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予報士の大成  作者: ゲレゲレ
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第一話

「帰るか。」


窓から入る光はどんどん赤みを増していた。


「文化祭の要項は?」

「あー、明日にしよ」

「またそうやって後回しにするの?なるべく早くしたいんだけど」


溜息まじりに言われる。しかし、予想はしていたのでいつものように返す。


「風の吹くまま気の向くままが俺の信条なんだよ。やる気が…

「やる気が出ないなら明日。でしょ」


鳳雛(ひな)の呆れた顔が夕紅で照らされる。黒色で艶のかかった髪が正確に光を反射している。


「じゃあ、ちょっと早く来てよ」

「わかったよ」


生徒会室の扉に手をかける。廊下に出ると、人はいなかった。

鳳雛が鍵を閉める音が聞こえる。

俺たちはそのまま、階段を下り、下足で靴を履き替え、外へ出ようと。



その時だった。



「…ん、なにこれ」

思わず下を覗く。床がない。いや、黒い円形の何かに取って代わられていた。

「え、いやどういうこと」

二人とも動き回るが、自分たちにそれは付いてくる。不可解も、過ぎると恐怖でしかない。

「「やっ、



声を出そうとした俺たちは、そのまま何もない空間に放り出された。





〜〜〜〜〜〜〜〜





瞼が開く。倒れているらしい。暗くてよく見えないが、何か部屋に見える。頭に感触があった。おそらく鳳雛の腕だろう。

どんどん景色が鮮明になってくる。大人数の人間が見える。何か話しているらしいが、よく聞こえない。


「っっと。」


起き上がることができた。体がなぜか軽い。足元には巨大な模様が描かれていた。


「鳳雛、起きろ、おい」


神野鳳雛(じんのひな)とは小学校からの付き合いだ。俺たちがさっきまでいた伏ヶ崎高校で生徒会副会長をしている。会長は俺だ。


「ぅあ…(たすき)?どこ、ここ」

「わからん。」


後ろを振り返ると、黒い外套と帽子を身に付けた大人達がが俺たちを見ている。いや、観察している。すべての人間が黒を纏っているのはいささか趣味のいい光景とは言えない。

鳳雛に手を貸し、立ち上がる。するとその一人が口を開けた。と言っても、顔は巨大な帽子で見えない。


「あなた方をこれから、案内させていただきます」


話の内容が頭に入ってこない。それより、少し見える口の動きと、発せられる声が合わないことが気になった。

とにかく奥へ進めと言われているようだ。困惑を表情に残したまま、進むしかなかった。むやみに抵抗しないほうがいい。それが雰囲気からも伝わってきたからだ。緊張と不安感で声がなかなか出なかった。自分はなんてことない日本人なんだと気づかされているようだ。二人の高校生の後ろに大人がぞろぞろとついてくる。暗い道に徐々に足音だけが聞こえるようになった。周囲は磨かれた石でできているようだが色はわからなかった。


しばらく歩くと、奥に光が見える。その正体は、四面白の大理石に囲われた部屋と、不相応なほど煌びやに飾り付けられたシャンデリアに、赤と金色の晩餐会スタイルの机、椅子。そして、見知ったクラスメイト達の姿だった。机は横に十数メートルは伸びている。俺たちはここで座って待つしかないらしい。


「お、おお二人か、取り敢えず…ここに座れってよ」


さっきまで居た堪れないように手前側に座っていた善野篝(ぜんのかがり)がこちらに気づき、指を刺しながらそう言った。周りを見渡すと、テーブルの向こう側に立花醇たちばなじゅんがいる。見渡してみると、なるほど、文化祭用意で学校に残っていた人だけのようだ。その他十人ほどがここに呼び寄せられたと。しかし、もれなく深刻で不安に満ちた表情を浮かべている。先ほど俺たちを連れて来た奴等は、よく見ると黒紫色のローブと同色の顔まで覆う長く上に尖った帽子、そして幾何学模様の描かれた手袋を身につけている。あとは、プレートアーマーの兵士が数人来た口ともう一つの出入り口に立っているだけだ。とりあえず言われたように篝の隣に座る。


「はぁ」


ため息をつい吐いたが、気持ちが安らぐはずはない。むしろこれからの不安を表していた。


「なぜ私達はここに呼ばれたのでしょうか?」


角に立つ兵士に聞いてみる。


「まもなく陛下が来られます。それまでお待ちください」


だ、そうだ。ここに座っているしかないか。鳳雛の方を見遣るとなんとも言えない顔をしている。


「どういうことなんですか」


右奥で行儀良く座っていた秋雨霖(あきさめりん)が勢いよく立ち上がって言う。全員の心情だった。彼女についてだが、少し小柄で髪はボブで綺麗にまとめられている。名前と容姿に反して正義感が強く、割ときっぱりとした性格だ。生徒会に立候補しなかったのが不思議なくらいである。そんな彼女の質問には、依然として返答はない。


「待つしかないな。どうしようもない」

「会長、そんなに早く引き下がらないでよ」


彼女はかなり不満げだ。ただ、打つ手はないという事は頭ではわかっているようだ。これ以上詰めてこない。

沈黙が続く。頭の中に様々な考察が巡るが、あまりにも手掛かりがなさすぎる。不可解は過ぎると恐怖と言ったが、それは今もなお、いやより一層感じている。


痛いくらいの沈黙は、しばらく続くと思われた、しかし、それはすぐに破られることになった。


「陛下がご入室なされます!」


乗用車一台通れるほどの出入口から現れたのは、純白のマントと赤いローブに身を包んだ冠をかぶる老人だった。空気が一瞬にして凍りつく。それはこの老人から醸し出ている”威厳”の所為なのか。であろうがなかろうが、俺は身動きが取れなかった。




















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