もしかして、嫌がらせ?

 私には誰も救えないって教える為に?




 その日は、彼女と飲み会が始まり、いつの間にか眠ってしまった。

 すごく楽しかった。

 私にお姉さんができたみたいで嬉しかった。


 彼に感謝しなきゃ。

 今度、お礼を言わなきゃ。


「ありがとう、、ござ、、ます、、」

読んでいただき、誠にありがとうございます。

楽しくお読みいただけましたら幸いです。

次のお話は、明日の朝6時に更新いたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おはようございます。 新作!面白い題材ですね。楽しく読ませていただきました。 水じゃなくて、ガムシロップをかけるなんて、思っただけで、ベトベトしてすごそうですね。笑
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