表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私を嫌い、王家を裏切った聖騎士が、愛を囁いてくるまで  作者: 江本マシメサ
第三章 王女は最終決戦に挑む

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/54

太陽の子

 サリー皇女は部屋に一歩足を踏み入れた途端、驚いたような反応を取る。さらに、スノー・ワイトを見て、ハッとなった。


「お前、猫妖精フェアリ・ケッタ、なのか!?」


 鈴の鳴るような愛らしい声で呟いた。スノー・ワイトもサリー皇女を見るなり、ギョッとするような反応を返す。


『ちょっと、なんでこんなところにダークエルフがいるのよ!』

「ダークエルフ?」


 サリー皇女は気まずそうな表情で顔を逸らす。


『間違いないわ。この気配は絶対にダークエルフなのよ』


 スノー・ワイトがそう指摘すると、サリー皇女は覚悟を決めた表情を浮かべる。そして、頭から被せていた大判の布を取り外した。

 布の下に隠れていたのは、短剣のように尖った耳である。ただ、絵画などに残っているダークエルフよりも耳が短い。半分以下であった。


「あなたは、もしかして半分ダークエルフで、半分人の血が流れていますの?」


 その質問に、サリー皇女は深々と頷いた。

 なんとも驚いた。ダークハーフエルフというわけだ。

 エルフは妖精族なので、スノー・ワイトをひと目見るなり普通の猫でないと気づいたのだろう。


「それにしても、どうしてエルフ族がアラビダ帝国に?」

「……」


 一度口を開いたが、すぐにきつく閉ざされる。

 サリー皇女は盗聴を警戒しているようだ。何か事情を抱えているのだろう。


「ご安心ください。この部屋は周囲に情報が漏れないよう、このスノー・ワイトが結界を展開しております」

「なぜ、そのようなことをしている?」

「それは――」


 レイナートを振り返る。彼は事情を説明しても問題ないとばかりに、頷いてくれた。


「わたくしたちは、大聖教会の秘密を探るために、ここに潜伏しているからですわ」

「お前たちも!?」


 たちも、ということは、サリー皇女も何か探りを入れるためにやってきた、というわけである。

 サリー皇女はうっかり言ってしまったので、慌てて口を塞いでいたがもう遅い。

 レイナートは相手の秘密を握ったので、事情を打ち明けてもいいと判断したのだろう。


「サリー皇女、わたくしたちはもしかしたら、あなたに何かしらの協力できるかもしれません。よろしかったら、事情をお話しいただけないでしょうか?」


 サリー皇女は迷っているようだ。それも無理はないだろう。おそらく、秘密厳守で任務を命じられていただろうから。

 けれどもここで私たちの申し出を断ったら、サリー皇女はダークハーフエルフである上に何かを探るために大聖教会にやってきた、という情報が知られている状態となる。それは彼女にとって痛手に違いない。


『ねえあなた、あたしみたいな妖精族がついている時点で、この子たちが悪人ではないってわかるでしょう?』

「それは……そうだな」


 どういう意味なのか。思わずレイナートのほうを見る。彼は視線だけで察し、解説してくれた。


「妖精族の多くは悪意に敏感なんです。悪人の傍にはいられないようですよ」

「そう、でしたのね」


 悪意など負の感情を抱く人々には、瘴気と呼ばれる黒い靄が漂っているらしい。


『瘴気というのは、人の悪意から生まれるものなの』


 そんな瘴気は人の目には見えないものの、妖精族にはハッキリ見えるのだという。


「でしたら、枢機卿は瘴気で真っ黒なのでは?」

「いいや、そんなもんではない。この大聖教会自体がどこもかしこも瘴気だらけなんだ。誰が多く漂わせているとか、そういうのもわからんくらいの量だ」

「まあ、そうでしたの?」


 念のためスノー・ワイトにも確認したが、間違いないと頷いている。


「スノー・ワイトがたまに姿を消していたのは、もしかして瘴気に耐えられなくなっていたからですの?」

『ええ、まあ、そうね』

「これまで大丈夫でしたの?」

『大丈夫ではないけれど、あなたの傍にいたら、楽になっていたのよ』


 それはいったいどういうことなのか。首を傾げていたら、サリー皇女もスノー・ワイトの言葉に同意を示す。


「それは私も驚いた」


 人々は誰しも瘴気を抱えている。怒り、悲しみ、恨み、妬み、苦しみといった、負の感情を抱かない者はいないから。

 けれどもこの部屋は瘴気がほとんどないのだという。その理由について、スノー・ワイトが解説してくれた。


『この子、瘴気を遠ざけられるの。珍しいでしょう?』

「まさか、〝太陽の子〟だというのか?」

『ご名答』


 太陽の子、というのはいったいなんのことなのか。初めて聞く言葉である。

 レイナートもわからないようで、珍しく戸惑っているようだった。


「スノー・ワイト、太陽の子というのはなんですの?」

『生まれながらに持つ、祝福みたいなものかしら? 天性の明るさ、前向きさ、強さにより、瘴気を抱えている人々を救う力があるの』


 ただ、瘴気を祓う力があるわけではないらしい。


『瘴気を打ち消すのは、喜び、希望、愛、好奇心などの正の感情だけなの。太陽の子の傍にいる人たちは、しだいに明るさを取り戻して、負の感情に囚われた状況から抜け出してしまうのね』


 ここで、スノー・ワイトが姿を現した本当の理由が明らかにされる。


『長年瘴気だらけだった大聖教会で過ごすあの子が、そろそろ限界だって気づいたの。だから、あなたの力を借りようと思ったわけ』


 私と再会したときのレイナートは、瘴気の影響で精神が汚染されていたのだという。


『記憶のなかの彼とは、別人みたいだったでしょう?』

「ええ」


 そういう状態だったため、もしかしたら太陽の子である私に素直に助けを求められないかもしれないと危惧していたようだ。


『それで、あたしが一肌脱ごうって思ったわけ』


 レイナートと私の関係を取り持つために、スノー・ワイトは千年ぶりに現れたのだと語っていた。


 これまで大人しく話を聞いていたサリー皇女が顔を上げ、覚悟を口にした。


「太陽の子がいるのであれば、心強い。話を聞いてくれないだろうか?」

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ