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私を嫌い、王家を裏切った聖騎士が、愛を囁いてくるまで  作者: 江本マシメサ
第三章 王女は最終決戦に挑む

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交渉

 大聖教会は難民に聖水を飲ませ、屍食鬼化させようとした。

 一方で、アラビダ帝国側は難民に変装させた兵士を大量に送り込み、侵攻開始するつもりだった。

 これまで例にない、とんでもない泥仕合が行われようとしていたのだ。

 思わず頭を抱え込んでしまう。


「一刻も早く、兵士たちを撤退させたほうがいいかと」

「なぜだ?」

「大聖教会は難民たちを利用し、最終的に命を奪うつもりです」

「なんだと!?」


 聖水を口にしたら屍食鬼化するという情報は、開示しないつもりのようだ。

 この辺は慎重に話を進める必要があるのだろう。


「早急に国王陛下に事態を報告し、アラビダ帝国に外交官を送り込む必要がありそうです」


 アラビダ帝国は千名の兵士を失ってしまうかもしれないのだ。そんな事実を突きつけられたサリー皇女は唇が紫色に染まり、ガタガタと震えていた。


「それにしても、アラビダ帝国はなぜあなたを送り込んだのでしょうか? 正直、密偵に向いているとは思えないのですが」


 たしかに、レイナートの言うとおりである。密偵を行うならば、演技力と口の堅さが必要だ。しかしながら彼女には、そのどちらもないように思える。


「私が選ばれたのは、魔法に精通していたからだ。聖水はきっと魔法を使って製造されているだろうと、アラビダ帝国の魔法使いが予想していたから」

「魔法の知識があって、サリー皇女の身代わりを務められそうなのは、あなただけだった、というわけですね?」


 レイナートの言葉に、サリー皇女は頷いた。


「ひとまず、これから国王陛下へ謁見してもらいます」

「今から、国王に会うのか?」

「ええ。一刻を争うような緊急事態ですので」


 サリー皇女の表情は冴えないままである。この騒動が上手く収まるのか、心配なのかもしれない。


「無理だ、今更動いても。もう、誰にも止められない」

「いいえ、止められます。こちらには、とっておきの切り札がありますから」

「聖水を大量に提供するとか、作り方を教えるとか、そういうものでないと、皇帝陛下は納得しない」

「そのどちらよりも、すごいものです」


 それは、屍食鬼化を治す魔法薬のことだろう。レイナートは「あとで教えます」と言って、会話を中断させる。


「とにかく、陛下のもとへ行きましょう」


 どうやって大聖教会を抜け出すのか、聞く前にレイナートは懐から呪文が書かれた札を取り出す。あれは、魔法札スクロールだ。


「転移魔法で行きます。皆、こちらへ」


 私はスノー・ワイトを抱き上げ、レイナートのもとへ行く。サリー皇女も恐る恐るといった感じでやってきた。


「いきますよ」


 レイナートが魔法札を破ると、景色が一瞬で変わる。揃って兄の執務室に下りたった。

 兄はまだ仕事をしていて、突然現れた私たちに驚いていた。


「こんな時間にどうしたんだ?」

「それが――」


 レイナートが事情を話し始める。

 とんでもない報告を聞いた兄はすぐに行動を起こした。外交官に完成した魔法薬を託し、これから皇帝と交渉するという。

 上手くいきますようにと祈るばかりだ。


 翌日は聖女の授与式が行われた。寝不足で、正直記憶があまり残っていない。

 聖女のドレスが贈られ、大聖教会にとって特別な白い装いをまとうことを許可された。

 ぼんやりしていたら、最後に枢機卿から手を握られてしまう。


「今後、儂の隣に立つ日を、楽しみにしている」


 ぞわっと悪寒が走りぬけ、眠気が一気に吹き飛んだ。

 レイナートがやってきて、枢機卿の手を引き離してくれた。硬直していて動けなかったので、心の中で彼に感謝する。


 それからというもの、私はサリー皇女と共に過ごし、アラビダ帝国からの連絡を待った。

 一週間後――報告が届くよりも先に、大聖教会である騒動が起きる。

 難民たちが大聖教会を抜け出し、ひとり残らずアラビダ帝国へ戻ってしまったのだという。

 千名もの難民だ。国境に配置された騎士たちだけでは止められなかったらしい。

 どうやら、アラビダ帝国との交渉は上手くいったようだ。ホッと胸をなで下ろす。

 その翌日に、やっと王宮からの知らせが届いた。なんとかアラビダ帝国の皇帝との交渉は上手くいったらしい。

 作戦は次の段階へ移る。

  サリー皇女も大聖教会から忽然と姿を消した――ように思わせて、王宮に逃げ込んでいた。義姉に彼女の身柄を任せてあるのだ。


 何もかも上手くいったので安堵していたのに、レイナートは険しい表情でいた。


「あの、レイナート、どうかなさいましたの?」

「いえ、大聖教会はおそらく、何か報復的な行動を起こすだろうなと思いまして」


 まだ何をするのか、読めないという。


「この一件は大聖教会の名誉を傷付けました。きっと、それらを挽回するような、とんでもないことをするに違いありません」


 ただ、アラビダ帝国に対して何か起こす可能性は極めて低いという。


「怖いですね。今のところ、想像できないです」

「ええ」


 不安に思う私たちのもとに、とんでもない情報が届く。

 それは大聖教会が発行した、レイナートの顔が描かれた指名手配書であった。

 罪状は横領、詐欺、強盗、婦女暴行、食い逃げとあった。


「……こうきましたか」


 レイナートは眉間に深い皺を刻みつつ、呆れたように呟いたのだった。  

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