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私を嫌い、王家を裏切った聖騎士が、愛を囁いてくるまで  作者: 江本マシメサ
第三章 王女は最終決戦に挑む

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裏切り

 なんてことなのか! 屍食鬼の襲撃で負傷した患者のために、身を粉にしながら治療を行っていた彼が、聖水の用途を正しく理解していたなんて。


「ど、どうしてあなたが、そのようなことを?」

「そんなの簡単だよ。大聖教会では、昔からそうやってきていたからだ。不思議な水を飲むと、人は屍食鬼になる。それで人を襲わせ、さらなる屍食鬼を作り出す。人々は屍食鬼を恐れ、大聖教会へ行き、心の安寧を求める。今は、聖水を欲し、積極的に寄付してくれる。大聖教会は財を無限にかき集めることができるんだ。実に効率的だろう?」


 話を聞いているだけで、胃がムカムカしてくる。突然の裏切りに、怒りと悲しみ、憤りなどの負の感情が一気にこみ上げてきた。


 腕に抱いていたスノー・ワイトがぐったりしているのに気づく。私が怒りの感情を抱いたせいで、こうなってしまったのか。


「スノー・ワイト、申し訳ありません」

『あたしは大丈夫だから、話を続けて』

「え、ええ」


 私は震える声で、アスマン院長に問いかけた。


「アスマン院長はずっと、治療をするふりをして、屍食鬼を作りだしていたのですね?」

「もちろんだよ。そうしていたら、大聖教会は俺に価値を見いだす。そんな愚かな奴らを、俺は嘲笑っていた」

「愚か? 嘲笑う? あなたは、屍食鬼を作り出すことが悪だと、理解していますのね」

「それはもちろん。屍食鬼のように、自分の考えや意思を奪われているわけではないからね」


 母親を亡くし、頼る者がいない彼に、大聖教会側が悪事を唆していたに違いない。身よりがなかったアスマン院長にとって、保護してくれた大聖教会のやっていた行為に反対などできなかったのだろう。

 けれども、その行為は許されるものではない。


「アスマン院長、ここからでていきましょう。国王陛下のもとで、罪のすべてを告白するのです。そうすれば――」

「王家の手助けなんて、今更必要ない。この先、それらを超越した存在になるのだから」

「王家を超越した存在? まさか教皇にでもなるとおっしゃっていますの!?」

「ああ、そうだ」


 教皇の復活、それは現在の枢機卿の野望だ。なぜそれを、彼が目指しているのか。


「俺が教皇となった暁には、君は聖女として隣に立ってもらう。不幸な出来事で王家が滅びても、王女だった君がいたら、国民たちも支持するだろうからね」

「なっ!?」

「大人しく従うんだ」


 そう言って、アスマン院長はこちらへ接近する。腕を取られそうになった瞬間、私は叫んだ。


「レイナート!!」

「叫んでも無駄だ。ここは不可侵の結界が――」


 彼が言いかけたそのとき、床に魔法陣が浮かび上がる。

 魔法陣を警戒し、アスマン院長は後退していく。


「な、なんだ、それは!?」


 その問いに答えるかのように、魔法陣に人影が浮かんでくる。部屋の中は光に包まれ、治まったのと同時に、レイナートが下り立った。


「そろそろ呼び出されるのではないかと思っていました」


 突然の召喚であったが、レイナートは平然としていた。私を庇うように立ち、アスマン院長から守ってくれる。


「レイナート、彼、アスマン院長は聖水の効力について、知っていましたの!」

「なるほど。アスマン院長、やはり、あなたが黒幕でしたか」


 どうやらレイナートは、アスマン院長を疑っていたらしい。


「証拠は?」

「どこにもありませんでしたが、逆にそれが怪しいと思った点なのですよ」


 なんでも枢機卿に近しい者たちは皆、汚職に手を染めていたらしい。けれども、アスマン院長だけは何も見つからなかった。


「巧妙に隠していたとしか思えなかったんです」


 レイナートの読みは当たっているのだろう。アスマン院長は唇を噛み、こちらをジロリと睨みつけている。


「枢機卿に聖水の使い方を勧めたのも、あなたですね?」

「それは、まあ、そうだね。これまでの大聖教会のやり方は非効率的だったから」


 滑落事故を起こす者たちが多いフランツ・デールで人々を誘拐し、聖水を飲ませて屍食鬼化させる。それがこれまでのやり方だった。

 それでは教皇の復活など、はるかに遠くなる。聖水を世に知らしめることを早め、屍食鬼の数を増やしたら、教皇の復活はすぐ目の前になる。

 アスマン院長は枢機卿を唆し、大聖教会の計画を早めたのだという。

 悪事のすべてを枢機卿に押しつけ、自らが教皇になる。王家も滅ぼし、確固たる地位を手に入れるのがアスマン院長が想定していたものだったらしい。

 呆れて言葉もでてこない。


「そもそも、あなたはなぜ、このような行為を働いたのです?」

「それは簡単だよ。俺を見放した奴らや、俺が手にするはずだったものを苦労もなく享受していた奴が、許せなかったからだ。いつか教皇になって、見下ろしてやる。そんな未来を見るために、手段は選ばなかったんだ」


 見放した者たちというのは、アスマン院長を捨てた親族だろう。

 もうひとつ、彼が手にするはずだったものを享受していた者とは?

 レイナートも疑問に思ったのだろう。アスマン院長に問いかけていた。


「あなたが得るはずだったものを得ていた者とは、誰なのです?」


 アスマン院長はまっすぐに指をさす。指先はレイナートのほうに向けられていた。

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