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私を嫌い、王家を裏切った聖騎士が、愛を囁いてくるまで  作者: 江本マシメサ
第三章 王女は最終決戦に挑む

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憎しみ

「私が? いったい何を……?」

「この顔に、見覚えはない? よーく見てみて」


 レイナートよりも先に、気づいてしまった。

 以前、アスマン院長が誰かに似ていると感じていたのを思い出す。

 彼は、レイナートの父親――私にとっては叔父にそっくりだったのだ。

 ピンときていないレイナートに耳打ちする。


「レイナート、彼はあなたのお父様の若い頃にそっくりです」

「父に!?」


 私が幼い頃、叔父は毎日王宮にやってきて、私を可愛がってくれた。そんな事情があったので、記憶に残っていたのだろう。

 一方で、レイナートが幼いころの叔父は、ほとんど家に帰ってきていなかったらしい。


「当時は、母と不仲だったと聞いていました」


 それゆえに、レイナートの母は枢機卿との不貞に走ってしまったのか。その辺の事情はよくわからない。


「父に隠し子がいたなんて」

「俺も、母親から聞かされたときは驚いたよ。でも――」


 アスマン院長の母親が亡くなったあと、彼は父親である叔父を訪ねたらしい。けれども、会えなかったという。


「そのとき、父は不在でね。代わりに執事と夫人が応対してね。俺を汚らわしいものを見る目で、追い出したんだ」


 後日、叔父との面会も叶ったようだが、反応は酷いものだったという。


「金の無心かと思って、俺に金貨を投げつけてきたんだ。これほど、惨めだと思った日はなかった」


 アスマン院長はレイナートの両親に対し、猛烈な憎しみを抱いたらしい。

 その後、大聖教会に身柄を引き取られたのだという。


「ある日、衝撃的な光景を見たんだよ」


 奉仕活動を行う中で、ある日王族のパレードを目にした。


「そこでね、君らを見つけたんだ。観衆のひとりが、解説してくれたんだよ。ヴィヴィア王女と、王弟のご子息であるレイナート様だって」


 多くの人たちに愛され、恵まれた環境で育ったレイナートが、これ以上なく輝き満ち足りているように見えたらしい。


「本来ならば、あの場にいたのは俺だったかもしれないのに!」


 あの場所から、引きずり落としてやる――!

 アスマン院長は心の中で誓ったらしい。

 そのためには、大聖教会で確固たる地位を得なくてはならない。

 どうすればいいのかと考える中で、屍食鬼についての情報を得たのだという。


「歓喜したよ。人知れず、命を闇に葬る方法があるんだから。あの憎たらしい夫婦も、簡単に屍食鬼にできたんだ」

「ということは、父と母は、あなたが屍食鬼にしたのですか?」

「そうだよ」


 レイナートの両親の死は、事故ではなかった。彼はそれをずっとひとりで抱えていたのだ。

 私は知らずに、彼が変わってしまったことだけをひたすら嘆いていた。

 なんて愚かだったのか。嫌われて当然である。

 レイナートの背中から、これまでにない怒りを感じた。

 咄嗟に、声をかける。


「レイナート」

「――っ!」


 レイナートの肩がハッと震え、振り返った。自らが怒りに支配されていることに気づいたのだろう。こくりと頷く。


「あなたは、両親の子である私を恨んでいたようですが、私は父の子ではありません」

「なんだと?」

「母が不貞をし、生まれた子どもだったのです。それを知っていたようで、父は私に対し、冷たい態度を貫いていました」


 レイナートは叔父の血を引いていない。王家の血筋ではないのだ。

 さらに、レイナートの王位継承権は叔父が早々に返上していたという。

 

「だから、お前は大聖教会にやってきた、というわけだったのか」

「ええ」

「でも、将来枢機卿になって、恋い焦がれていたヴィヴィア王女と結婚するつもりだったんだろう?」

「それは違います」

「どうだか!」


 レイナートとアスマン院長はにらみ合い、ぴりついた空気が流れる。

 おそらく、部屋の中は瘴気で満たされていることだろう。私はぐったりしているスノー・ワイトを抱きしめ、後退した。


 アスマン院長は何か思いだしたのか、ニヤリとほくそ笑む。


「実はね、君の両親は数年もの間、屍食鬼として生きていたんだよ」


 化け物のまま生き続けていたレイナートの両親の最期は、信じがたいものだった。


「彼らにはひと仕事してもらった。国王夫婦を、襲撃させたんだ!」


 怒りがこみ上げる。なんてことをしてくれたのか。

 両親を襲った屍食鬼は、騎士たちに討伐されたと聞いたが……。


「まさか、王族同士で殺し合っていたとはね。なんとも傑作だ!」


 レイナートは剣を抜き、アスマン院長に斬りかかろうとした。しかしながら、修道女たちが押しかけてきたので、一撃を与えることができなかったのだ。

 彼女らはアスマン院長の前に立ち、腕を大きく広げる。まるで、身を挺して守るかのような態度でいた。


「彼女らはいったい……?」


 なんだか様子がおかしい。目が虚ろで、自分の意思がないように思えた。


「ここにいるのは、新しい屍食鬼なんだよ。これまでは肌が赤黒く変色して、口も裂けるという、おぞましい見た目だったんだ。けれどもこの新しい屍食鬼は、生きている人みたいだろう?」

「聖水に新たな効力を加えたということですか?」

「そうだね。この屍食鬼は見た目が素晴らしいだけでなく、意のままに操ることができるんだよ」


 これまでの屍食鬼は牢屋に閉じ込め、人がいる場に放って襲わせることしかできなかった。けれどもこの屍食鬼は、人の指示を聞くことを可能としているらしい。


「ひとまず、レイナート、お前はここで死んでもらう。ヴィヴィア王女は、彼女たちと同じように、屍食鬼になってもらおう」

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