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予報士の大成  作者: ゲレゲレ
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第三話

翻訳の魔法は文書にも効果を発揮します。

馬鹿げている。そう今日の出来事を一蹴したい気持ちに駆られるが。ここは現実であり、どうにかしなければならない。用意された寝室には服も置いてあった。それに着替えながら思考を巡らせる。ただ、情報があまりにも少ないため、得られるものはなかった。

一般高校生にはそぐわないベッドに体を預ける。


「明日とか、言ってられなくなったな…」





〜〜〜〜〜〜〜〜 





人間の適応能力とは、存外高いものである。ここ三週間で実感したことはまさにそれであった。初日こそ皆顔が強張っていたが、七日も経てばこの状況に慣れてくるだろう、自然な生活を取り戻しつつある。ただ、家に帰りたい思いは消えることはない。

朝は座学および読書、昼からは実技訓練というノルマをこなす毎日だ。実技訓練の方は、学習した魔法について実際に発動させることや体術の習得などを軸に行なっている。魔法のほうは未知の技術としてほとんどが興味をひかれ、また召喚者のポテンシャル、それから現代日本で教わった知識を遺憾なく発揮し、順調にことが進んでいた。一方体術のほうは多くが苦戦している。ただ、やはり相川など運動に長けた者は要領よくやっているようだ。


復習がてら魔法について述べよう。魔法には三つの要素がある。大きさ・向き・属性だ。大きさとは即ちその魔法の規模と純度である。例えば炎を魔法で発生させる時、その炎の大小が規模、温度と持続時間が純度ということになる。向きは発生させるものの方向と座標を決める要素である。誘導性などもこれに含まれる。属性はその魔法に使われる魔力の種類のことを指す。魔力というのはどんなエネルギーにもなり得る、いわば遺伝子のない力そのものだ。それに熱エネルギーや運動エネルギーなどの指定を加えることで魔法は利用できている、というわけだ。これらを組み込み、式にしたものが魔法陣である。


この魔法陣こそが、創始者の発明品なのだ。これは今の三つの要素を三角形に収める。上の頂点が大きさ、左下が向き、最後が属だ。その内側に具体的な条件をそれぞれ書き込むことで魔法を使えるという代物で、世界を変えるものとなった。生活の利便性が高まった反面、魔法が争いを激化させ、魔法によって争いが生まれた。どの世界も新しい技術はまず軍事転用である。と、魔法についての基礎はこれくらいか。


話をクラスメイトに移すと、先もいった相川や善野は身体そのものを強化する魔法が得意のようだ、相川は素早さ、善野はガタイの良さを活かした戦いを習っているらしい。森岡は風に関する魔法を多く身につけている。古河は土。立花と藤阪は水の魔法、宇都宮は炎だったか。それぞれが得意な分野を学び補い合うのはパズルのようで割と楽しかった。俺は魔力の収束、爆散などエネルギーそのものの利用を教えていた。しかし、未だ誰もアビリティの使用を為し得なかった。


「もうやめとくか?正直辛い、帰りたい」

俺は今鳳雛と共に王国で最も蔵書数の多い文庫に来ている。理由は創始者について知らなければならないと思ったからだ。俺たちを巻き込んでまで目覚めたいという奴はどんな人物か、大事とは何か、それを推測できれば、これからの行動の指針となる。王ともあれから会えておらず、他に聞いても知らぬ存ぜぬであったため、許可を取り、ここまで来ざるを得なかった。勤勉な暮らしは苦手だが、背に腹は変えられない。そう決意して十四日間訓練を終えては寝る間を惜しんで読書に耽った。しかし、魔力のおかげか疲れているのは精神だけのようだ。正直同じような歴史書ばかりだったが、あと何か無いかという期待が、学習を駆り立てていた。気づけば文庫の奥深く、誰も管理していないであろう埃の被り切っている本棚から塵を振り払いながら本を探している。しかし、


ん?これは。


「鳳雛、この本の内容ここのジャンルと噛み合ってなく無いか?」

「ん、どれ?……ほんとだ、間違えたままってことでもなさそうだけど。」

「そう、同じ背表紙の本が他に数冊ばらけて置いてあるからここが所定というのは間違いない。ちょっとこの黄色い本を読み進めてくれないか」

「わかったわ。翼はこっちお願い」


………ページをめくる音だけが聞こえる。この本全てを読むのは骨が折れるが、直感が今日中に読み終えるべきだと言っていた。


どれほど経っただろうか。外は若干明るくなってきていた。


「何かわかったか?」

「それが『抽象的で哲学的な文章で今の社会を非難している』という内容で、特に何も」

「こっちもだ。ここまでやって徒労は嫌なんだが」

「もうこんな時間だし、いったん帰らないと。許可された時間はとうに過ぎちゃったわ」

「そうするしかないか」


と言って、本を閉じようとする。そのときあるものが目に映った。鳥肌が立つ。


「なあ、筆者の名前は全部O・スミスだったか?」

「どういうこと?」

「黄色い本すべての筆者はO・スミスだったか確認してくれ」

「ええ、えーっと」


本を机の上に置き直す。ドスッと重い音がした。何者かに背中を押されているように急かされる。手でページをめくる操作がおぼつかなかった。


鳳雛が顔色を変えて


「……違う。こっちはI・スミス。これは、R・スミス、これもR・スミスになってる。あとG,N,I,T,Dだわ」

「こっちはA,I,O,D,E,A,S,Aだ。これは、並び替えか?」


何かがある。そう思わせてくる。


「なんでも試していくか」


黙々と並び替えのパターンを考えていく。すると一つ、当てはまるものが。

藁にもすがる思いだったのが、確信に変わった。



Originator(創始者は)

「「is dead(死んでいる)」」



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