第二話
「これこれ、そう固まるでない。貴殿らとは立場上対等であるぞ」
そう言われてこの緊張が解ける筈もない。しかし、この老人は優しい笑顔をこちらに送ったまま話を続ける。
「わしの名はハーデン・ハイマート、このハイマート王国の王である。困惑も無理ない。今から順を追って説明する。しばし時間をくだされ」
そこから話される内容は、矢庭に信じられるものではなかった。
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頭の中でごった煮になった情報を整理する。
まず、この世界は地球ではない。”コード”と呼ばれる異世界である。コードには魔力というエネルギーが主に生物の体内に存在し、血液のように循環している。これを体外に放出し、利用したものが魔法である。俺たちはその魔法によってここに召喚され、言語など生活に不自由な点は取り除かれている。召喚の理由となるのが、この王様の娘リース・ハイマートが受けた命令であるところの、”創始者”の啓示だ。創始者はこの世界に魔法を誕生させた人物であり、この王国の信仰対象だ。今は仙山という霊峰の奥深くに眠っている。啓示は時折目覚めると王女に与えるらしい。啓示の詳細な内容というのは、簡潔にまとめると創始者はそろそろ大事が起こるため助言を直接したいが、この世界の人間では到達すら無理なため、他世界から大人数若者を喚ばなければならない。そこで俺たちがたまたま選ばれたということだ。しかし、召喚諸々はすべて創始者の啓示通りに動いた結果のため仕組みも知らず、帰る術はない。よってまず訓練と勉学に励まなければならない。さすれば、俺たちは喚ばれた際地球から取り込まれたエネルギーによってこの世界の住人よりも能力に秀でており、固有の能力も手に入れているため、仙山も踏破出来る。と、ここまでか。
理不尽にも程がある、だが.
「そん、な…い、意味がわかりません、なぜそんなことに巻き込まれなければならないのですか!」
秋雨が狼狽えながらも敢然と愬える。
「帰る方法は創始者様のみがご存知である。こんなことを言うのはあまりにも酷かも知れんが、申し訳ない。目的さえ果たせたなら、帰ることも創始者様に考えてもらえるじゃろう」
一同騒然だ。皆顔に絶望色が生まれる。雰囲気がより暗然となる。ただそれよりも、一瞬王様の目に侮蔑が混じっていたのは気のせいだろうか。
大体の話はこんなところだった。帰らず、ここで訓練もせず、平和に過ごすこともできるかと聞いたクラスメイトもいたが、国民云々と、いわばただ飯食らいをつくるわけにはいかないとのこと。全員が命令に従うように誘導されていった。曰く目的が達せられれば帰ることができるかもらしい。
「貴殿らには初めに能力の確認を行ってもらう。奥の部屋にあるので同行願いたい。それから、一人ひとつ寝泊りする部屋を見繕う。休みの日も入れつつじゃが、毎日訓練を受けてもらわないといかんからな。更にはこの世界の知識、魔法の知識も身につけていただきたい。すまんが、ここからわしは仕事に戻るでな、別の者に説明してもらおう」
王様はここで退出のようだ。数十の従者に連れられ、この空間から抜け出た。その後兵士に連れられ向かった先には七色に光る四面体とそれの台座があった。様子を見る限り、説明は王様ではなくあのプレートアーマーの兵士に代わるようだ。一人だけ鎧に金の装飾が施されており、つけているエンブレムも他より刺繍が凝ったものだった。兜を脱ぐと中から筋肉で角張った三十才ほどの男性の顔が現れた。
「私は直属の王国騎士団団長である、ローム・プロウズだ。君たちのまあ、諸々を仰せつかっている。なんでも、君たちはまだ若く、大人に敬語を使われるのも慣れていないらしい。王から気安い態度で接するようにとお達しが来ているしばらくの間、宜しく頼む。わからないことがあればなんでも聞くように。それから…君たちの名前を教えてくれるか?」
一人一人名乗っていく。それぞれのことは、後で想起して見るか。
容姿からは想像つかないが、中学校の先生像が脳裏を駆け巡る。そこまで悪い印象ではない。
「まず、この装置に触れてもらう。これによって、君達の潜在的なものを含めた能力が調べられる。順番に行って欲しいが…」
全員がこっちを向いた、気がする。仕切ったりするのは俺らしい。
「こっちには元々出席番号っていう名前順があるので、それ使って並びます」
「おお、話が早くて助かるよ、じゃあそれで並んであの台に手をかざしてくれ。後はやればわかる」
そう言われ十一人がスカスカの出席番号順に自分の居場所を探す。今まで口数がほとんどなかったが、少し会話が生まれた。
「コレなんだよ…なんか何もかもやばい感じがするけど大丈夫なのかよ。」
「透ぅ、後がつっかえるからやるんなら早くしてよねー。意味わっかんないのは初めからだし」
「会話してないで行って下さい」
相川透と宇都宮李がなんとも気の抜けた掛け合いをしている。秋雨がまた不機嫌そうだ。相川は確かサッカー部で全国大会に出るほどの運動能力の持ち主だった。そんなこともこの装置からわかってくるのだろうか。細身だが高めの身長と若干茶色の髪が割と目立つ。宇都宮の方はロングの天然パーマの髪がわかりやすい。芸能事務所に所属しており、テレビCMに出演していたのを見たことがある。なんというか画面上とは違って、全体的にゆったりとした印象だ。
「ねぇ、この結果次第で扱いが変わるなんてこともありそうだけど?」
「あっ、なくはないのか。」
「嫌な予感しかない。二つの意味で」
鳳雛と篝の後ろからは古河鴻と藤阪湖々亜の会話が聞こえる。この二人は旧知の間で古河の方はボーッとしているのが茶飯事でその度に藤阪に言動など突っ込まれている。古河の身長の小ささもあり、マスコット的立ち位置にいる。藤阪の方はこのクラスのツッコミ役に回る大変忙しい人だ。常々そう思う。そんな二人及び全員の不安は早々にアンサーが返ってきた。
「あまり結果は気にしなくていいぞ、どんなのでも手厚く保護、指導してやる。それと、あんまり口外しない方が得策だとも言っておこう」
言葉だけだが、今のでかなり安心したのは、それが本心だったからなのかも知れない。
最後尾の前と最後尾はそれぞれ松野上紡木と森岡敢太郎だ。二人とも大人しい性格で、松野上はコミュニケーションが苦手らしく人と会話するとき眼鏡を頻繁に触っておどおどした印象が強い。ただ、たまに冷静に辛辣な一言が出てくるのでギャップが面白い人との認識を高めている。森岡は、喉を音が通ったことがあるのかというくらい口数が少ない。もう全然喋らない。ジェスチャーで大体のことを伝えてくるという妙技を持つ人だ。
俺まで番がきたようだ。台座に手をかざす。すると四面体は激しく発光し白光が部屋を覆う。体を洗われる感覚に襲われたが。そこからは特に何も起きなかった。奥に用意された待機所で座して待つ。
「これが君たちの能力だ。見てくれ」
渡されたA4サイズの紙を見るとこう書かれてある。
41064
筋力:570
持久力:490
魔力:2542
総合物理耐久力:510
総合魔力耐久力:1430
アビリティ
・解読
・Forecaster
「まず上部の数値を見て欲しい。一番上は登録番号。今から説明するのは筋力とか書いてある方だ。それは今発揮できる能力を、一般成人が100として数値化したものだ。筋力や持久力は運動能力を、魔力は体内に循環する魔力の量。耐久力に関しては、体の頑丈さだ。下のアビリティというのはいわば君たちにしかない固有の技能ということだ。ここに関しては、この世界の人間は持っちゃいないから俺からはなんとも言えん。何回も使っているがこんなものは初めてだ。友達のを見てもいいがいざこざにするなよ。」
「えっ、じゃあ俺の筋力790って高くね」
「というか、みんな魔力たっか全員1000超えてんじゃん」
「漫画とか小説でしか見たことないぞこんなの」
「あんましわかんないんだけどー」
各々困惑と喜びの入れ混じった声を上げていた。能力の格差でうんたらとはならなくて済んだのはいいことだと思う。しかし、俺が最も気になるのはこのアビリティ欄だ。解読はこの翻訳魔法のことだろう。なぜ一つ英字なのかもそうだが、そもそもForecasterとは何か。見当がつかない。
「翼、どうだったか聞いても?」
「ああ、こんな感じ。ただこのアビリティが」
「それは私も、ほらこれ」
41066
筋力:302
持久力:294
魔力:2831
総合物理耐久力:322
総合魔力耐久力:1543
アビリティ
・解読
・Alchemist
こっちはAlchemistか…解らないことが絶えず増えるのに、頭を抱えずにはいられなかった。