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私を嫌い、王家を裏切った聖騎士が、愛を囁いてくるまで  作者: 江本マシメサ
第三章 王女は最終決戦に挑む

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報告

 それから私は素知らぬ顔で救護院に戻り、スノー・ワイトと共にアスマン院長に報告に行く。


「申し訳ありません。魔女の住み処は発見できませんでした」

「そう」

「しかしながら、魔女の結界らしき場所はわかったんです」


 アスマン院長は身を乗り出して話を聞く。

 上手く話せるかドキドキしていた。だが、視界の端っこにいたスノー・ワイトが、大丈夫だと勇気づけるような目で見つめているのに気づく。

 きっと上手く言える。そう自らを奮い立たせつつ、話し始めた。


「ある場所に足を踏み入れた瞬間、なんだか息苦しくなって、意識もぼんやりしてきて、まるで夢の中を歩いているような不思議な感覚でした。今振り返ると、あれが魔女の結界の中だったのではと思いまして」

「なるほど」


 聖石のペンダントに追跡機能でもついていたら、私の足取りはバレてしまう。

 魔女の住み処は他人がかけた魔法を無効化とする。そのため、追跡には引っかからないだろう。

 ただ、相手側は追跡が途切れたのを気にするはずだ。

 そこで魔女の結界の話をして、不思議な空間の中にいたことにしたのだ。


「ハッと意識が戻ったときには、救護院に帰ってきていたんです」

「そういうわけだったのか。他に、何か気づいたことはあるかい?」

「いいえ、何も。なんだか意識がおぼろげで、体験したものが本当に現実だったのか、ということさえ疑ってしまうくらいで」

「わかった。大変な任務を任せてしまい、申し訳なかったね」

「いえ、お気になさらず」


 今日、見聞きしたことは誰にも打ち明けるつもりはない。

 アスマン院長を仲間に引き入れたらいいのではないか、なんて意見が魔女から上がったものの、レイナートが却下した。

 アスマン院長を通して、こちら側の調査が大聖教会に露見したら困る。用心には用心を重ねて行動したいらしい。


「あの、聖石のペンダントをお返しします」


 差し出されたペンダントを、アスマン院長は受け取らなかった。


「それは君が持っていてくれ」

「しかし、このような貴重なお品を持っているわけにはいきません」

「いいんだ。君は一度屍食鬼に襲撃されているし、不安だろう? それに、王女さまをこんなところで奉仕活動させるということに、心が痛んでいたんだ。罪滅ぼしだと思って、受け取ってほしい」


 模造品である聖石をぎゅっと握りしめ、深々と会釈する。

 そのまま退室した。

 部屋に戻って扉を閉める。鍵をかけた瞬間、ため息が零れた。


「スノー・ワイト、わたくし、上手く説明できていたでしょうか?」

『ええ。あなたの演技への不安が、魔女の結界への恐怖に見えていたわ』

「それって、ぜんぜんできていなかった、と言ってもいいのでは?」

『結果がよければ、すべてよしなのよ』


 持ち帰った聖石のペンダントは、枕の下に忍ばせておく。


「聖石のペンダントは、レイナートの予想通り、わたくしが持つことになりましたね」

『そこまでわかるのがすごいわ』


 レイナートは断言していたのだ。アスマン院長は聖石のペンダントを受け取らないだろう、と。その理由も、予想していた通りである。


 ひとまず、計画通りに進んだ。スノー・ワイトが言っていたとおり、終わりがよければすべてよし、ということにしておこう。


『そういえばこの前、食堂で修道士たちが〝アスマン院長派か、レイナート派か〟で盛り上がっていたわ』

「あなた、人の話に聞き耳なんか立てて、はしたないですわ」

『だって、退屈だったんだもの』


 呆れつつも、結果が気になる。もちろん、レイナート派が圧勝だろうと思っていたが違った。圧倒的にアスマン院長が人気だったらしい。


「そんな……! 王都の社交界では、レイナートが一番人気でしたのに!」

『場所が変わったら、男の評価も変わるのよ。アスマン院長は優しいから』

「レイナートも優しいお方です!」

『いいえ、ヴィヴィア。あの子の場合、優しいのはあなただけなのよ』

「そ、そうですの?」

『やだ、気づいてなかったのね。あの子、あなた以外の人間には優しさどころか、隙すら欠片も見せないわよ』


 まさか、レイナートの優しさが特別なものだったなんて。

 猛烈に照れてしまう。そんな私を見て、スノー・ワイトはにんまりと笑った。


『良かったわねえ、仲直りできて』

「え、ええ」


 彼に対する誤解が解けて、本当によかった。

 できたら早い段階で打ち明けてほしかったが、五年前の私では彼にかける言葉すら見つからなかったのだろう。

 レイナートがいない間、私は成長できたように思える。だから、仲直りは今でよかったのかもしれない。


 ◇◇◇


 それからというもの、私は救護院での情報収集に努める。

 なるべくたくさんの人たちと会話し、大聖教会と屍食鬼について調べていった。

 ここ最近、屍食鬼の数が目に見えて減っているらしい。

 いったいどういうことなのか。

 レイナートは大聖教会側が何かしようとしているのではないか、と推測していた。

 そんな彼の言葉は見事に的中する。

 王都から私宛てに、一通の手紙が届いた。

 それは、結婚式の招待状であった。最初はアデリッサ様のものだと思っていたが、違った。

 結婚するのは枢機卿で、お相手はアラビダ帝国のサリー皇女だった。

 なんてことかと、天井を仰ぐ。

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